改訂新版 世界大百科事典 「年輪年代法」の意味・わかりやすい解説
年輪年代法 (ねんりんねんだいほう)
dendrochronology
樹木の年輪による年代測定法。樹木年代法ともいう。毎年形成される樹木の年輪は,年々の生育環境の差異を反映して,その幅に広狭の差が生じる。多数の試料に基づいて,この年輪幅を過去にさかのぼって測定し,標準とする暦年の確定した年輪変動パターン(略して暦年標準パターン)が作成できれば,伐採年代不明の試料の年輪幅を測定し,その年輪パターンと合致する部分を暦年標準パターンのなかで見いだすことによって,その試料の年代の推定が可能になる。これが年輪年代法の原理である。この原理は,20世紀初頭,アメリカ合衆国の天文学者A.E.ダグラスが太陽の黒点活動と気候変化の周期性の関係を過去にさかのぼって追求する方法を探索中に発見したものである。その後,アメリカの南西部地方で研究が進められ,1937年にアリゾナ大学に年輪研究所が設置されて以来,現在にいたるまで世界の研究の中心となっている。またダグラスの研究に刺激されて,1930年以降ヨーロッパでも研究が開始され,現在では30ヵ国以上で研究が進められている。
年輪年代法の確立には,まず暦年標準パターンをそれぞれの地域でできる限り古くさかのぼって作成することが第一歩となる。そのためには,伐採年代の判明している現生樹木の暦年標準パターンをできる限り古くまで作成し,それより以前は,古建築用材や遺跡出土材でそれにつなぐ操作を繰り返す。現在アメリカでは8200年前まで,ドイツでは約1万年前までの暦年標準パターンが完成している。
日本における年輪年代法の研究では,第2次世界大戦前から関心をもつ研究者があり,年輪測定やそれによる気象推定の試みがあったが,年輪年代法の発達の中心が,アメリカのアリゾナ州のような環境条件の比較的単純な地域にあったため,微細な環境条件の変化が認められる日本では,その実施を問題視する考えが強かった。しかし80年代前半から,現生樹木あるいは奈良県下の遺跡,とくに藤原宮跡や平城宮跡からの出土品によって,それが可能なことが実証された。85年ころからはその応用研究も開始され,多くの成果をあげている。現在,ヒノキやスギの暦年標準パターンは,今から約3000年前までのものが完成している。
年輪年代法の応用は,さまざまの研究分野に及んでいる。建築や考古学では,年代不明の建造物や遺構,遺物の年代決定において,きわめて精度の高い年代値を提供できるし,美術資料では板絵や木彫の年代決定,ときにはその真贋判定にも用いられている。さらに,年輪変動から過去の気象環境,とくに気温や降水量の変動を明らかにする年輪気象学の研究の進展は,近年とくに著しい。
→年代決定法
執筆者:光谷 拓実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報