放射性崩壊により発生する熱エネルギー。原子炉の中で核分裂によって生じた原子は、多くの場合不安定で、放射線を出して他の種類の原子に転換する。その際に発生した放射線は、最終的には熱エネルギーとなる。この熱エネルギーを崩壊熱とよぶ。原子炉が運転を停止(未臨界状態)した場合、核分裂は止まり、核分裂により発生する熱も止まるが、炉内の放射線による熱、つまり崩壊熱は発生し続ける。運転停止直後の崩壊熱は運転時の熱出力の7%程度であるが、以後しだいに減少する。減少の仕方は、炉内の燃料の経歴(燃焼の程度、燃やし方)などにより若干異なる。崩壊熱が存在するため、原子炉は運転を停止しても炉心を冷却し続けなければならない。2011年(平成23)3月の東北地方太平洋沖地震の際に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故では、地震・津波により電源を喪失したため冷却水のポンプを動かせなくなり、あらかじめ用意されていた非常用の電源不要の冷却システムもしだいに止まり、炉内の冷却水が失われ、炉心の露出、温度上昇、水素発生、炉心溶融、水素爆発などのシビアアクシデントが発生し、大量の放射性物質が環境中に放出されたことにより大災害を引き起こした。もし原子力発電所がほかの熱機関のように停止すると同時に熱の発生が止まるならば、つまり崩壊熱が発生しないならば、このような事故はなかったといえよう。
[舘野 淳]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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