手根管症候群(読み)シュコンカンショウコウグン(英語表記)Carpal tunnel syndrome

デジタル大辞泉 「手根管症候群」の意味・読み・例文・類語

しゅこんかん‐しょうこうぐん〔シユコンクワンシヤウコウグン〕【手根管症候群】

指や手首の屈曲をつかさどる正中神経が手首の手根管で圧迫され、指にしびれや痛みが起こる病気CTS(Carpal tunnel syndrome)。

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六訂版 家庭医学大全科 「手根管症候群」の解説

手根管症候群
しゅこんかんしょうこうぐん
Carpal tunnel syndrome
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 手首の手のひら側にある骨と靭帯(じんたい)に囲まれた手根管というトンネルのなかを、正中神経と9本の指を曲げる筋肉の腱がとおっています。このトンネルのなかで神経が慢性的な圧迫を受けて、しびれや痛み、運動障害を起こす病気です。

原因は何か

 手の過度の使用、妊娠によるむくみ、骨折や腫瘤(しゅりゅう)によるトンネルの圧迫、血液透析(とうせき)によるアミロイドという物質の沈着などが原因になります。中年以降の女性に多く起こります。

 前記のようにさまざまな原因があるので、ひとつに限定することが困難な場合があります。

症状の現れ方

 初めは人差し指、中指を中心に親指と薬指の親指側に、しびれと痛みが起こります。これらの症状は朝、目を覚ました時に強く、ひどい時は夜間睡眠中に痛みやしびれで目が覚めます。この時に手を振ったり、指の運動をすると楽になります。

 進行すると親指の付け根の母指球筋(ぼしきゅうきん)という筋肉がやせてきて、細かい作業が困難になります。とくに親指を他の指と向かい合う位置にもっていく対立運動ができなくなります。

検査と診断

 手首の手のひら側をたたくと、痛みが指先にひびくティネル徴候がみられます。手首を手のひら側に最大に曲げるとしびれや痛みが増強する、手関節屈曲テストが陽性になります。

 電気を用いた検査では、神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間が長くなります。知覚テスターという機器で感覚を調べると、感覚が鈍くなっています。

 首の病気による神経の圧迫や、糖尿病神経障害手指の他の腱鞘炎(けんしょうえん)との鑑別が必要です。

治療の方法

 しびれや痛みが軽症~中等症の場合は、手首を安静に保つための装具を使用したり、ステロイド薬のトンネル内注射を行います。内服薬では消炎鎮痛薬やビタミンB剤を使用します。これらの保存療法が効かない場合や、筋肉にやせ細りがある場合は手術を行います。

 手術の方法は、靭帯を切ってトンネルを開き、神経の圧迫を取り除きます。トンネルの上を4~5㎝切って行う場合と、トンネルの入り口と出口付近でそれぞれ1~2㎝切って内視鏡を入れて行う場合とがあります。

病気に気づいたらどうする

 指にしびれや痛みがあり、朝起きた時にひどかったり夜間睡眠中に目が覚めるようなら、整形外科を受診してください。

 親指の付け根の筋肉がやせていれば、手術を含めた早急な治療が必要です。この状態が長く続くと、トンネルを開放する手術だけでは回復できず、腱移行術という健康な筋肉の腱を移動する手術が必要になります。

関連項目

末梢神経が圧迫される病気総論

鈴木 克侍

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「手根管症候群」の解説

しゅこんかんしょうこうぐん【手根管症候群 Carpal Tunnel Syndrome】

[どんな病気か]
 腕から手先に伸びる正中神経(せいちゅうしんけい)が、手首の手のひら側で、手の骨(手根骨(しゅこんこつ))と横手根靱帯(おうしゅこんじんたい)からなるトンネル(手根管(しゅこんかん))の中で絞扼(こうやく)(圧迫)されるためにおこる正中神経障害(せいちゅうしんけいしょうがい)です。
 絞扼性神経障害の代表的な病気で、全体の40%は両手におこります。
 10対1の割合で女性が多く、とくに閉経期(へいけいき)前後の中年女性によくおこります。妊娠中や出産後に発病することもあります。
[症状]
 手のひらの親指側、親指から薬指にかけてのしびれ感、ピリピリ、ヒリヒリした痛みが現われます。しびれと痛みは、夜間に強くて眠れなかったり、早朝の起床時に強いことがあります。
 さらに進行すると、手のひらの親指側の筋肉が萎縮(いしゅく)して、ふくらみがなくなり、親指と小指を使って物をつかむことができなくなります。
[原因]
 はっきりした原因は不明ですが、中年女性に多くおこることから、ホルモンの影響が考えられています。
 その他、リウマチ性などによる屈筋腱滑膜炎(くっきんけんかつまくえん)(手首を曲げる筋肉の腱周囲の膜の炎症)や橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)(前腕の親指側にある骨の手首近くの骨折)後の変形による絞扼があります。
 最近増加しているのが、人工透析(じんこうとうせき)をしている人の手根管症候群で、アミロイドという物質の沈着によっておこる屈筋腱滑膜炎が原因です。
 これらの原因に、手の使いすぎが加わると発病することが多いようです。
[検査と診断]
 手首を手のひら側に強く曲げる手関節掌屈試験(しゅかんせつしょうくつしけん)でしびれが強くなったり、手首の手のひら側をたたいたとき、親指、人指し指、中指に痛みやしびれが走れば、手根管症候群を疑います。
 補助的な診断法として、MRI、超音波検査、電気生理学的検査があります。MRI、超音波検査では、正中神経の圧迫の状態や腫瘍(しゅよう)の有無がわかります。電気生理学的検査では、神経が圧迫されている部位がわかります。
[治療]
 手をできるだけ使わないようにし、安静を保つために装具で手首を固定したりします。また、消炎鎮痛薬やビタミン剤の内服、正中神経の周囲への副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬の注射なども行なわれます。
 こうした治療で、たいていは症状が軽くなりますが、ときには手術が必要となる場合もあります。
 手術は、外来あるいは約1週間の入院でできます。麻酔は、わきの下の腋窩神経(えきかしんけい)ブロック、または局所麻酔が行なわれます。
 手首の手のひら側を約7cm切り開き、正中神経を絞扼している横手根靱帯を切り離す手術が行なわれますが、最近では、関節鏡を用いて約1cm切開するだけで手術が可能になっています。
 手術後、指のしびれはすぐに軽くなり、手が使えるようになりますが、筋力の回復には長期間(1年以上)かかることが多いようです。

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改訂新版 世界大百科事典 「手根管症候群」の意味・わかりやすい解説

手根管症候群 (しゅこんかんしょうこうぐん)
carpal tunnel syndrome

手根管内でおこる正中神経の機能障害。40~50歳以降の女性が,親(母)指,人差(示)指,中指のしびれや痛みのために夜間目を覚ますことがあると訴えた場合,整形外科の専門医はこの疾患を考える。手根管とは,手関節部の掌側にあり,手根骨と靱帯(じんたい)で囲まれた狭い通路のことをいう。その中には5本の指にいく屈筋腱が通っている。一方,手には,その知覚や運動をつかさどる神経として正中神経,尺骨神経,橈骨(とうこつ)神経がある。正中神経が手根管の中を通っていることが,この疾患の発症に密接な関係がある。つまり正中神経が手根管内でなんらかの原因で圧迫を受けて,神経の刺激症状や麻痺の症状を起こしたのがこの疾患の病態である。正中神経の知覚繊維が障害されると,親指,人差指,中指の指先と薬(環)指の親指側半分にぴりぴりした異常感,痛み,しびれ感が現れることになる。また運動繊維が圧迫されると,親指のつけ根のふくらみの部分にある母指球筋の力は弱くなり,やがて萎縮して働きを失ってしまう。親指の細かい運動が障害され,とくにつまみ動作が不自由になる。手根管で正中神経が圧迫される機序については,もともとこの通路は非常に狭く,手関節を背屈したり掌屈したりすることによって内圧が増加することと関係がある。手関節の背掌屈運動をくり返しながら指を曲げたり伸ばしたりの仕事を続けているうちに,正中神経は屈筋腱によって圧迫を受けてついには麻痺の状態になるのである。月経閉鎖期の中年女性や妊婦に多いことなどからホルモンも関係しているらしいが確かな根拠はない。手関節部の骨折,脱臼や,関節症,リウマチ性腱鞘炎があっても,手根管は狭くなり神経圧迫の原因となる。夜間に症状が増強するのは,就寝時には血液が四肢末梢に鬱滞(うつたい)して,神経圧迫が強くなるためである。治療は初期であれば局所の安静が第一である。手根管内にハイドロコルチゾンを注入することもある。しかし麻痺がどんどん進行する場合には,手根管を縦に切り開いて神経への圧迫を取り除いてやる。母指球部の筋肉の萎縮や知覚鈍麻が極端に強くならないうちに手術をすれば予後は良好である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「手根管症候群」の意味・わかりやすい解説

手根管症候群
しゅこんかんしょうこうぐん

手根管内部を通る正中神経が締めつけられてすぼまり、狭窄(きょうさく)をおこすことにより生じる絞扼(こうやく)性神経障害。手根管は、手首に近い部分にある八つの骨で構成される手根骨と、手掌の付け根寄りの部分にある横手根靭帯(じんたい)に囲まれた管腔(くう)をさす。英語名称はcarpal tunnel syndromeで、略称CTS。正中神経が支配する手指(母指(ぼし)・人差し指・中指(ちゅうし)・薬指(くすりゆび)の母指側)のしびれと疼痛(とうつう)、および母指の運動障害などを主徴とする。発症初期には夜間や明け方におもに人差し指や中指などの疼痛を訴えることが多いのも特徴で、やがて母指球筋の萎縮(いしゅく)により運動障害を生ずるようになる。手を過度に使用した場合や糖尿病、関節リウマチのほか、人工透析によるアミロイド沈着などが原因と考えられることもあり、また妊娠や出産に伴って発症することもあるが、原因不明の特発性のものも多い。40~60歳代の中年以降に発症することが多く、また女性の発症が顕著に認められる。治療としては、軽症の場合はステロイド薬の注射や装具を用いることで改善する場合もあるが、重症例では正中神経の除圧術を検討する。

[編集部]

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内科学 第10版 「手根管症候群」の解説

手根管症候群(腎疾患に伴う神経系障害)

(5)手根管症候群(carpal tunnel syndrome
) 慢性腎透析患者では正中神経の単神経炎である手根管症候群の頻度が高く,女性は男性の3倍みられる.ほとんどが透析のための内シャントをつくった側に発生し,シャント血流が多い例に発生頻度が高い.原因は浮腫が発生しやすいことや虚血,β2-ミクログロブリンからなるアミロイドの沈着などが考えられている.このほか腎障害末期にみられる単神経炎(uremic mononeuropathy)として障害される神経には尺骨神経,顔面神経,内耳神経がある.[高 昌星]
■文献
Ropper AH, Samuels MA: Adams and Victor's Principles of Neurology, 9th ed, McGraw-Hill, 2009.
Rowland LP, Pedley TA: Merritt's Neurology, 12th ed, Lippincott Williams & Wilkins, London, 2010.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手根管症候群」の意味・わかりやすい解説

手根管症候群
しゅこんかんしょうこうぐん
carpal tunnel syndrome

手のひらの手首中央部の正中神経が通っているところ (手根管部という) が圧迫されて,小指を除く手の指にしびれなどの知覚が生じる状態をいう。中年女性に多い。進行すると神経麻痺が生じ,人指し指と親指,中指を曲げることが不自由になるので,物をつまむことができなくなる。原因としては,手根管を通る屈筋腱の炎症,良性腫瘍,骨折後の変形などによる圧迫が知られている。手のひらを繰返し機械的に圧迫する職業の人に起きやすいといわれている。安静やステロイド剤の局所注入で効果がなければ,手術で治療する。

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世界大百科事典(旧版)内の手根管症候群の言及

【腱鞘炎】より

…症状としては,圧痛があり,知覚異常や運動障害が起こる。リウマチ性のものは,手指の腱鞘によくみられ,腫張によって手根管症候群を併発することもある。腱鞘炎は慢性化すると,腱鞘が肥厚して狭窄を起こして腱の動きを障害するようになる。…

※「手根管症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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