鋼とは炭素量が2%以下の鉄合金の総称であることから、鉄を主成分とする永久磁石(合金)にも鋼の名称をつけてよぶことがある。KS鋼(1916)、MK鋼(1932)は磁石鋼の代表例である。前者は鉄‐炭素‐コバルト‐クロム‐タングステン合金であって、炭素を含有する鋼の特徴的な組織である硬いマルテンサイトを利用している。後者は炭素を必要としない鉄‐ニッケル‐アルミニウム合金で、鉄の微粒子(直径約20ナノメートル)がニッケル、アルミニウム中に析出した組織を利用している。それらの磁石鋼は当時としてはもっとも優れた永久磁石として用いられていた。しかし第二次世界大戦後から現在まで、鉄合金以外においても次々とより高性能な磁石が発見された。それらには鋼の名称はつけないし、新しく登場した鉄合金磁石(たとえば、鉄‐クロム‐コバルト磁石合金)でも鋼の名をつけて、たとえばクロム‐コバルト磁石鋼とよばれることはほとんどない。
なお、永久磁石材料以外にも習慣として「鋼」をつけてよばれる鉄系磁性合金がある。たとえば、電力用の変圧器、モーターなどの磁心材料として用いるケイ素鋼(鉄‐ケイ素合金)、磁石から発生する磁界の温度変化を調節するのに用いる整磁鋼(鉄‐ニッケル合金)である。
[本間基文]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
強い磁場をかけないと十分に磁化しないが,いったん磁化されると磁場を取り去っても容易にその磁性が失われない永久磁石用鋼.製造方法により二つのタイプに分けられる.その第一は鍛造磁石で,鍛造で成形したのち,焼入れし,オーステナイトからマルテンサイトへ格子変態させて高保磁力を生じさせるもので,焼入れ硬化型ともいう.安価なものには炭素鋼も使われるが,磁性が不安定で,高級なものでは合金鋼が用いられ,本多光太郎らのKS鋼(0.9質量% C-3質量% Cr-4質量% W-35質量% Co)はこの種の磁石鋼である.第二のタイプは鋳造磁石で,永久磁石の90% を占める.合金元素を多量に含み,もろくて鍛造できないため,鋳物として製造し,金属間化合物の時効析出による効果を利用して,高い保磁力を生じさせるもので,析出硬化型ともよばれる.1931年に三島徳七が発明したMK鋼(10質量% Al-16質量% Ni-12質量% Co-6質量% Cu)は,その後改良が加えられ,磁石鋼として広く用いられている.アメリカではアルニコ磁石とよばれている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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