国や企業が汚染物質を排出する権利(排出権)を、市場で売買取引すること。排出量取引、排出枠取引ともいう。汚染物質排出を物理的に削減するにはさまざまな対策が必要で、その対策コストは国・企業によって異なる。ある国・企業にとって、自ら排出削減対策を実施するより低いコストで、排出権が市場から入手できる場合には、排出権を購入する誘因が働く。逆に、排出権価格より低コストで排出削減が実施できる国・企業は対策を実施し、排出権を他に売却して利益を得ようとする誘因が働く。こうして排出権取引が実施される場合、理論的には取引参加者の双方が自ら対策を実施するより、市場メカニズムを通して全体としては低コストで排出削減が可能となる。
具体的な例としては、アメリカにおける1990年改正の大気浄化法のもとでの硫黄(いおう)酸化物(SO2)排出権取引の実施(1993年開始)等がある。また、地球温暖化防止策の一つとして、二酸化炭素(CO2)排出権取引が注目されている。ヨーロッパ連合(EU)ではEU-ETSとよばれるCO2排出権取引制度が2005年に開始され、気候変動対策強化のなかで2018年以降取引価格が大きく上昇するなど、注目を集めている。中国でも2021年から全国レベルでのCO2排出権取引を開始した。日本でも、カーボンプライシングのあり方として、炭素税とともに排出権取引への取組みに大きな関心が寄せられるようになっている。ただし、排出権取引については、制度そのものが複雑になる可能性があること、排出権(CO2)価格が乱高下することで経済やエネルギー市場に影響を及ぼす可能性があること、などの課題もある。
[小山 堅 2022年1月21日]
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