外傷後ストレス障害(読み)がいしょうごストレスしょうがい

百科事典マイペディア 「外傷後ストレス障害」の意味・わかりやすい解説

外傷後ストレス障害【がいしょうごストレスしょうがい】

自然災害や戦争,交通事故,誘拐監禁,性的虐待などで被害を受けたり,身近な人の死をまのあたりにするといった体験をすると,人間は耐えがたい強烈なショックを受ける。これを心的外傷トラウマ)といい,それによるストレスが心身に引き起こす障害を心的外傷後ストレス障害,または外傷後ストレス障害という。英語でpost traumatic stress disordersということから,頭文字をとってPTSDともいう。米国でベトナム戦争から帰還した兵士に,戦争体験の後遺症と思われる精神障害がみられ,調査・研究した結果,1980年にアメリカ精神医学会の診断マニュアルにこの病名が載るようになった。日本では,1995年の阪神・淡路大震災地下鉄サリン事件オウム真理教事件),1996年末〜1997年のペルー日本大使公邸人質事件などで知られるようになった。1996年のO-157による集団食中毒,1998年の和歌山・毒物カレー事件でもみられた。2011年3月の東日本大震災福島第一原発の大事故は,大津波と地震による壊滅的破壊,大量の放射能汚染,長い避難所生活等々,かつてない規模と質の大災害となったため,被災者に与えたショックと心的外傷の程度は測りがたいものとなっており,ケア体制の整備が国と地方自治体の急務となっている。診断の条件は,(1)自ら生死に関わる事件に遭遇したり,他人瀕死(ひんし)状態や死を目撃した体験,(2)強い無力感や恐怖感を伴う体験――のいずれかのトラウマ体験を持ったことがある場合,となっている。症状はトラウマ体験を繰り返し思い出し,あたかもその事件がいま起きているかのようにふるまう。また,その記憶から逃れようとするあまり,物事に対する意欲や興味,集中力が著しく減退する。情緒不安定,イライラしやすい,落着きがない,びくびくしている,よく眠れない,といった症状の患者も多い。治療は,早期に発見して専門家によるカウンセリングなどを受けること。行動療法による脱感作やリラクゼーションは特に効果がある。抗不安薬抗鬱(うつ)剤は必要であれば補助的に使用してもよいが,この病気の患者は薬物依存に陥りやすいので,長期にわたる薬物療法は避けるべきである。→減感作療法薬物依存症
→関連項目アダルト・チルドレン多重人格トラウマ中井久夫

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