家庭医学館 「心臓のしくみとはたらき」の解説
しんぞうのしくみとはたらき【心臓のしくみとはたらき】
◎心臓の刺激伝導系(しげきでんどうけい)のしくみ
◎冠(かん)(状(じょう))動脈(どうみゃく)のしくみ
◎心臓のはたらき
◎血液循環のしくみとはたらき
◎心臓の病気による主要な症状
◎心臓のしくみ
心臓(しんぞう)は、全身に血液を送り出すポンプのような臓器です。心臓の内部は、左右に、それぞれ心房(しんぼう)と心室(しんしつ)という部屋が並んでいて、4つの部屋に区切られています(図「心臓のしくみ(1)」、図「心臓のしくみ(2)」)。
心房と心室の間には、弁(べん)があってつながっていますが、心房どうしは心房中隔(しんぼうちゅうかく)、心室どうしは心室中隔(しんしつちゅうかく)という壁でさえぎられています。
心臓は、これらの弁や壁を含めて、全体が心筋(しんきん)と呼ばれる特殊な筋肉でできています。
心筋細胞は、生後数か月までは、増殖しますが、それ以降は、数は増えず心筋細胞が肥大することで成長します。
位置は、胸の中央からやや左寄りに、左右の肺に挟まれてあり、大きさは、おとなのにぎりこぶしよりやや大きいくらいです。
●心臓の弁(べん)(膜(まく))のしくみ
全身からにしろ、肺からにしろ、心房に血液が入るところには弁がありません。左右の心房とも、心臓にもどってきた血液のたまり場だからです。
ポンプ機能は、心室のほうにあります。左右の心室が縮むと、同時に左右の心房・心室間にある僧帽弁(そうぼうべん)と三尖弁(さんせんべん)が閉じられます。閉じることによって、左右の心室内の血液は、心房に逆戻りすることなく圧力がかかります。
圧力がかかった心室の血液は、大動脈弁(だいどうみゃくべん)、肺動脈弁(はいどうみゃくべん)が開くと、左心室から全身へ、右心室から肺へと押し出されます。これを心臓の拍出(はくしゅつ)(駆出(くしゅつ))といいます。
血液が押し出された後、両方の心室の心筋がゆるみ、大動脈弁、肺動脈弁が閉まります。それに引き続き、閉じていた僧帽弁と三尖弁が開きます。心室内部は、圧力が下がっているので、左右の心房にたまっていた血液が、心房の収縮とともに、吸い込まれるように左右の心室内に入ります。そして、また心室の収縮がおこります。
このように、心臓が拍出するためには、左右の心室が密閉される必要があり、心臓の2つの出口にある弁(大動脈弁と肺動脈弁。両方まとめて半月弁(はんげつべん)という)と、左右の心房と心室の間にある2つの弁(僧帽弁と三尖弁。両方まとめて房室弁(ぼうしつべん)という)が、うまくはたらかなければなりません。
●心臓での血液の流れ
心臓には、血液を送り出す出口が2つあり、1つは、左心室(さしんしつ)から全身に血液(動脈血(どうみゃくけつ))を送り出す大動脈(だいどうみゃく)への出口です。左心室が収縮すると大動脈弁が開き、動脈血が送り出されるわけです。血液は、大動脈から枝分かれした全身の動脈に流れていきます。
もう1つは、全身からもどってきた血液(静脈血(じょうみゃくけつ))を、右心室(うしんしつ)から肺に送り出すための肺動脈(はいどうみゃく)への出口です。右心室が収縮すると肺動脈弁が開き、静脈血が送り出されます。肺動脈も細かく枝分かれしており、毛細血管となり肺の中に広がっていきます。血液は、肺で炭酸ガス(二酸化炭素)を放出して、肺内の空気から酸素をとりいれ、心臓にもどってきます。
左心房(さしんぼう)には、肺から肺静脈(はいじょうみゃく)という血管がきていて口をあけており、ここから酸素を含んだ血液が心臓に流れ込んでくるのです。そして、左心室へと流れていきます。
右心房(うしんぼう)には、上半身からの静脈血と下半身からの静脈血が流れ込む入り口が2つあり(上大静脈(じょうだいじょうみゃく)と下大静脈(かだいじょうみゃく))、炭酸ガスを含んだ血液は、右心房に流れ込み、右心室に送られ、肺に送り出されるのです。
◎心臓の刺激伝導系(しげきでんどうけい)のしくみ
人は、緊張したり興奮したりすると脈拍数や血圧が上がりますが、それは心臓にきている交感神経(こうかんしんけい)が、心臓の活動をうながすためです。これに対して心臓の活動を抑えるのは、副交感神経(ふくこうかんしんけい)(迷走神経(めいそうしんけい))です。ともに大動脈のまわりから、心臓全体に広がっています。
心臓の規則正しい鼓動を可能にしているのが、刺激伝導系(しげきでんどうけい)(興奮伝導系(こうふんでんどうけい))というものです。刺激伝導系は神経ではなく、細胞の興奮がつぎつぎに伝わる特殊な筋肉でできたルートです。
刺激伝導系の始まりは、右心房と上大静脈の移行部にある洞(どう)(房(ぼう))結節(けっせつ)という部分です。ここは、いわばペースメーカーで、必要な拍出のリズムを電気信号として発します。
この信号は、いろいろな方向に分かれて心房の壁を伝わった後、右心房の三尖弁のつけ根にある房室結節(ぼうしつけっせつ)(田原(たはら)の結節(けっせつ))という部分に集まってきます(洞房系(どうぼうけい))。
ここからヒス束(そく)(房室束(ぼうしつそく))という伝導路が二手に分かれます。右心室のほうに伝わるものを右脚(うきゃく)、左心室のほうに伝わるものを左脚(さきゃく)といいます。さらに、右脚・左脚は、多くのプルキンエ線維(せんい)に枝分かれし、心室をおおっています(房室系(ぼうしつけい))。
洞結節から出た信号が左右の心室全体に伝わって初めて1回の収縮がおこり、血液が駆出されます。洞結節からのリズムは自律神経の支配を受け、たとえば交感神経の活動が高まると脈拍数が増加します。
この刺激伝導系の信号を記録したものが心電図なのです。
◎冠(かん)(状(じょう))動脈(どうみゃく)のしくみ
心臓は、休みなく動き続ける筋肉ですから、多くの酸素や栄養分を消費します。そのため、心筋に酸素や栄養分などを送る血管は独立していて、これを冠(かん)(状(じょう))動脈(どうみゃく)といいます(図「冠(状)動脈のしくみ」)。
冠動脈と呼ばれる血管は左右2本あって、大動脈のつけ根のところで大動脈から分かれています。
右の冠動脈は、おもに右心房、右心室および左心室下壁に血液を供給するようにのびて、枝分かれしています。
左の冠動脈は、大動脈から分かれてすぐのところで、前下行枝(ぜんかこうし)と回旋枝(かいせんし)の2本に分かれます。前下行枝は、左心室の前壁や心室中隔に血液を供給するようにのびて枝分かれしており、回旋枝は、左心房や左心室の側壁から後壁をカバーするようにのび、枝分かれしています。
なお、冠動脈に対応する静脈は、冠静脈(かんじょうみゃく)(大心静脈)といい、ほぼ冠動脈に並行して走り、静脈血は右心房に流入します。
◎心臓のはたらき
手首の動脈に触れてわかる脈拍(みゃくはく)とは、心臓の拍出(収縮)の波動が、末端近くの動脈にまで伝わったものです。ですから、これを数えれば心臓の拍出回数がわかり、成人では安静時には1分間で60~80回の頻度です。
心室の大きさはほぼ決まっているので、1回の拍出量も決まっています(健康な人の左心室1回拍出量は安静にして約70mℓ)。1回拍出量に脈拍数をかけたものが、1分間あたりの拍出量(心拍出量)で、正常な成人では安静時には毎分5~7ℓです。
一方、聴診器(ちょうしんき)や、胸に耳をあてるなどして、心臓の音(心音(しんおん))を聞いてみると、「どっくん」「どっくん」というふうに聞こえます。初めの「どっ」という音が、左右の房室弁が閉じるときの音(I音)で、このとき左右の半月弁が開き、血液が押し出されます。
あとの「くん」という音が半月弁の閉じるときの心音(Ⅱ音)で、このとき左右の房室弁が開き、2つの心室に血液が流れ込んできます。
心臓を左右に分けて考えてみると、右側の、上・下大静脈→右心房→右心室→肺動脈という血液の流れは、静脈血の流れです。左側の、肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈という血液の流れは、動脈血の流れです。
心臓は、動脈血によって全身に酸素や栄養分、ホルモンなどを送りとどけ、臓器や組織の維持、増殖ができるようにするとともに、各臓器や組織で不要になった炭酸ガスを含む老廃物(ろうはいぶつ)を静脈血によって回収し、再利用に回したり、体外に排出できるようにしています。
つまり心臓の右側は、もっぱら血液に酸素をとりいれ、炭酸ガスを排出する(ガス交換)ためのものなのです。
左心室の拍出の圧力が100~130mmHgであるのに対して、右心室の拍出の圧力は、肺が近いこともあって、左心室の約4分の1(約25mmHg)くらいしかありません。
一方、心臓の左側は、全身のすべての臓器、組織に血液を送り出しているわけで、ふつう血圧といっているのは、左側の心臓が拍出する圧力です。
心筋が縮んで心室から拍出がおこっている時期を収縮期(しゅうしゅくき)、心筋がゆるんで心房から心室に血液が流れ込む時期を拡張期(かくちょうき)といい、最高血圧(さいこうけつあつ)(最大血圧(さいだいけつあつ)、収縮期血圧(しゅうしゅくきけつあつ))というのは、収縮期に動脈にかかる圧力のこと、最低血圧(さいていけつあつ)(最小血圧(さいしょうけつあつ)、拡張期血圧(かくちょうきけつあつ))というのは、拡張期に動脈にかかる圧力のことです。
◎血液循環のしくみとはたらき
大動脈から全身の毛細血管に広がる血液は動脈血といい、この血管系を動脈系(どうみゃくけい)といいます。
動脈血は、毛細血管において、組織に酸素や栄養分などを与え、炭酸ガスや老廃物などを受けとります。
毛細血管は、直径5~10μm(マイクロメートル)(1μmは1000分の1mm)ほどしかなく、全身の細胞間に入り込んでいます。毛細血管の壁には、微小な穴やすき間があり、ガス交換や物質の移動がおこるだけでなく、血漿(けっしょう)や血球(けっきゅう)の一部は、これらのすき間を通って組織と毛細血管の間を行き来すると考えられます。
こうして炭酸ガスや老廃物を含んだ血液は、しだいに集合する静脈を流れて、上・下大静脈に集められます。これを静脈血といい、毛細血管から上・下大静脈までを、静脈系(じょうみゃくけい)といいます。
したがって、心臓から出た動脈血は全身に広がって、静脈血となり再び心臓にかえってくるわけです。これを体循環(たいじゅんかん)(大循環(だいじゅんかん))といいます。
一方、静脈血は、心臓を経由して肺でガス交換をして酸素の豊富な血液になって心臓にもどってきます。こちらを肺循環(はいじゅんかん)(小循環(しょうじゅんかん))といいます。
◎心臓の病気による主要な症状
心臓の刺激伝導系や心筋に障害がおこると拍出が乱れ、動悸(どうき)や不整脈(ふせいみゃく)(脈拍の乱れ)が現われます。動悸や不整脈は、ホルモンや神経の変調などによっておこることもあり、ひどい場合は失神をおこします(「不整脈」)。
息切れ(呼吸困難)は、いくら呼吸しても苦しいという感覚で、左心室の筋肉(心筋)が弱まったり、僧帽弁や大動脈弁の開閉が障害されたりして、肺にうっ血がおこり、血液ガス交換が不十分になって生じます。軽い場合には、運動時のみの息切れですが、重くなると、安静時にも呼吸困難がおこります(「心不全とは」)。
心雑音(しんざつおん)は、心臓の鼓動に雑音が聞かれるもので、心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)(「心臓弁膜症とは」)、心膜炎(しんまくえん)(「心膜炎(心嚢炎)」)、先天性心臓病(「先天性心疾患とは」)などのほか、運動後の子どもで聞かれることがあります。
心臓の痛みも重要な症状です。その多くは、冠動脈などに問題があって心筋に必要な新鮮な血液が不足することでおこります(虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)(「心筋梗塞(症)」))。このほか、神経や内分泌(ないぶんぴつ)の異常などで心臓が痛むこともあります。
心臓のはたらきが弱ると、毛細血管からの血液の回収がうまくいかず、むくみが現われることがあります。また、動脈血が酸素不足になると、その黒っぽい血液が皮膚を通して紫色に見えることもあります(チアノーゼ(コラム「チアノーゼと対策」))。