心的外傷後ストレス障害(読み)シンテキガイショウゴストレスショウガイ(その他表記)Post-traumatic Stress Disorder

デジタル大辞泉 「心的外傷後ストレス障害」の意味・読み・例文・類語

しんてきがいしょうご‐ストレスしょうがい〔シンテキグワイシヤウゴ‐シヤウガイ〕【心的外傷後ストレス障害】

ピー‐ティー‐エス‐ディー(PTSD)

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共同通信ニュース用語解説 「心的外傷後ストレス障害」の解説

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

事件や事故、災害などに遭遇し、生命の危険を感じるような体験がきっかけとなって引き起こされる。記憶が突然よみがえるフラッシュバック、緊張や不眠パニック、過剰な警戒感などの症状が1カ月以上続く場合に診断される。数年が経過してから発症するケースもある。国内では1995年の阪神大震災地下鉄サリン事件を機に注目されるようになった。

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家庭医学館 「心的外傷後ストレス障害」の解説

しんてきがいしょうごすとれすしょうがいぴーてぃーえすでぃ【心的外傷後ストレス障害(PTSD) Post-traumatic Stress Disorder】

[どんな病気か]
 阪神(はんしん)・淡路大震災(あわじだいしんさい)の後、心的外傷後ストレス障害ということばがよく知られるようになりました。これは、大きなショックの直後ではなく、約1か月くらいたって、災害などの直接的危険が去った後に生じるものをいいます。PTSDをひきおこすのは、生命に危険がおよぶほどの大きな事故、災害、戦争、拷問(ごうもん)などで、自分自身がこのような体験をするだけでなく、他人がこのような目にあうのを目撃することでも発症します。
[症状]
 おもに3つの種類があります。1つは、侵入的想起(しんにゅうてきそうき)、あるいは再体験(さいたいけん)という症状で、心的外傷を受けたときの情景を、あたかももう一度その場に戻ったかのようにありありと体験したり(フラッシュバック)、突然その情景がくり返し頭の中に浮かんだりするという症状です。
 2つめは、回避(かいひ)、感情(かんじょう)まひと呼ばれる症状で、フラッシュバックをひきおこしそうな場所には行けなくなったり、外傷を受ける前と後では自分がちがってしまって、人には自分の気持ちが通じない、自分は他の人とちがってふつうの生活は今後もできないと思ってしまう症状です。
 悪夢や、ちょっとした刺激に大きな反応がおこってしまう「驚愕反応(きょうがくはんのう)」など覚醒亢進状態(かくせいこうしんじょうたい)が、3つめの症状です。
 これらの症状があると、閉じこもりがちの生活となり、社会生活に大きな支障をきたします。いやな症状から逃れるため、アルコールを大量に飲むようになることもあります。
[治療]
 まず、正しく診断がついていることがなによりもたいせつです。大震災など人々の注目を集めるものとはちがって、個人的な自動車事故などでは、本人が黙っていると、症状が見過ごされることもあります。いやなことを話すのは回避したいという症状のため、医者の前でも心的外傷のことを話さない人も多いのです。
 診断がきちんとついたら、食事、睡眠など安心できる環境を提供することがまず大事です。睡眠障害(すいみんしょうがい)などには、薬物療法も有効です。
 いやな体験を忘れようとすればするほど、その体験がフラッシュバックとなってよみがえる場合は、精神療法認知療法などを用います。いやな体験について、つらくても思い出し、語り直す必要があることも多いものです。
 症状が消失するには時間がかかることもありますが、家族はあせらず見守る態度が必要です。「もう忘れなさい」と叱責(しっせき)したり、励ましすぎると、孤立感を強めてしまうことが多いのです。
 消防隊救急隊員など、大惨事(だいさんじ)の現場ではたらく職種の人は、心的外傷後ストレス障害になる率が高いため、毎日の仕事の後に、グループミーティングをして気持ちを整理することが予防になるという報告もあります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「心的外傷後ストレス障害」の意味・わかりやすい解説

心的外傷後ストレス障害
しんてきがいしょうごストレスしょうがい
post traumatic stress disorder; PTSD

外傷後ストレス障害ともいう。アメリカ精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル (第3版) 』 Diagnostic and Statistical Mannual of Mental Disorders (1980) に初めてこの名が記載された。それによると,自然災害,事故,強姦や虐待などの犯罪,さらに戦争といった,人が通常経験する範囲をはるかにこえた強い心的外傷を受けたあとに発症する精神障害で,症状が1ヵ月以上続くものをいう。症状が心的外傷体験直後から1ヵ月以内にとどまる急性ストレス障害 acute stress disorder (ASD) とは区別される。第1次世界大戦後の元兵士のショック症状 (戦争神経症 ) や,ベトナム戦争後のアメリカ帰還兵の社会不適応の研究・治療から PTSDの実態がわかり,詳しい研究が始った。日本では 1995年1月の兵庫県南部地震後に自殺者が多発したことから注目されるようになった。具体的な症状としては,夢や錯覚,幻覚,フラッシュバックなどに象徴される外傷体験の繰返し,無感動,無関心といった外傷体験の記憶の抹消,さらに不眠,集中力低下などの亢進状態も認められる。治療にはカウンセリング,精神療法などが必要とされ,抗うつ剤や抗不安剤を使う場合もある。

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知恵蔵 「心的外傷後ストレス障害」の解説

心的外傷後ストレス障害

生命の危険などにさらされ、強い恐怖や無力感を体験した後で、侵入的再体験、回避や麻痺、及び覚醒亢進(自律神経系の興奮状態)が持続する障害。外傷体験は苦痛を伴い、本人の意思に反して繰り返し想起される。悪夢や、その場面が現前しているようなフラッシュバックの体験もある。関連したことを回避したり、社会生活に対する興味の減退や疎外、隔絶を感じる。また、入眠や睡眠持続が困難で、些細な刺激にも過敏になり、怒りやすくなったり、集中困難になるなどの覚醒亢進がある。戦闘、レイプ、災害、大事故、監禁など、広い範囲で外傷体験は起こるが、児童虐待のように発育途上で繰り返される体験には、複雑で深刻な影響がある。なお、体験後1カ月以内に起こる類似の反応は、急性ストレス障害という。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

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