宋(そう)・元(げん)・明(みん)の中国近世期、哲学界で主題であった、人間の本性について論究した学問。朱子学派、陸王学派が主役を果たす。本性論は先秦(しん)時代に論議が沸騰し、やがて、孟子(もうし)(孟軻(もうか))の性善説が近世期の本性論の正統の地位を占める。北宋時代に二程子(程顥、程頤(ていい)の兄弟)が出現してから性理学が復興し、それを集大成したのが南宋の朱子(朱熹(しゅき))である。孟子その人は性善の普遍的論拠を提示しなかった。そこで朱熹は、『中庸(ちゅうよう)』冒頭の「天命之謂性」と孟子の「性善」を連結し、性善の普遍的根拠を天命に求め、人間の本性が善であることは、万人が抗拒不可能な先天的事実であると主張した。天命は天理(定理、理)ともいわれ、ここに「性善」説は「性即理」説と表現された。陸象山(りくしょうざん)(九淵(きゅうえん))、王陽明(守仁(しゅじん))などの心学路線の思想家は、性善説を前提としながら、「心即理」説を主張した。
朱子学では心(人格的統一主体)の背理可能性を危惧(きぐ)して、心を統御する本性に理を認めたのに対して、陸王学では、心が本来完全であることを覚醒(かくせい)させようとした。性善とは自力による自己救済の可能性をいい、性理学とはその原理と方法を探究する学問である。性理学は、中国では明末清(しん)初まで思想界の主題であった。朝鮮王朝(李氏(りし)朝鮮)では朱子学のみが盛んであった。日本では江戸時代に、とくに山崎闇斎(あんさい)学派が深く究め、幕末維新期には陽明学も盛んになった。日本での特色は、自力主義がかならずしも貫徹せず神道と融合したことである。西洋哲学が浸透するにつれて衰えた。
[田公平]
『島田虔次著『朱子学と陽明学』(岩波新書)』▽『荒市見悟著『仏教と儒教』(1963・平楽寺書店)』
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…このように朝鮮儒教の担い手である両班=士大夫たちは農村に生活と社会基盤をもち,朝廷と農村・山林という幅広い活動舞台をもっていた。 第2に朝鮮の儒教は朱子学一尊,それも性理学=道学(理学)中心の朱子学であった。儒教は修己治人の学である以上,朱子学も経世済民的側面(治人)と精神陶冶的側面(修己)の2面をもつ。…
…とりわけ〈道学〉という呼称は,朱熹の晩年,当局がこれを〈偽学〉と貶称(へんしよう)して危険思想の烙印(らくいん)を押し,朱熹とその学団を弾圧するに及んで,かえって社会的に定着した。後世ではこれらの呼び名のほかに,北宋・南宋の道学を総称して〈程朱学〉〈洛閩(らくびん)の学〉〈性理学〉などという呼称も行われた。欧米ではNeo‐Confucianism(新儒教主義)という。…
※「性理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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