不安定な原子核(放射性同位体)は自然にα線,β線,あるいはγ線などの放射線を放出してより安定な原子核へ変化する。これを放射性崩壊という。崩壊の種類としてはα崩壊,β崩壊,γ崩壊が古くからよく知られている。α線の放出を伴うα崩壊では,原子番号が2,質量数が4だけ減少する。β崩壊には,電子(e⁻)と反ニュートリノ(ν)が放出されて質量数は変化しないが,原子番号が1だけ増える場合(β⁻崩壊)と,陽電子(e⁺)とニュートリノ(ν)が放出され原子番号が1だけ減る場合(β⁺崩壊)とがある。また広くは軌道電子を吸収する電子捕獲もβ崩壊に含め,このときも原子番号は1だけ減少し,陽電子崩壊と共存する。励起状態にある原子核がより低い状態へγ線の放出を伴って変化する過程がγ崩壊で,この場合,原子核の原子番号と質量数に変化は生じない。またγ線放出の代りに軌道電子をたたき出す内部転換もγ崩壊の一種とみなすことができる。
どのような崩壊が起こるかは,放射性の核種によりそれぞれ決まっており,いくつかの崩壊モードが共存するときは,その割合が一定している。α崩壊,β崩壊後の生成核は基底状態であることもあるが,励起状態にあるときは,γ線の放出によるγ崩壊が続く。崩壊の確率,あるいは速度はそれぞれの核種に固有の値があり,崩壊定数と呼ばれている。放射能の半減期,または寿命はこの定数に反比例する量である。崩壊する核を親核,そして生成される核を娘核(じようかく)/(むすめかく)と呼ぶ。娘核では一般には複数の準位が可能であり,各準位への比率は分枝比と呼ばれる。娘核が不安定核である場合はそれが親核となり崩壊は連鎖的に続く。ウラン系列などの放射性崩壊系列はその例である。放射性崩壊する核種としては系列に属する重い核種などの天然放射性核種が存在するほか,原子炉,粒子加速器などで人工的に作られる人工放射性核種がある。また重い核種の中には自発的な核分裂をする核があるが,このような自発核分裂も放射性崩壊の一種とみることができよう。
歴史的には1896年のA.H.ベクレルによるウランからの放射線の発見の後,α線,β線の性質の研究を経て,1903年にE.ラザフォードとF.ソディによって初めて放射性崩壊の考えが提唱された。これは放射線の放出が,放射性物質のまったく新しい物質への変化に伴うものであることを定式化した。さらに崩壊系列などの多くの放射性物質の確認と,崩壊の際の変位則の発見で,放射性崩壊の本質は究明されていき,11年のラザフォードによる有核原子模型,N.H.D.ボーアの原子の量子模型のなかで,放射性崩壊の現象が真に理解されるようになった。
α崩壊とは前述したように原子核がα線を放出して崩壊するものである。α線は陽子2個と中性子2個が結合したHeの原子核(α粒子)のビームであり,1個のα粒子の放出,すなわちα崩壊に伴って原子核は原子番号が2,質量数が4だけ少ない原子核に変化する。
α崩壊を量子論的に説明することは1928年にG.ガモフらによって行われた。原子核中に,ある確率で存在するα粒子は,核と同じ正の電荷を帯びているため,核外に出るときはクーロン力の斥力ポテンシャルをのり越えなければならない。これは古典力学では不可能と思われたが,量子論では粒子の波動性のために,このポテンシャル障壁をしみ出して通過することができる(トンネル効果)。これがα粒子の放出である。理論計算を行うと,それまでなぞであった崩壊定数λと空気中のα線の飛程Rの関係が,各崩壊系列に固有の定数をA,Bとして,logeλ=A+B logeRで与えられるというガイガー=ヌッタルの法則を定性的に説明することができた。
鉛より原子番号の大きい元素ではα崩壊する核種が多いほか,中重核においても安定線から中性子の非常に少ないほうにはずれた核種には,α崩壊するものがみられる。
α崩壊の際のα粒子が単色のエネルギースペクトルであるのに対し,β線のスペクトルが連続的であることはしばらくの間なぞであった。すなわち電子だけが放出されるとするとエネルギー保存則が成立しないように考えられていたのであるが,これに対してW.パウリは1930年にニュートリノ(ν)を導入することで,この矛盾が救えることを示した。つまり,β崩壊では電子のほかに,電荷をもたない中性の軽い粒子,ニュートリノが同時に放出されるために,電子はそれとエネルギーをわかち合ってしまうのである。原子核を構成しているのが陽子(p)と中性子(n)であることを考えると,n→p+e⁻+νという過程が基礎となって,(1)β⁻崩壊(zA→z+1B+e⁻+ν),(2)β⁺崩壊(zA→z-1B+e⁺+ν),(3)軌道電子捕獲(zA+e⁻→z-1B+ν)などの過程が起こると考えられる。これらの過程を引き起こす力は,核内で支配的である核力とは異なり,弱い相互作用と呼ばれるものである。そのためにβ崩壊はゆっくりと起こる。その寿命は崩壊エネルギーに大きく依存し,もっともエネルギーの大きなもので数十ミリ秒,通常は時間~年の間にある。
β崩壊の際にパリティ保存が破れているかもしれないという,物理学の発展のうえで画期的な考え方が,1956年にT.D.リーとC.N.ヤンによって提案され,翌年,C.S.ウーにより,スピンの向きのそろった60Coからのβ線の角分布を調べることにより実証された。近年,この性質を積極的に利用して偏極β放射核は核磁気共鳴などのミクロ磁気プローブとしてつかわれている。不安定核の多くはβ崩壊を行うが,安定線の中性子過多側ではβ⁻崩壊を,中性子不足側ではβ⁺崩壊と軌道電子捕獲をし,安定線から離れるほど崩壊エネルギーが大きくなるので崩壊定数が大きくなる傾向にある。
γ崩壊を引き起こすのは電磁相互作用であり,始状態と終状態のエネルギー差がγ線のエネルギーとなって放射される。核の状態は定まったスピンとパリティをもっているので,この相互作用を電磁波を多重極展開することにより分類すると,遷移の選択則が説明でき便利である。とくに電気双極子,磁気双極子,そして電気四重極子などの遷移が主要な遷移となっている。γ崩壊の寿命は10⁻15秒程度の非常に短いものから広い範囲に分布しているが,なかにはきわめて長いものもあり,このような準安定状態の原子核を核異性体または異性核と呼ぶ。状態の寿命はその構造と密接に結びついているので,γ崩壊の研究は原子核構造を知るうえで重要な役割を果たしてきた。なお,準安定状態の中にはα崩壊,β崩壊を起こすものもあり,このほか,陽子を放出する場合もたまにある。
執筆者:山崎 敏光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
放射性核種が自発的に粒子や電磁波を放出してほかの核種にかわる現象.放射性崩壊には多くの形式があるが,崩壊に伴って放出される放射線の種類に従って分類すると,α崩壊,β崩壊,軌道電子捕獲,核異性体転移,自発核分裂,遅延中性子放出などに大別することができる.[別用語参照]核崩壊
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…さらにこれまでに104番,105番,106番,107番までの元素がつくられているが,それらの名称については確定されていない(たとえば104番元素はクルチャトビウムおよびラザフォージウムなどという名称が主張されている)。
[放射性崩壊]
放射性核種は,自然にα線,β線,γ線などを放射して崩壊していくが,元素としての変化に関係してくるのはα線とβ線である。α線はα粒子(すなわちヘリウムの原子核)の粒子線であり,α粒子一つを放射すると,質量数4,原子番号2だけ小さい核種となる。…
※「放射性崩壊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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