心臓薬(読み)しんぞうやく

改訂新版 世界大百科事典 「心臓薬」の意味・わかりやすい解説

心臓薬 (しんぞうやく)

心臓に作用する薬物を総称して一般に心臓薬というが,この名称は薬理学では用いられない。その中身は大別して強心薬,抗不整脈薬,狭心症治療薬である。

種々の原因で心臓の機能が低下している場合に,心筋の収縮力を高める目的で用いる。代表的なものは,ゴマノハグサ科の植物ジギタリスの葉,キョウチクトウ科の植物ストロファンツス種子,ユリ科の植物カイソウ(海葱)などの生薬,およびこれらの有効成分である強心配糖体である。いずれもステロイド骨格を有する配糖体で強心ステロイドとも呼ばれる。ジギトキシンジゴキシンストロファンチンなどである。またこれらの糖がとれた形のゲニンも強心作用を示す。ガマ皮膚腺分泌物にもブホタリンブホトキシンなどの強心ステロイドが含まれる。そのほか,カテコールアミン類(アドレナリンノルアドレナリン)やキサンチン誘導体(カフェインテオフィリン)なども強心作用を有する。
強心薬

心臓拍動の乱れが不整脈で,これを治療する薬物をいう。代表的なものはキニジンプロカインアミドである。キニジンは,マラリア治療薬キニーネ投与時に不整脈が改善されることから見いだされたもので,キニーネの光学異性体である。プロカインアミドは局所麻酔薬プロカインの化学構造をわずかに変えたものである。一般に局所麻酔薬は抗不整脈作用を有する。このほかに,アジマリン,ディソピラミドなどがあり,さらに最近では,交感神経β遮断薬プロプラノロールなども用いられている。不整脈は心筋の興奮性が異常に亢進した状態とみなすことができるので,抗不整脈薬は心筋抑制薬と考えることもできる。

狭心症とは,心臓に血液を供給する血管(冠血管)がなんらかの病因で狭窄し,そのために心筋への酸素供給が不足するために生ずる疾患である。古くは狭心症の治療には冠血管拡張薬のみが用いられ,したがって狭心症治療薬とは血管に作用する薬物であった。しかし近年,狭心症治療は冠血管の拡張(酸素供給の増加)および心臓活動の抑制(酸素消費の減少)の両面から考えられるようになった。すなわち狭心症は,心筋への酸素供給と心筋の酸素消費のバランスのくずれとしてとらえられ,治療はその改善を目的とするようになった。狭心症治療薬も心臓作用薬と考えられるわけである。古典的な冠血管拡張薬としてニトログリセリン,亜硝酸ナトリウムのような亜硝酸化合物があり,合成冠血管拡張薬としてはジピリダモールやカルボクロメンがある。プロプラノロールなどの交感神経β遮断薬が近年,狭心症に用いられるようになったが,おもな作用機構は心筋酸素消費を減少させることであろうと考えられている。さらに,近年開発された一群のカルシウム拮抗薬(ニフェジピンやジルチアゼム)は,冠血管拡張とともに心筋酸素消費を減少させることによって,狭心症に奏効するものと考えられている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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