家庭医学館 「悪性軟部腫瘍」の解説
あくせいなんぶしゅよう【悪性軟部腫瘍 Malignant Soft Tissue Tumor】
軟部腫瘍(コラム「軟部腫瘍とは」)のなかでも、腫瘍が発生した部位で発育するばかりでなく、肺、骨、リンパ節などに転移をおこす可能性をもったものを、悪性軟部腫瘍といいます。
悪性軟部腫瘍は、10万人あたり2.0人に発生するといわれています。したがって、悪性骨腫瘍(あくせいこつしゅよう)の2.5倍も多く発生する病気、ということになります。
悪性軟部腫瘍には多くの種類がありますが、なかでも、比較的多くみられる腫瘍が、悪性線維性組織球腫(あくせいせんいせいそしききゅうしゅ)(「悪性線維性組織球腫」)です。
そのほか脂肪肉腫(しぼうにくしゅ)、横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)、滑膜肉腫(かつまくにくしゅ)、平滑筋肉腫(へいかつきんにくしゅ)、悪性神経鞘腫(あくせいしんけいしょうしゅ)、線維肉腫(せんいにくしゅ)など、いろいろな腫瘍があります。
[症状]
多くの悪性軟部腫瘍の初期症状は、腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)の形成で発病します。
腫瘤が皮下(ひか)の浅いところにできた場合は、簡単に発見できます。しかし、大腿(だいたい)(太もも)や臀部(でんぶ)のように、脂肪や筋肉がたくさん集まっているところで、深い位置に発生すると、腫瘤がよほど大きくならなければ見つからないこともあります。
痛みをともなう例もありますが、その種類は少なく、ほとんどの場合、痛みをともなうことはありません。したがって発見が遅れることもあります。
[検査と診断]
診断のためには、触診によって腫瘍を触れることが、まず第一です。
骨腫瘍と異なり、X線の画像ではとらえにくいので、単純X線検査はあまり役に立ちません。この病気には、超音波断層検査が診断にとって、たいへん有用となります。
悪性の疑いがある場合は、CT、MRIなどの高度な画像検査が行なわれます。
診断を確定するには、腫瘍の一部をとって顕微鏡で調べる病理組織学的検査(生検(せいけん))が必要です。
特殊な針を、体外から腫瘍にさして行なう針生検は、外来でもできる簡単な病理組織学的検査の一種です。
[治療]
悪性軟部腫瘍の治療は、腫瘍を手術で確実に切除することが基本です。
腫瘍が大きく、切除が不可能な場合には、腕や脚(あし)などを切断することが必要になることもあります。
腫瘍の種類によっては、転移を防止するために、抗がん剤などを使って、補助的な化学療法を行なうこともあります。また、腫瘍が大きい場合には、転移を防止するとともに、手術の効果を高めるため、手術の前に、腫瘍への放射線の照射、温熱療法、化学療法などを組み合わせた治療を行なうこともあります。
腫瘍の種類によって、治療成績にちがいがありますが、悪性軟部腫瘍全体としては、手術後の5年生存率(5年たった時点での生存率)は64%となっています。
しかし、治療を開始した時点で転移がない場合には、5年生存率は75%となっています。