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先天性心疾患 せんてんせいしんしっかん (Congenital Heart Disease)

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家庭医学館の解説

せんてんせいしんしっかん【先天性心疾患 (Congenital Heart Disease)】

どんな疾患なのか
先天性心疾患の症状
先天性心疾患の合併症
先天性心疾患の治療
日常生活の注意

どんな疾患なのか
 生まれながらもっている心臓の形の異常を先天性心疾患と呼びます。
 おおよそ、赤ちゃん100人に1人の割合でみられるといわれています。
●頻度
 もっとも多いのは心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)で、先天性心疾患の約37%を占めます。ついで、心房(しんぼう)中隔欠損が15%、肺動脈狭窄(はいどうみゃくきょうさく)が10%、ファロー四徴(しちょう)が9%、動脈管開存(どうみゃくかんかいぞん)が6%などの順になります。
●原因
 先天性心疾患の多くは原因が不明です。先天性心疾患に心臓以外の形態異常が合併することがありますが、その理由も不明です。
 ただ、末梢性(まっしょうせい)肺動脈狭窄は、風疹(ふうしん)症候群でおこることが知られています。
 また、大血管や右心室(うしんしつ)流出路の異常をともなうことの多いCATCH22という病気は、遺伝子の異常でおこることがある程度わかっています。
◎先天性心疾患の理解のために
 以下の解説は、子どもの心疾患をどう理解したらいいかという方向を示すもので、ひとつの考え方です。
 実際の先天性心疾患については、担当の医師とよく相談してください。
 先天性心疾患は、つぎの4つのグループに分けるとわかりやすいでしょう。
 1番目は、肺を流れる血液の量が増加する群(肺血流量増加群(はいけつりゅうりょうぞうかぐん))、2番目は、肺を流れる血液の量が減少する群(肺血流量減少群(はいけつりゅうりょうげんしょうぐん))、3番目は、チアノーゼをともなう肺血流量増加群、4番目は、心臓弁(しんぞうべん)(弁膜(べんまく))のどれかに異常が存在する群(弁疾患群)です。
 これらのグループについて説明する前に、血液の正常な流れ方がどうなっているかを、まず、みてみましょう。
◎血液の正常な流れ図「血液の正常な流れと血流量」
 上半身をめぐった血液は上大静脈から、腹部と下半身をめぐった血液は下大静脈から、心臓の右心房(うしんぼう)(右房)にもどってきます。それから血液は、三尖弁(さんせんべん)→右心室(うしんしつ)(右室)→肺動脈弁→肺動脈へと流れて肺へ行き、ここで二酸化炭素を捨てて、酸素を受け取り、酸素の豊富な血液となります(酸素化)。
 酸素化された血液は、肺から肺静脈に入り、左心房(さしんぼう)(左房)→僧帽弁(そうぼうべん)→左心室(さしんしつ)(左室)→大動脈弁大動脈を経て、全身に送り出されます。
 右心室と左心室は、ポンプ(液体を送り出す装置)作用によって、血液を送り出しています。
●体循環(たいじゅんかん)と肺循環
 図「血液の正常な流れと血流量」は心臓の血液の流れを理解するための模式図です。実際の心臓の形とは異なりますが、どの場所に異常があり、どのような血液の流れになっており、それが症状とどのように関係するのかを理解するためには便利です。
 図「血液の正常な流れと血流量」でわかるように、全身をめぐった血液は、おもに上半身からの血液がかえってくる上大静脈と、おもに腹部・下半身からの血液がかえってくる下大静脈の2本の血管を通って、まず右心房(右房)にもどります。
 右心房から三尖弁を経て右心室(右室)に入った血液は、右心室のポンプとしてのはたらきにより、肺動脈弁を経て肺動脈に送り出されます。肺で炭酸ガス(二酸化炭素)を出し、酸素を得た血液は、肺動脈を経て再び心臓(左心房)にかえってきます。左心房から僧帽弁を経て左心室に入ったよく酸素化された血液は、左心室のポンプとしてのはたらきにより、大動脈弁を経て大動脈を通り、全身に送り出されます。
 肺の血液の流れを中心に考える肺循環と、肺を除いた他のからだの部分を中心に考える体循環に分けることがあります。日ごろ、血圧として測定されるのは、体循環の血圧です。肺循環の血圧は、カテーテルという管を肺動脈まで入れることにより、測ることができます。この肺循環系の血圧が高い状態が肺高血圧です。これに対して、体循環系の高血圧は、体高血圧とでも呼ばれるのでしょうが、一般的には単に高血圧といわれます。
 心房、心室、流出路、大動脈はそれぞれ心房中隔、房室中隔、心室中隔、流出路中隔、動脈幹中隔があり、体循環の血液と肺循環の血液が混じらない(短絡しない)ようになっています(図「中隔、弁膜の位置と名称」)。これら中隔の欠損があると、血液が混じる(短絡)ことになります。
 また、心臓には4つの弁があり、三尖弁と僧帽弁をまとめて房室弁、肺動脈弁と大動脈弁をまとめて半月弁と呼ぶことがあります。弁の形態異常としては、弁が閉じてしまっている閉鎖、弁が狭くなっている狭窄と弁の逆流がおこる閉鎖不全の3つがみられます。
 これらの弁を含めた心血管系の形態異常の組み合わせにより、いろいろな心臓の形の異常がみられます。
◎先天性心疾患と血液の流れ
 先に述べた先天性心疾患の4つのグループ(肺を流れる血液の量が増加する群(肺血流量増加群)、肺を流れる血液の量が減少する群(肺血流量減少群)、チアノーゼをともなう肺血流量増加群、心臓弁(弁膜)のどれかに異常が存在する群(弁疾患群))についての説明に入ります。
 ここで話をわかりやすくするために、からだの大きな人でも、小さな人でも、その人がふつうに生活していくのに必要な血液の量を①とします。
 この生活に必要な血液の量を、心拍出量(しんはくしゅつりょう)といいます(コラム「心拍出量とは」)。
●正常な肺血流量
 心拍出量が①であれば、全身をめぐり、右心房にもどってくる血液量も①です。そして、右心房から右心室に送られる量も①で、右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房とめぐる肺循環の血液の量も①です。
 左心室から大動脈に拍出され、全身をめぐる量も①です(図「血液の正常な流れと血流量」)。
◆肺血流量増加群
◆肺血流量減少群
◆チアノーゼをともなう肺血流量増加群
◆弁疾患群

◆肺血流量増加群(はいけつりゅうりょうぞうかぐん)
 肺血流量増加群は、どの先天性心疾患で、どのようなしくみでおこるかをみてみましょう。
●心房中隔欠損症(「心房中隔欠損(症)」)と血液の流れ(図「心房中隔欠損症」
 右心房と左心房を隔てている心房中隔が欠損していると、ふつう、左心房から右心房に血液が流入します(短絡)。
 この短絡する血液量を①とします。
 すると、全身をめぐってもどってきた血液①と、左心房から短絡してきた血液①とが合わさり、右心房に入る血液量は②になり、右心室に流れる量も②です。以下、右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房と流れる肺循環の血液量も②です。
 ところが、左心房では、再び①の量の血液が右心房へ短絡し、残りの①の血液量が左心室へ流れ、ここから全身に送り出されます。
 心房中隔欠損が存在しても、ふつうの生活を送るのに必要な血液量①は確保されるのですが、短絡のないケースに比べると、肺へ流れる血液量が多いことになります。
●心室中隔欠損症(「心室中隔欠損(症)」)と血液の流れ(図「心室中隔欠損症」
 右心室と左心室とを隔てている心室中隔が欠損していて、ふつう、左心室から右心室へと血液が短絡します。
 この短絡する血液の量を①と仮定します。
 全身をめぐって右心房にもどってきた①の量の血液は、そのまま右心室に入りますが、ここに左心室から①の量の血液が短絡してきます。右心室からの①の血液と合わさり、②の血液が肺動脈に流入します。肺→肺静脈→左心房と流れる肺循環の血液量は倍の②となります。
 つぎに血液量の②が左心室に入ると、①は右心室に短絡しますが、残りの①は大動脈から全身へと送り出されます。
 左心室中隔欠損症でも、ふつうに生活できる心拍出量の①は確保できるのですが、短絡のないケースと比べてみると、肺に流れる血液が増加しているわけです。
●動脈管開存(「動脈管開存(症)」)と血液の流れ(図「動脈管開存」
 胎生期に機能していた動脈管が閉じずに残った状態が動脈管開存です。大動脈から肺動脈に向かって短絡がおこります。
 この短絡する血液の量を①とします。
 全身から右心房にかえってきた血液①が右心室に入ります。
 この血液は、右心室から肺動脈に送り出されますが、ここで大動脈から短絡してきた血液①が加わり、②の量の血液が肺を流れます。
 そして、肺静脈を介して、左心房には②の量の血液が送られてきて、左心室から②の量の血液が大動脈へ送り出されますが、①の量は肺動脈へ短絡するので、全身へ送られるのは残りの①の量の血液ということになります。
 短絡のない場合に比べて、肺に送られる血液の量が多いことになります。
●肺血流増加群と心拡大
 流れる血液量が増えるのは、心房中隔欠損では右心房・右心室・肺動脈、心室中隔欠損では肺動脈・左心房・左心室、動脈管開存では左心房・左心室・大動脈・肺動脈です。
 血液が多く流れる部位は、拡大してきます。
 正常な心臓の心腔(しんくう)(心臓のそれぞれの部屋のこと)の大きさをそれぞれ①とすると、全部で④になりますが、肺血流増加群では、2つの心腔が大きくなるので、合計が⑥になります。正常な心臓に比べ、大きさが1.5倍に拡大するわけです。この状態を心拡大といいます(コラム「心臓の肥大と拡大」)。肺血流量増加群では、短絡量、つまり増加した肺血量にみあう心拡大がみられます。
 肺血流量が増加している先天性心疾患の治療は、原因となっている短絡の除去、つまり、欠損または開存している部位を閉鎖することです。
 胸を開く手術が行なわれることもありますし、最近では、胸を開かず、血管にカテーテルという管を入れ、心臓まで挿入するカテーテル治療(「内科的治療」のカテーテル治療)が行なわれています。
●肺血流量増加群と肺高血圧
 体循環の血圧の高い状態を高血圧といいますが、肺血流量増加群では、肺の血圧が高くなってきます。これを肺高血圧(はいこうけつあつ)といい、カテーテルを肺動脈まで入れると、測ることができます。
 ①の量の液体の入る入れ物に2倍の量を入れると、入れ物の中の圧が高くなります。肺血流量増加群では、肺へ流れる血流量が増えるために、肺の血圧が高くなるのです。
 ただし、肺高血圧がおこりやすいのは、心室レベルでの短絡である心室中隔欠損症と、大動脈レベルでの短絡である動脈管開存症で、心房レベルの短絡である心房中隔欠損症では、肺高血圧のおこらないケースがほとんどです。
 先天性心疾患の肺高血圧は、肺血流量増加の原因を除去すればほとんどが治ります。

◆肺血流量減少群(はいけつりゅうりょうげんしょうぐん)
 肺血流量が減少する先天性心疾患の代表はファロー四徴(「ファロー四徴(症)」)です。
 これは、肺動脈狭窄、心室中隔欠損、大動脈騎乗(きじょう)(大動脈が、心室中隔欠損をまたぐ形になっていて、肺動脈に行く血液が、大動脈へ流れやすい)、右心室肥大(ひだい)(右心室の心筋が厚い)の4つの特徴をもった疾患です(図「ファロー四徴」)。
 この血液の流れ方をみてみましょう。
 全身をめぐった血液は右心房にかえってきます。
 この血液の量を①とします。
 この血液は、つぎに右心室→肺動脈→肺へと送られますが、ファロー四徴では、右心室の出口が狭くなっているので(肺動脈狭窄)、肺へ血液が流れにくくなっています。肺へ行く血液の量をと仮定します。
 残りのは、心室中隔の孔(心室中隔欠損)を通って全身に血液を送る大動脈に流れ込みます。
 肺へ行ったの量の血液は、酸素をもらって左心房に入り、つぎに左心室に流れますが、ここで心室中隔欠損を通って流れ込むの血液と合流し、血液の量は①となり、大動脈から全身へと送り出されます。
 したがって、全身には、ふつうの生活に必要な①の量の血液が流れることになりますが、心室中隔欠損部から酸素の少ない静脈血が合流するので、酸素の少ない血液が全身をめぐることになり、チアノーゼがおこります。
 肺へ行く血液の量が少ないほど酸素化されてかえってくる血液の量が少なく、心室中隔欠損部から流れる静脈血の割合が多くなるので、チアノーゼ(コラム「チアノーゼのいろいろ」)が強くなります。
 ファロー四徴以外でも、重症の肺動脈狭窄や閉鎖(心臓から肺へ行く通り道がない状態)をともなう心房レベルや心室レベルの短絡がある先天性心疾患では、肺血流量が減少し、ファロー四徴と同じ状態になります。心房、心室、大血管にどのような形態異常があるかには関係なく、肺血流量が減少し、チアノーゼがみられます。
 チアノーゼが強いほど肺血流量が少なく、心臓全体の大きさが小さくなります。チアノーゼが強いのに心臓が大きい場合は、別の病気を考えなければなりません。

◆チアノーゼをともなう肺血流量増加群(はいけつりゅうりょうぞうかぐん)
 チアノーゼは、肺血流量減少群でおこるのが原則ですが、肺血流量が増加する大血管転位(だいけっかんてんい)と総肺静脈還流異常(そうはいじょうみゃくかんりゅういじょう)でもチアノーゼがみられます。この場合は、チアノーゼのほかに、多呼吸(呼吸数が多い)、哺乳(ほにゅう)困難などの肺血流量増加群と同様の症状がみられます。
 両大血管右室起始(りょうだいけっかんうしつきし)と呼ばれる疾患群のなかにも、大血管転位と同じ病態になるものがあります。
●大血管転位(「大血管転位(症)」)と血液の流れ(図「大血管転位」
 大動脈が右心室から出ており(起始)、肺動脈が左心室から出ています。
 全身をめぐってかえってきた血液は、右心房から右心室に入りますが、ここから全身に血液を送る大動脈が起始しているため、血液は、肺へ行って酸素をもらわずにそのまま全身へ流れて行きます。このため、強いチアノーゼがおこります。
 一方、肺へ行って酸素をもらった血液は、左心房から左心室へと流れますが、ここから肺動脈が起始しているため、また肺へもどって行きます。
 体循環は体循環系のみで血液がめぐり、肺循環は肺循環系だけで血液がめぐります。つまり、別々の並行した循環系となるわけで、このままでは低酸素のため生存してはいかれません。
 このため、大血管転位の状態では、必ず心房レベルで短絡がみられます。つまり、心房中隔に孔が開いているわけです。この孔を通して、右心房からの血液の一部が左心房に流入し、左心房からの血液の一部が右心房に流入します。このことにより、全身への酸素が少ないながらも確保されます。
●総肺静脈還流異常(「総肺静脈還流異常」)と血液の流れ(図「総肺静脈還流異常」
 肺で酸素を受け取り、肺静脈を流れてきた血液が左心房に入らず、すべて体静脈系(たいじょうみゃくけい)(上大静脈、右心房、冠状(かんじょう)静脈、門脈(もんみゃく)、肝静脈など)にもどってしまう状態です。
 左心房に血液がかえってこないので、このままでは全身に行く血液がないことになり、生命を維持することができないはずですが、必ず、心房中隔欠損をともなっていて、ここから右心房の血液が左心房へ流入します。この結果、血液が全身をめぐることになり、生命を維持できるのですが、酸素濃度が低いので、チアノーゼがおこるのです。
 チアノーゼの程度は、酸素化された血液の量と、酸素化されていない血液の量の比率で異なります。酸素化された血液の量が多いとチアノーゼは軽くなり、酸素化されない血液の量が多いとチアノーゼが強くなります。
 総肺静脈還流異常でも、右心房→右心室→肺動脈へと流れる血液が多くなるので、肺へ行く血液が多くなります。チアノーゼがあるのに肺血流量が増加するわけです。

◆弁疾患群(べんしっかんぐん)
 弁膜(弁)の異常には、弁膜が閉じて開かない閉鎖、弁膜が十分に開かない狭窄、血液が逆流する閉鎖不全の3つがあります。
 弁膜の閉鎖は、必ず短絡とほかの心臓の形態異常をともないますが、ここでは、弁にのみ異常があるケースについて解説します。
●弁膜の狭窄
 半月弁(はんげつべん)の狭窄(きょうさく) 右心室と肺動脈の境にある肺動脈弁と、左心室と大動脈の境にある大動脈弁とを合わせて半月弁といいます。
 肺動脈弁狭窄(「肺動脈弁狭窄(症)」)は右心室の心筋に、大動脈弁狭窄(「大動脈弁狭窄(症)」)は左心室の心筋に肥大(コラム「心臓の肥大と拡大」)がおこります。
 超音波ドップラー法という検査を行なうと、血流の速さを知ることができます。正常な血流の速さは、毎秒1m前後です。この検査で、血流速度が3~4mになると、治療が必要かどうか検討します。
 房室弁(ぼうしつべん)の狭窄 三尖弁と僧帽弁とを合わせて房室弁といいます。
 三尖弁狭窄があると、右心房の拡大がみられますが、ここに狭窄がおこるのは非常にまれです。僧帽弁狭窄があると、左房が拡大し、弁の狭窄の程度が強い場合は、からだを動かしたときの呼吸困難などの症状が現われます。
●弁膜の閉鎖不全
 半月弁の閉鎖不全 肺動脈弁閉鎖不全では右心室が、大動脈閉鎖不全では左心室が拡大します。
 房室弁の閉鎖不全 三尖弁の閉鎖不全では右心房と右心室が、僧帽弁の閉鎖不全(コラム「先天性僧帽弁閉鎖不全(症)」)では左心房と左心室の拡大がおこります。
弁膜の閉鎖不全と血液の流れ 弁の閉鎖不全が存在すると、心臓が大きくなります。その理由を大動脈弁の閉鎖不全を例にあげて説明します(図「大動脈弁閉鎖不全」)。
 大動脈弁の閉鎖不全があって、送り出された血液が、左心室に逆流してくると仮定します。
 左心室には、この逆流してきた血液①と、左心房から送られてきた血液①とを合わせた②の量の血液が同時に存在することになります。
 左心室は、この血液を送り出しますが、大動脈弁の閉鎖不全があるので、送り出せるのは①の量で、残りは左心室に逆流するわけです。
 ①の量の血液は全身をめぐるので、ふつうに生活できるのですが、多量の血液を入れておかなければならないために、左心室が拡大し、心臓がしだいに大きくなってくるのです。

先天性心疾患(せんてんせいしんしっかん)の症状
◎病気が発見されていない場合
 先天性心疾患は、生後、まもなく発見されることもありますが、発見されず、学童になってから診断がつくこともあります。つぎのような症状がみられたときは、心疾患の疑いがあります。
●新生児・乳児期の症状
 息づかいが荒い(努力呼吸)、呼吸数が多い(多呼吸)、ミルクの飲みが悪い(哺乳(ほにゅう)困難)、体重の増え方が悪い(体重増加不良)、くちびるの色が紫色に見える(チアノーゼ)など。
●幼児期の症状
 歩いてもすぐ座り込んでしまう、長い距離を歩かない、多呼吸がみられる、気を失うことがある(失神発作(しっしんほっさ))など。
●学童期の症状
 周囲の子どもの運動についていけない、動悸(どうき)を訴える、気を失うなど。
◎病気の存在がわかっている場合
 すでに先天性心疾患の存在がわかっている子どもの場合は、日常の状態に注意します。
●肺血流量増加群(はいけつりゅうりょうぞうかぐん)の症状
 新生児・乳児期には、機嫌、ミルクの飲み具合、体重の増え方、呼吸数、脈拍数、手足の冷たさ、チアノーゼの有無に、幼児期には、機嫌や活動(いつもと同じように活動しているか)に注意します。そして、多呼吸、努力呼吸、哺乳困難、体重増加不良がみられたときは、医師の診察を受けましょう。
 肺血流量増加群を示す先天性心疾患は、幼児期までに治療が完了していることが多く、学童期になって症状が出てくることは少ないものです。
●肺血流量減少群(はいけつりゅうりょうげんしょうぐん)の症状
 肺血流量減少群のおもな症状は、皮膚や粘膜(ねんまく)が紫色になるチアノーゼです。
 くちびるや手足の皮膚にチアノーゼがみられたときは、口の中の粘膜(口腔(こうくう)粘膜)も見てみましょう。口腔粘膜にまでチアノーゼがみられたときは、先天性心疾患によるチアノーゼなのです(コラム「チアノーゼのいろいろ」)。医師の診察が必要です。
 チアノーゼが急に強くなり、不機嫌になって、ひどいときにはけいれんがおこることがあります。これをチアノーゼ発作といい、生命にかかわることがあります。チアノーゼ発作は、右心室(うしんしつ)の出口の漏斗部(ろうとぶ)に狭窄(きょうさく)があるとおこるとされています。漏斗部は筋肉でできているため、ここに狭窄がおこると、一時的に収縮力が強くなりすぎて、肺へ流れる血液が減少し、全身へ流れる血液の酸素の量が減ってチアノーゼが現われると考えられています。
 何の理由もなく不機嫌となり、チアノーゼが強くなる場合は、チアノーゼ発作のことがあります。必ず、担当の医師に相談してください。
●弁疾患群の症状
 半月弁(はんげつべん)の狭窄の症状 症状の出ないことが多いのですが、大動脈弁(だいどうみゃくべん)狭窄の場合は、乳児期に多呼吸、努力呼吸、哺乳困難、体重増加不良などがみられることがあります。
 房室弁(ぼうしつべん)の狭窄の症状 房室弁狭窄のうち、頻度が高いのは僧帽弁(そうぼうべん)狭窄で、三尖弁(さんせんべん)狭窄がおこることはきわめてまれです。房室弁狭窄は、症状のないこともありますが、乳幼児期に多呼吸、努力呼吸、哺乳困難、体重増加不良などの肺血流量増加群と同じ症状がおこることがあります。
 年長児では、からだを動かしたときの呼吸困難がみられます。
 僧帽弁閉鎖不全(へいさふぜん)、三尖弁閉鎖不全の症状 症状のないこともありますが、からだを動かしたときの呼吸困難がみられることもあります。
 閉鎖不全の程度が強いときは、多呼吸、努力呼吸がおこります。

先天性心疾患(せんてんせいしんしっかん)の合併症
 先天性心疾患には、つぎのような合併症がおこることがあります。
■感染性心内膜炎(かんせんせいしんないまくえん)(細菌性(さいきんせい)心内膜炎)
 心臓に形態異常があると、心臓に細菌が感染することがあります。これを感染性心内膜炎といい、からだの中に長期間、細菌が存在する状態(むし歯、慢性蓄膿症(ちくのうしょう)など)をなくすことが、予防にはたいせつになります。
 たとえば、先天性心疾患のある子どもがむし歯の治療を受ける場合は、治療を担当する歯科医に心臓病である旨を、必ず伝えてください。抗生物質を使用することで感染性心内膜炎の発症を予防できます。
 感染性心内膜炎の症状は、発熱とともに、心臓の障害の程度によって心不全の症状(多呼吸、からだを動かしたときの呼吸困難など)がみられます。
 症状が、発熱だけのこともあります。先天性心疾患をもつ子どもに熱が長期間続く場合は、必ず、循環器専門の医師に相談してください。
■中枢神経系の合併症
 右左短絡(みぎひだりたんらく)(静脈血が動脈血に混じる状態)をおこす病気(ファロー四徴(しちょう)、肺動脈狭窄など肺血流量減少群のことが多い)があると、脳梗塞(のうこうそく)や脳膿瘍(のうのうよう)などの中枢神経系の合併症をおこすことがあります。このときは、発熱、頭痛、けいれんなどが現われます。
■不整脈
 エプシュタイン病(「エプシュタイン病」)や房室中隔欠損(ぼうしつちゅうかくけっそん)(心房と心室とを隔てている房室中隔に孔(あな)が開いていたり、房室中隔がまったくなかったりする状態で、心内膜欠損症、共通房室弁口(きょうつうぼうしつべんこう)などとも呼ばれる)があると、房室ブロック(「房室ブロック」)やWPW(「WPW症候群」)という不整脈をともなうことがあります。また、心臓の手術をしたために房室ブロックがおこることもあります。
 症状や心臓にかかる負担の程度によって、不整脈の治療が必要になります。

先天性心疾患(せんてんせいしんしっかん)の治療
◎内科的治療
◎外科的治療

◎内科的治療
 薬物療法とカテーテル治療とがあります。
●薬物療法
①利尿薬(りにょうやく)
 余分な水分がからだにたまるのを予防するために用います。
②強心薬
 心臓の筋肉(心筋(しんきん))の収縮力をよくしたいときに用います。
③プロスタグランジン製剤
 非常に重要な薬です。動脈管を開いておきたいときに用いるもので、つぎの2つの場合があります。
 大動脈縮窄(しゅくさく)、大動脈離断(りだん)、左心(さしん)低形成などで、体循環(たいじゅんかん)への血流の一部または全部が動脈管を介して維持されているときと、肺動脈閉鎖や非常に強い肺動脈狭窄があって、動脈管を介して肺への血流が維持されているときに用いられます。
④解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)
 一部の薬が、動脈管を閉じるのに用いられることがあります。
⑤一酸化窒素(いっさんかちっそ)
 肺高血圧の治療に用いられます。
⑥酸素
 小児では、肺高血圧があるケースやチアノーゼの強い肺血流量減少群に酸素投与が行なわれます。
 この治療は、自宅で行なうことができます(在宅酸素療法(ざいたくさんそりょうほう))。
 肺血流量増加群への酸素投与は、肺血流量をさらに増加させ、さらに症状を悪化させることがあるので、行なうかどうか慎重に判断されます。
●カテーテル治療
 心臓カテーテル検査(コラム「先天性心疾患の検査と診断」)と同じ方法でカテーテルを心臓に送り込み、カテーテルを操作して行なう治療で、広く行なわれるようになりました。
 心臓の弁膜(べんまく)や血管に狭くなっている部位(狭窄)があれば、先端にバルーン(風船)のついたカテーテルを入れ、バルーンをふくらませて狭窄をおこしている部分を広げます。再び狭窄がおこるのを防ぐためにステントという材料を使用することもあります。
 異常な血管(毛細血管の手前で動脈と静脈が直接つながっている動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)など)があれば、コイルなどのいろいろな材料をカテーテルを介して送り込み、血管の内腔(ないくう)を詰(つ)めます。
 心房中隔欠損、心室中隔欠損などの孔をカテーテルを用いて閉塞(へいそく)させ、短絡を途絶させる治療も行なわれるようになっています。

◎外科的治療
 外科的治療には、最終手術と準備手術とがあります。そして最近、つぎのような進歩がみられています。
①低侵襲化(ていしんしゅうか)
 手術創(しゅじゅつそう)(手術の傷跡)を小さくしたり、輸血しない無輸血手術などが行なわれています。
②低年齢化
 手術を行なえる年齢が低下し、新生児期でも行なわれます。
③自己組織を用いた治療
 大動脈弁狭窄や大動脈弁閉鎖不全の場合、これまでは人工弁(じんこうべん)に取り替える人工弁置換術(ちかんじゅつ)が行なわれてきましたが、最近は、その子どもの肺動脈弁を大動脈弁として用いるロス手術が行なわれるようになってきました。この結果、低年齢の子どもでも、これらの病気の外科的治療ができるようになりました。
 そのほか、できるだけ手術で使用する人工物を少なくする工夫がされています。
●最終手術
 最終手術のほとんどは、どの年齢でもできます。症状があれば、新生児期でも実施できます。一般に手術時の年齢は、年々低下の傾向にあります。
 最終手術は、心臓の状態によって大きく2つに分けられます。
 1つは、心室を、肺循環(はいじゅんかん)を担う心室と体循環を担う心室に分ける手術で、血液の流れ方が正常に近くなります。この手術ができるのは、房室弁、および心室が2つに分けられる状態にあることが条件です。
 一方、心室を2つに分けられないケースもあります。この場合は、心室を体循環を担える心室として使用します。体循環から帰ってきた血液を、そのまま肺動脈に流します。肺循環を担う心室がなくても、血液の流れが維持できます。この手術をフォンタン型手術(右心バイパス手術)といい、肺血管がある程度以上発育していて、肺動脈の圧が十分に低ければ実施できます。1歳ごろより行なわれることもあります。
●準備手術
 最終手術ができるようになるまでの間をつなぐ手術で、根本的な手術でない手術という意味で、かつては姑息手術(こそくしゅじゅつ)と呼ばれていました。
 最近は、心臓の状態がわかった段階で外科的治療計画が立てられ、これにそって外科治療が行なわれます。この結果、最終手術を目指した準備的な意味合いが強くなり、準備手術と呼ばれるようになっています。
 ただし、準備手術を行なった後の心臓の状態によっては、最終手術ができないこともあります。
 準備手術には、おもにつぎのようなものがあります。
体肺動脈短絡術(たいはいどうみゃくたんらくじゅつ)
 ブラロック手術、ブラロック・トーシッヒ手術(BT手術)などと呼ばれます。肺への血流量を増加させ、チアノーゼを軽減させるとともに、肺動脈と心室の発育を促すことを目的とした手術です。
 体動脈と肺動脈とを人工血管でつなぐことが多いのですが、鎖骨下動脈(さこつかどうみゃく)を直接、肺動脈につなぐ方法が用いられることもあります。
 肺血流量が増加すると、チアノーゼは軽くなるのですが、肺血流量増加の症状(呼吸が荒い、体重が増えないなど)が現われることもあります。
肺動脈絞扼術(はいどうみゃくこうやくじゅつ)
 肺動脈を狭くし、肺へ流れる血液量を少なくする手術です。
 肺血流量増加群で、幼少期に最終手術が困難なケースに行なわれます。肺血流量が多いためにおこる肺血管の障害を少なくし、肺高血圧の進行を防ぐのが目的です。
 肺動脈の狭窄が強くなると、チアノーゼが強くなってきます。
統合的肺動脈再建術
 肺動脈の発育が非常に悪いか、肺動脈が体循環の横道(側副血行路(そくふくけっこうろ))でできていることがあります。この場合、手術をして、肺動脈の統合を行ない、将来の肺動脈となる部分を人工的に再建します。
その他の手術
 複数の心臓の形態異常が存在する場合は、何回かに分けて、修復術が行なわれることもあります。
●心臓移植
 左心低形成に対し、外国では、心臓移植が行なわれることがあります。
 また、最終手術の後、肺高血圧が残る、心筋の状態が悪いといった場合は、心臓移植や肺移植などが考えられます。

日常生活の注意
●予防接種
 原則として、受けてはいけない予防接種はありません。
 ただ、発熱などの副作用のために先天性心疾患の症状を悪化させることもあるので、接種を受ける前に循環器の担当医に相談したほうがいいでしょう。
●運動
 運動すると症状が悪化したり、頻拍(ひんぱく)などの不整脈がおこったりする場合は、運動を制限する必要があります。ただし、小学校低学年ぐらいになるまでは、運動を制限することは困難です。子どもの自主性に任せ、叱咤激励(しったげきれい)しないようにしましょう。
 狭窄性(きょうさくせい)病変(とくに大動脈狭窄と肺動脈狭窄)は、程度が強くても症状がなく、子どもは平気で動き回ります。症状と病気の重症度とが一致しないのです。狭窄性病変が強いと、突然、悪化することがあるといわれますので、ふだんから運動を控えるように言い聞かせておくことが必要です。
●公的医療サービス
 小児特定慢性心疾患、育成医療、乳児医療、身体障害者助成などの公的医療サービスを受けることができます。居住する市区町村役所の福祉課や病院の相談窓口で相談しましょう。また、患者の会もあって、いろいろの相談ができます。
◎手術後の注意と問題点
 手術後、心不全、肺高血圧、不整脈が残ることがあります。この場合は、担当医とよく相談することが必要です。
 まれですが、手術後に新たな異常が出てくることもあるので、決められた定期検診は、必ず受けてください。
 治療の進歩により、手術後成人に達する人が増え、就職、結婚、出産などについて専門家による検討が行なわれています。成人の先天性心疾患の診察を専門とする外来を設けている医療機関も出てきています。

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世界大百科事典 第2版の解説

せんてんせいしんしっかん【先天性心疾患 congenital heart disease】

生れつきの心臓および大血管の構造上の異常,すなわち奇形をいう。先天性心疾患をもって生まれてくる子どもの数は,出生1000に対して6~10と推定されており,学童期になると1000人中約2人となる。この間の減少は乳幼児期に死亡するものの多いことと,心室中隔欠損の自然閉鎖による。いずれにしても小児期の心臓病の大多数を占めるものである。 原因は一般的には遺伝と環境相互作用と考えられているが,個々の患者で原因を明らかにすることは困難なことが多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

先天性心疾患
せんてんせいしんしっかん

小児心疾患のうち、乳幼児にみられるもっとも重要な疾患で、代表的なものは心臓奇形である。[編集部]

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世界大百科事典内の先天性心疾患の言及

【心臓弁膜症】より

…心臓弁膜症とは,この四つの弁自体あるいはその弁の支持組織になんらかの障害が加わり,血流を一方向へ流すという弁本来の生理的な役割が失われ,その結果,心臓ポンプ機能が障害された状態をいう。心臓弁膜症の診断が聴診によってのみ行われた時代,すなわち心音図(心音)や心エコー図心臓カテーテル法などの診断法が確立される以前の時代には,被検者から異常心雑音を聴取すればそれのみで心臓弁膜症と診断されたため,先天性心疾患,無害性の心雑音をもそのなかに含んでいることが多かった。しかし聴診法の進歩と上記診断法の発展によって,弁の障害のされ方には弁口が狭くなる弁狭窄,および弁の閉鎖が完全でなく逆流を生ずる弁閉鎖不全があり,ときに両者が一つの弁に同時に起こることが明らかとなった。…

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