改訂新版 世界大百科事典 「怪異談牡丹灯籠」の意味・わかりやすい解説
怪異談牡丹灯籠 (かいだんぼたんどうろう)
通称《牡丹灯籠》。(1)人情噺の作品。中国呉山の宗吉(そうきつ)(瞿佑,1341-1427)の小説《剪灯新話(せんとうしんわ)》を,1666年(寛文6)浅井了意が《御伽婢子(おとぎぼうこ)》として翻案。その中の《牡丹灯記》は,山東京伝,鶴屋南北も脚色しているが,明治の人情噺の名人三遊亭円朝が《怪談牡丹灯籠》として創作した。麴町の旗本飯島平左衛門の娘お露は,萩原新三郎に恋をしたが,父に許されず,こがれ死にして幽霊となり,毎夜牡丹灯籠をさげて新三郎のもとへ通った。その怪談に,飯島家の忠僕黒川孝助が平左衛門の妾お国の密通をあばく筋と,萩原家の下男伴蔵がお露の幽霊をおどかして百両をとるという悪事の筋とをからませた。円朝はこの物語を22夜にわたって寄席で口演。お露の幽霊が〈カランコロン〉と下駄の音をさせてくるというので,一世を風靡した。《塩原多助》とともに円朝の二大傑作といわれ,1884年若林玵蔵の手で,講談,落語の最初の速記本として出版された。(2)歌舞伎狂言。世話物。7幕17場。1892年7月東京歌舞伎座初演。同年春,円朝の《塩原多助》を歌舞伎化した《塩原多助一代記》の大当りに続いて,歌舞伎座の興行師田村成義が企画,文芸部長に当たる福地桜痴が構成立案。3世河竹新七ら河竹一門が細部を執筆した。歌舞伎化に当たり,《怪異談牡丹灯籠》と7字に改題。5世尾上菊五郎が孝助と伴蔵の善悪両様の下男役と乳母お米の幽霊の3役で主演し,大当りをとった。この配役でもわかるとおり,歌舞伎の中心は,お露新三郎よりも,孝助と伴蔵である。ことにおもしろいのは伴蔵とお峰の夫婦の描写で,幽霊から金をもらう伴蔵のユーモラスな悪党ぶり,その悪事を知ったお峰が嫉妬のあまり伴蔵に殺されるところのリアリティは,初演の伴蔵(5世菊五郎),お峰(2世坂東秀調)の舞台を見て,観客が思わず〈だから女はしようがねえ〉と叫ぶほど真に迫っていたという。伴蔵の役は,5世から6世菊五郎,さらに2世尾上松緑に伝わっている。
執筆者:渡辺 保
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報