ホウレンソウ,レタス,キャベツなどでは,通常,ごく短い茎の上に多数の葉が密生し節間が短いが,生長点部に花芽が分化すると,やがて花蕾(からい)をつけた茎(花茎,とう)が伸長し,葉の節間も長くなる。この現象を抽だいといい,〈とう立ち〉ともいう。これが起こると,葉菜類では結球しなかったり,根菜類では根の肥大が停止して,商品価値のあるものを生産できなくなる。しかし種子の収穫が目的の採種栽培では,抽だいさせることが必要である。
花芽が分化しなければ抽だいも起こらないが,花芽の分化に必要な日長,温度条件は種類によって異なる。ダイコン,ハクサイ,キャベツなどは一定期間低温に遭遇することが必要である(ダイコン,ハクサイは種子のうちから低温に感応するが,キャベツは苗がある程度大きくならないと感応しない)。またホウレンソウなどは長日条件下で,レタスは高温条件下で花芽が分化する。抽だい(花茎の伸長)はいずれも長日で温暖な条件下で促進される。
一般に,ホウレンソウを春まきすると,生育時期が長日となるために抽だいしやすく,ダイコンやハクサイを春まきすると,春先の低温に感応して花芽が分化し,抽だいしやすい。またキャベツを秋まきし,苗を大きくしすぎると,冬の低温で花芽が分化し,翌春抽だいしてくることがある。しかし,温度や日長に対する反応は品種によって著しく異なるので,品種を選ぶことにより,ある程度抽だいを防止できる。例えば,ホウレンソウの春まき栽培では日長が15~16時間にならないと抽だいしない北ヨーロッパの品種が用いられている。
執筆者:杉山 信男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ふつうは,根出葉を出す短い茎から,花茎が長く伸び出し,花茎には根出葉と異なった形態の葉(茎葉という)をつけるが,葉を全然つけない場合もあり,タンポポのように花梗に頭状花をつけるだけという姿のものもある。越年性の長日草では,冬の間は根出葉だけで過ごし,春になると温度や日長などの環境の変化に応じて,それまで伸長しなかった茎の頂端に花芽が誘導されるいわゆる抽だいboltingによって急速に伸長するようになる。頂芽が花芽になると節の分化が乏しくなるか,まったくなくなってしまい,ロゼットの形状はなくなってしまう。…
※「抽薹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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