徐煕(読み)じょき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「徐煕」の意味・わかりやすい解説

徐煕
じょき

生没年不詳。中国、五代の南唐(なんとう)(937~975)を代表する画家。新しい花鳥画法を大成し、いわゆる徐氏体の祖とされる。江南の鐘陵(江西省南昌(なんしょう))の人で、南唐に仕えた江南の名門の出身。花鳥画に卓越し、花鳥を野趣に富んだ江辺の自然景観のなかにとらえて描くのを特色としたらしい。また魚藻や猫、蝉(せみ)、蝶(ちょう)などの禽虫(きんちゅう)にも優れ、それまで絵に描かれていなかった蔬菜(そさい)なども画題にしたという。徐煕の創始といわれる徐氏体は、黄筌(こうせん)を祖とする黄氏体の鮮明な濃色・鉤勒線(こうろくせん)をみせる写実的装飾的な画風に対し、線描より色や墨の濃淡や広がりを主調とし、感覚的に表現する画法と解され、後世の文人画家の受け入れるところとなった。なお彼の孫(一説には子)の徐崇嗣(じょすうし)(北宋(ほくそう)宮廷画家)も花鳥画家として知られる。

[星山晋也]

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改訂新版 世界大百科事典 「徐煕」の意味・わかりやすい解説

徐煕 (じょき)
Xú Xī

中国,五代南唐の画家。生没年は不詳。孫の徐崇嗣の活躍期から南唐初期の人と推定される。江寧(南京)の名門の出身で,花鳥画に優れ,唐風の装飾的な作風から水墨画の要素の強いものまで幅広い画技を示した。水墨画的要素の一面が後世,ことに大きくとりあげられ,蜀の黄筌の装飾的華麗な画風に対して,徐氏体の〈軽秀〉〈野逸〉と評された。孫の徐崇嗣は,祖父の水墨画的な要素を発展させ,いわゆる〈没骨(もつこつ)画〉を創造した。
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百科事典マイペディア 「徐煕」の意味・わかりやすい解説

徐煕【じょき】

中国,10世紀半ばの五代南唐の画家。生没年不詳。金陵(南京)の名門に生まれる。のち花鳥画が宋の太宗に認められ,その画風は徐氏体と呼ばれ,黄筌(こうせん)の黄氏体と並んで宋初の花鳥画壇を二分した。
→関連項目徐崇嗣

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「徐煕」の意味・わかりやすい解説

徐煕
じょき
Xu Xi

中国,五代,南唐の画家。江寧 (江蘇省南京) の名族の出身という。蜀の黄筌 (こうせん) とともに花鳥画の二大流派の徐氏体 (→黄・徐二体 ) を創始。黄筌が華麗で写実的表現を特色としたのに対し,彼の画風は水墨を主体として淡彩を加え,粗放な筆致のうちに写意的表現を特色とした。この画法はのちの水墨花鳥画に多大な影響を及ぼした。孫 (一説に子) の徐崇嗣,徐崇矩もともに花鳥画を得意とし,崇嗣は墨線を用いない没骨 (もっこつ) 画を創始した人物とされた。

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世界大百科事典(旧版)内の徐煕の言及

【花鳥画】より

…中国では六朝時代にすでに蟬雀(せんじやく)図などがかかれ,唐代には薛稷(せつしよく)や辺鸞(へんらん)が鶴,折枝花をかき有名であった。しかし独立の部門として本格的に成立したのは五代からで,蜀に黄筌(こうせん),南唐に徐熙(じよき)が出,花鳥画の二大源流をなした。黄筌と子の黄居寀(こうきよさい)らの黄氏体は,鉤勒塡彩(こうろくてんさい)法を用いて華麗な富貴さに特色があり,徐熙と孫の徐崇嗣らの徐氏体は,水墨と没骨(もつこつ)画法を取り入れて瀟洒な野逸さに特色があった。…

【五代美術】より

南唐二陵の墳墓をみればわかるとおり唐風によっているが,絵画界では後世に巨大な影響を与えることになる試みが行われていた。花鳥画における徐熙,その孫徐崇嗣,山水画における董源,巨然の存在がそれである。徐熙は唐風の左右相称的構図の装飾画を制作する一方で,墨彩を中心とする新傾向をもみせた。…

【徐氏体】より

…中国,五代南唐の花鳥画家,徐熙が創始した様式をいう。彼の花鳥画の表現はかなり多様であったと考えられるが,蜀の黄筌(こうせん)一派の装飾性の強い黄氏体に対して,徐氏体と呼ばれるときの内容は,水墨と彩色を併用した,瀟洒なものと理解されている。…

【宋代美術】より

… 花鳥画の分野では,北宋初期,宋に併合された蜀と南唐よりもたらされた2様式の対立が目だつ。それぞれ965年と975年に滅亡した蜀と南唐から黄筌(こうせん)様式(黄氏体),徐熙(じよき)様式(徐氏体)が流行した。蜀の併合が南唐の場合より10年早かったこともあって,当初は装飾的で豊麗な黄筌系の画風が優勢であったが,水墨画の発展,文人墨戯の盛行等の画壇の趨勢のなかで,徐熙の名声が黄筌を圧するようになる。…

※「徐煕」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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