診療に従事する医師は、診察や治療を求められた場合には、正当な理由なく拒否してはならないとする義務。医師法第19条に規定されている。
医師法に応召義務が規定された当時(1948)と異なり、現在の医療提供体制は、医療計画のもと、医療施設間の機能の分担および業務の連携が進められており、医師の専門分化も進んでいる。厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会報告書(2019年3月)」によると、「応召義務については、医師が国に対して負担する公法上の義務であり、医師個人の民刑事法上の責任や医療機関と医師の労働契約等に法的に直接的な影響を及ぼすものではなく、医療機関としては労働基準法等の関係法令を遵守した上で医師等が適切に業務遂行できるよう必要な体制・環境整備を行う必要がある」とされている。「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究」(2018年度厚生労働科学研究)では、応召の義務の整理だけでなく、医療機関・医師が診療しないことが正当化される考え方などについても整理されている。
この報告書を受け、「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」という厚生労働省局長通知が出された(2019年12月)。これによると患者を診療しないことが正当化される場合、正当化されない場合の事例の整理として三つの要素があげられている。
(1)緊急対応が必要な場合か否か(病状の深刻度。深刻/安定)
(2)診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内/診療時間外・勤務時間外
(3)患者と医療機関・医師の信頼関係(個別事例ごとに整理されている)
以下に、診療しないことが正当化される事例を紹介する。
(1)病状の深刻な救急患者などへの緊急の対応が必要なケースで、診療を求められたのが診療(勤務)時間外である場合。診療を求められたのが診療(勤務)時間内であっても、医師の専門性、診察能力や医療設備などの事情により事実上診療が不可能な場合。
(2)病状が安定しているなど緊急の対応が不要なケースで、診療を求められたのが診療(勤務)時間外である場合。この場合でも、時間内の受診を依頼する、他の診療可能な医療機関を紹介するなどの対応をとることが望ましいとされる。
(3)患者が診療内容とは関係のないクレームを繰り返すなどの迷惑行為がある場合。
(4)医療費の支払能力があるにもかかわらず、悪意をもってあえて支払わない場合。
(5)入院継続の必要性がない場合に退院させることや、病状に応じて転院を依頼・実施すること。
(6)言語が通じない、宗教上の理由などで診療行為が著しく困難である場合。この場合でも、患者の年齢、性別、人種、国籍、宗教などのみを理由に診療を拒否することは正当化されない。
(7)特定の感染症(1類・2類感染症)など、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症に罹患(りかん)または疑いのある患者の場合。
応召義務違反の罰則は医師法に規定されていない。応召義務は、医師法に基づき医師が国に対して負担する公法上の義務であり医師が患者に対して直接負担する義務ではないと考えられている。しかし、民事責任については、応召義務が患者保護の側面をもつ規定と考えられることを踏まえ、診療拒否によって患者に損害が生じた場合に、医師に過失があったと推定し、民事上の賠償責任を認めるという趣旨の地方裁判所の判例がみられる。上記の通知の事例以外にも診療を求められる場面についてはさまざまな状況が想定され、今後も診療しないことに対する「正当な事由」と考えられる事例の整理が望まれる。
[前田幸宏 2024年11月18日]
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