年代決定法(読み)ねんだいけっていほう

改訂新版 世界大百科事典 「年代決定法」の意味・わかりやすい解説

年代決定法 (ねんだいけっていほう)

考古学的・地質学的できごとが今から何年前に起きたかを決める方法。ヨーロッパでは,万物の創造は聖書の記述のとおりに行われたと考えられてきたが,18世紀ころから地質学者は,地層,化石などの研究を通して,この聖書的年代に挑戦してきた。生物が一時に全種出現したわけではなく,さまざまに進化してきたことが化石の研究からわかり,化石を含む層の上下関係から,各種の生物が出現した時代の前後関係(相対年代)がわかってきたが,宇宙の時間の流れで測った年代,つまり何年前に起きたか(絶対年代)が得られるようになったのは20世紀に入り,放射年代測定が行われるようになってからである。現在では従来の相対年代と絶対年代の較正も行われ,年代といえば絶対年代を意味するようになりつつある。そして,年代決定の方法には,次のようなものがある。

(1)進行の度合が時間に依存する物理・化学現象を利用するもの。(a)放射年代 天然に存在する放射性元素が,一定の期間(半減期)たつと半分に減る性質を利用する。減った分は1種または数種の娘元素になる。はじめにあった放射性元素の原子数とある年代後の原子数を知るか,ある年代後の放射性元素と娘元素の原子数を知れば年代が決められる。代表的な方法に,カリウム・アルゴン法ウラン・鉛法ルビジウム・ストロンチウム法炭素14法などがあり,フィッショントラック法も同じ原理にもとづく。測定できる年代は半減期の長さによって異なる。放射性元素の崩壊は周囲の環境の影響を受けないので,信頼性の高い年代を与える(放射年代)。(b)熱ルミネセンス法 放射線の照射を受けると原子中の電子は安定軌道からエネルギー準位の高い軌道に遷移する。原子が数百℃に熱せられると電子は安定軌道に戻り,そのとき微弱な光を発する。試料が毎年一定量の天然放射線を受けていれば,高エネルギー軌道にある電子の数は試料の年代に比例し,したがって試料を熱したとき発する光の強さも年代に比例する。試料の受けた1年当りの放射線量を推定し,人工放射線の照射により試料の受けた放射線量と発生量の関係を調べれば,試料の年代が推定できる。1960年ごろから土器の焼成年代を求めるのに使われはじめ,70年代末からは数万年の若い火山岩の年代測定も試みられている。(c)黒曜石年代測定法 黒曜石が空中,土中の水を取り込んで作る水和層の厚さが水和に要した時間の平方根に比例することを利用する。おもに石器の年代測定に利用される。化学反応の進行の度合を利用する年代測定法にはほかに,海底玄武岩礫(れき)の風化層の厚さから年代を推定する試み,アミノ酸の変質により生物の死後年代を推定する試み,土中に埋もれた化石骨にフッ素が含まれていく割合から年代を推定する試みがある。化学反応は温度などに影響されるので,より正確な絶対年代と較正する必要がある。

(2)相対的時間尺度を絶対年代と比べて利用する方法。(a)岩相層序 堆積岩は一般に上部が新しく,下部が古いので,同一の堆積層が一定の地域を覆っていれば,その地域に関して地層の上下関係から相対的な年代順を決めることができる。第四紀の火山噴火により火山灰が広い地域を覆っているとき,これを利用する年代決定法を特にテフロクロノロジーという。氷河によって年輪状に堆積した氷縞(ひようこう)粘土の利用もこの手法の一変形である。絶対年代との較正は層中の化石年代や火成岩の放射年代,磁気層序などを利用して行われる。(b)生層序 堆積層中には生物の化石が含まれる。化石の中である時代に特徴的なものを示準化石というが,同種の示準化石の出る層は同年代と考えられる。よく利用される化石には有孔虫,貝殻,花粉などがある。特に浮遊性有孔虫は進化の速度が早く,変化が全海洋でほぼ同時に起きるので,時代が古くなると放射年代より細かい年代区分が可能になる。放射年代の誤差は年代に比例するが,有孔虫の進化の速度はほぼ一定だからである。(c)磁気層序 地球磁場のN極は現在は地理上の北極付近にあるが,過去には南極付近にあったことも何回もあり,北極,南極付近にとどまっていた期間もさまざまである。1970年代初めに過去1億数千万年間の地磁気逆転の歴史が解明された。深海底堆積物は堆積時の地球磁場の方向を記憶するので,深くなるにしたがって古い時代の磁場の記録があらわれる。深さ方向を時間軸とみなして得られる地磁気逆転のパターンを既知のパターンと比較して一致するところを探す。堆積層の年代が磁気層序により決まれば,層中化石の年代が決まり,生層序と絶対年代の較正が可能になる(古地磁気)。(d)年輪年代法 樹木の年輪の間隔は気候変動などで変化するので,間隔に疎密のパターンが生じる。年代と対照できる基準パターンと比べて,パターンの一致するところを探し年代を知る。古い木材の年代決定に利用される。

 なお,考古学における年代決定法については,〈考古学〉の項目をあわせて参照されたい。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「年代決定法」の意味・わかりやすい解説

年代決定法
ねんだいけっていほう

考古学において暦のない時代の絶対年代を決定する方法は2種類ある。第1はすでに暦のある地域の編年とない地域の編年を比較し交差年代を求める方法である。第2は年輪年代学によるものである。しかしこの2つの方法には時間的・地域的限界があり,すべての考古資料に適用はできない。ところが 1950年以降いくつかの理化学的年代測定法が確立され,はっきりとした数字で年代を与えることが可能となった。炭素 14 ( 14C ) 年代測定法は,死亡した生物の体内に残存する 14C が 5730年で半減する性質を利用した年代測定法であり,考古学では最も普及している方法である。フィッショントラック法は遺物に含まれる鉱物やガラスの中に存在するウランが核分裂 (フィッション) を起こすと傷痕 (トラック) を残すという性質を利用した年代測定法であり,黒曜石の産地推定にも利用される。熱ルミネセンス法は土器の年代を直接測定するときなどに使われる方法で,粘土に含まれる放射性物質が熱を受けるとエネルギーを放出し,その後再びエネルギーを蓄積するという性質を利用した年代測定法である。その他,黒曜石水和層法,カリウム・アルゴン法などの年代測定法が確立されている。またこれらの年代測定法によって得られた年代の最後には B.P.と記されているが,これは Before Physicsの略であり 1950年を基準としたものである。

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世界大百科事典(旧版)内の年代決定法の言及

【考古学】より

…しかし,文献に頼っている限り,世界中でまったく文字の使われていない時代にまでさかのぼって絶対年代を決めることはできない。この壁を打開するために開発されたのが自然科学的年代決定法である。生物の体内に一定量含まれている放射性炭素が,年月の経過とともにどれだけ減っているかを測る炭素14法(カーボン・デーティング),ガラス質の物のなかに自然の核分裂で生じた傷跡が,年月の経過とともにどれだけ増えているかを数えるフィッショントラック法,樹木の年輪幅が年ごとに変化するという現象を応用した年輪年代法など,つぎつぎと新しい方法が開発されている。…

※「年代決定法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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