岩手県を中心とする東北地方北部で信じられている神霊,妖怪の一種。この呼称は,旧家の座敷に出没し童子の姿をしている,と考えられていることに由来するもので,ザシキボッコ,ヘヤボッコというところもある。納屋や土蔵に出没するクラワラシ,クラボッコも同系統の神霊である。この神霊の特徴として,オカッパ頭の幼い子どもである,顔や髪が赤い,旧家の主として奥座敷に住む,ザシキワラシが住むと思われている部屋に泊まった者に枕返しなどのいたずらをする,等々を挙げることができるが,もっとも本質的な特徴は,この神霊が家の盛衰を支配する,ということにある。すなわち,この神霊が住んでいるときはその家は豊かであるが,去ってしまうと家が衰えると考えられているのである。別のいい方をすると,金持ちだった家が衰えると,その家に住んでいたザシキワラシが去ったからであろうと考え,逆に貧しかった家が金持ちになると,ザシキワラシがどこからかその家に移り住んだのだろうと考えるのである。したがって,ザシキワラシは旧家の守護神というだけでなく,民俗社会内の,それもとくに旧家層における貧富の差およびその変動の説明原理ともなっているのである。この神霊は,川や淵などからやってきたという伝承もあるので水神小童や河童の信仰との関係も考えられるが,それにとどまらず子どもの姿で示現するというこの地方のオクナイサマ信仰(太子信仰の一形態であるらしい)やカマド神の起源伝承に姿を見せるウントクとかヒョウトクなどと呼ばれる〈福神童〉の物語,さらには修験・山伏が使役したという〈護法童子〉などとも深い関係があると考えられている。
→護法
執筆者:小松 和彦
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