デジタル大辞泉
「御」の意味・読み・例文・類語
お【▽御】
[接頭]《「おん(御)」の音変化で、中世以降の成立》
1 名詞に付く。
㋐尊敬の意を表す。相手または第三者に属するものに付いて、その所属、所有者を敬う場合と、敬うべき人に対する自己の物や行為に付いて、その対象を敬う場合とがある。「先生の御話」「御手紙を差し上げる」
㋑丁寧に、または上品に表現しようとする気持ちを表す。「御米」
2 女性の名に付いて、尊敬、親しみの意を表す。「御花さん」
3 動詞の連用形に付く。
㋐その下に「になる」「なさる」「あそばす」「くださる」などの語を添えた形で、その動作主に対する尊敬の意を表す。「御連れになる」「御書きなさる」「御読みあそばす」「御話しくださる」
㋑その下に「する」「いたします」「もうしあげる」などの語を添えた形で、謙譲の意を表し、その動作の及ぶ相手を敬う。「御連れする」「御書きいたします」「御話しもうしあげる」
㋒その下に「いただく」「ねがう」などの語を添えた形で、相手にあることをしてもらうことをへりくだって言う。「御買い上げいただく」「御引き取りねがう」
4 動詞の連用形に付いて、軽い命令を表す。「用がすんだら早く御帰り」「御だまり」
5 動詞の連用形や形容動詞の語幹に付いて、その下に「さま」「さん」を添えた形で、相手に対する同情やねぎらい、なぐさめの気持ちを表す。「御疲れさん」「御待ち遠さま」「御気の毒さま」
6 形容詞・形容動詞に付く。
㋐尊敬の意を表す。「御美しい」「御元気ですか」
㋑丁寧、または上品に表現しようとする気持ちを表す。「御寒うございます」「御りこうにしていなさい」
㋒謙譲または卑下の意を表す。「御恥ずかしいことです」
㋓からかい、皮肉、自嘲などの気持ちを表す。「御高くとまっている」「御熱い仲」
[用法]お・ご――「お(おん・おおん)」は和語であるから「お父さん」「お早く」のように和語に付き、「ご(ぎょ)」は「御」の漢字音からできた接頭語であるから「ご父君」「ご無沙汰」のように漢語(漢字音語)に付くのが一般的である。◇話し言葉での敬語表現にも多用され、漢語意識の薄れた語では、「お+漢語(漢字音語)」も少なくない。お客、お札、お産、お酌、お膳、お宅、お茶、お得です、どうぞお楽に、お礼、お椀、お菓子、お勘定、お行儀、お稽古、お化粧、お元気、お時間、お七夜、お邪魔、お正月、お食事、お歳暮、お餞別、お達者、お知恵、お銚子、お天気、お電話、お徳用、お弁当、お帽子、お役所、お歴々など。◇「ご+和語」は数少ないが、「ごもっとも」「ごゆっくり」「ごゆるり」など多少改まった言い方で登場する。◇「―返事」「―相伴」「―丈夫」など、「お」「ご」両方が付くものもあるが、「ご」は多少改まった表現、書き言葉的表現である。◇「おビール」のような例外はあるが、「お」「ご」ともに、ふつう外来語には付かない。
ご【御】
[名]
1 《「御前」の略か》貴婦人に付ける敬称。格助詞「の」を介して、呼び名に付ける。
「伊勢の―もかくこそありけめと」〈源・総角〉
2 (「御達」の形で)婦人や上級の女房の敬称。
「故后の宮の―達、市に出でたる日に」〈大和・一〇三〉
[接頭]主として漢語の名詞に付く。まれに和語に付いても用いられる。
1 他人の行為や持ち物などを表す語に付いて、その人に対する尊敬の意を表す。「ご覧」「御殿」「ご出勤」「ご馳走」「ご両親」
2 他人に対する行為を表す語に付いて、その行為の及ぶ相手に対する敬意を表す。「ご先導申し上げる」「ごあいさつにうかがう」「ご案内いたします」
3 ものの名に付いて、丁寧の意を表す。「御飯」「御膳」
[接尾]人を表す語に付いて、軽い敬意を表す。「親御」「殿御」
→御[用法]
おお‐ん〔おほ‐〕【▽御/▽大▽御】
[接頭]《「おおみ(大御)」の音変化。「おほむ」とも表記》
1 神仏・天皇や貴族に関する語に付いて、高い尊敬の意を表す。
㋐主体自身や所有の主を敬う場合。「―かみ(大御神)」「―ぞ(御衣)」
㋑貴人に向かってする行為について、物や行為を受ける対象を敬う場合。敬うべきお方への…の意。
「(源氏ガ)召せば、(預リノ子ガ)―答へして起きたれば」〈源・夕顔〉
2 下に来る名詞が省かれて単独で名詞のように使われることがある。
「対の上の―(=薫物)は、三種ある中に梅花はなやかに今めかしう」〈源・梅枝〉
[補説]中古仮名文学では、多く漢字で「御」と記されるため、「おおん」か「おん」「お」か、読み方が決めにくいが、少数の仮名書き例からみて「おん」の発生は中古後期からと考えられ、中古中期までの「御」は「おおん」と読むのが妥当であるとされる。
おん【御】
[接頭]《「おおん」の音変化》名詞に付いて、尊敬(相手への尊敬を含む)の意を表す。「お」よりも敬意が強く、やや改まった場合に用いられる。「御身」「御礼」
[補説]中古の「御」は「おおん」と読むのが妥当とされる。中世ごろには「御所ざまの御やうも御ゆかしくて」〈とはずがたり・五〉のように形容詞(さらに形容動詞など)に付くこともあった。→おおん
み【▽御】
[接頭]
1 主として和語の名詞に付いて、それが神仏・天皇・貴人など、尊敬すべき人に属するものであることを示し、尊敬の意を添える。「御子」「御心」「御手」
2 (「美」「深」とも書く)主として和語の名詞や地名に付いて、褒めたたえたり、語調をととのえたりするのに用いる。「御山」「御雪」「御吉野」
ぎょ【御】
[接頭]
1 天子・帝王に関係ある事物を表す名詞に付いて、尊敬の意を表す。「御物」「御製」
2 尊敬すべき人の行為や持ち物に付いて、尊敬の意を表す。「御意」「御慶」
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お【御】
- 〘 接頭語 〙
- ① 体言(まれに用言)の上に付いて、尊敬の意を表わす。現在では、相手に対する敬意とともに、それが相手のもの、相手に関するものであることを示す。「お手紙を拝見する」など。「お前」「お坐(まし)」「お許(もと)」→おん・み。
- [初出の実例]「阿郎(あなた)々々。お風を引きますよ」(出典:二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉上)
- ② ( ①の変化したもの ) 体言の上に付いて、尊重、丁寧の意を表わす。現在では、語感を和らげて上品に表現しようとする気持をこめても用いる。
- [初出の実例]「いはゆる粥をば、御粥とまをすべし」(出典:正法眼蔵(1231‐53)示庫院文)
- 「お茶の支度をさっせへよ」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
- ③ 女性の名まえ(男性の場合は童名)の上に付けて、尊敬、親愛の気持などを表わす。中世以後の用法。「おきく」「お千代」など。
- [初出の実例]「菊亭殿に、御(ヲ)妻(さい)とて、〈略〉なまめきたる女房ありけり」(出典:太平記(14C後)二二)
- ④ ( 動詞の連用形を伴い、その下に「遊ばす」「ある」「なさる」「なる」「になる」「やす」「やる」などを添えた形で ) その動作の主を敬っていう尊敬表現となる。→お(御)…遊ばす・お(御)…ある・お(御)…なさる・お(御)…になる・お(御)…やす・お(御)…やる。
- ⑤ ( 「お…なさい」の省略形 ) 動詞の連用形の上に付いて、目下の者に対する軽い命令を表わす。
- [初出の実例]「その盃づっとこれこふおまはし」(出典:洒落本・郭中奇譚(1769)船窓笑語)
- ⑥ ( 動詞の連用形を伴い、その下に「する」「申す」などを添えた形で ) 自分の動作の及ぶ相手を敬う謙譲表現となる。→お(御)…する・お(御)…申す。
- ⑦ 形容詞、形容動詞などの上に付ける。
- (イ) ( 相手や第三者の属性、状態を表わす語に付けて ) その人に対する敬意、同情などを表わす。現代では主に女性が用いる。
- [初出の実例]「御いたはしければ、御つかひな給そと申たれば」(出典:とはずがたり(14C前)一)
- 「ゆふべはおねむかったらうね」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
- (ロ) ( 自分の心情を表わす語に付けて ) 謙譲、卑下の意を表わす。
- [初出の実例]「男は祝着に候など云へば、女はをうれしう候など云と同事ぞ」(出典:古活字本毛詩抄(17C前)一)
- (ハ) ある状態を丁寧に表わす。「今日はお寒いですね」
- (ニ) ( 形容動詞の語幹や動詞の連用形を伴い、その下に「さま」を添えた形で ) 相手に対する同情や慰めの気持を表わす尊敬表現となる。「お気の毒さま」「お疲れさま」など。
- (ホ) ( 名詞、形容詞、また形容動詞などの上に付けて ) からかい、皮肉、または自嘲の気持を表わす。「お熱い仲」「お粗末でした」「お寒い限りだ」
御の語誌
( 1 )接頭語ミ(御)に、さらに敬意を加えたオホミ(大御)が語尾の母音を落としてオホムからオホンとなり、さらにオヲン、オオン、オンを経て、オを生じたものと思われる。
( 2 )このオは、中古和文にはオマシ(御座)、オモト(御許)、オモノ(御膳)、オムロ(御室)など、頭子音がマ行音である語に冠して現われるが、その他の語に用いられるのは、中世、室町時代以後のことと見られる。もともとは体言に付くが、⑥⑦のように中世以後には動詞や形容詞などに付く例も現われる。
ご【御】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① ( 「御前(ごぜん)」の略か。婦人の称呼の下に助詞「の」を介して付ける ) 婦人に対する敬称。平安時代以降に、宮仕えの女房たちに対して、同僚などから用いられることが多い。
- [初出の実例]「淡路のごの歌におとれり」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月七日)
- 「とのもりのごを家にむかへて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)祭の使)
- ② 「ごたち」の形で、婦人や上級女房の敬称。
- [初出の実例]「うちに、ごたち、うなゐども、襲(かさね)の裳、唐衣、汗衫(かざみ)ども着て」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
- [ 2 ] 〘 接頭語 〙 主として漢語の名詞の上に付いて、尊敬の意を表わす。まれに和語に付くこともある。
- ① 他人の行為、持物などを表わす語に付いて、それをする人、それを持つ人に対して尊敬の意を加える。「御免」「御殿」「御本」「御家族」「御成功」「御沙汰」など。
- [初出の実例]「ふとみゆきして御覧ぜんに」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- 「Christam ノ go(ゴ) ヲキテ」(出典:信心録(ヒイデスの導師)(1592)二)
- ② 他人に対する行為を表わす漢語名詞の上に付けて、その行為の及ぶ相手を敬う。「御説明しましょう」「御案内いたします」など。
- [初出の実例]「ハバカリ ナガラ goiquen(ゴイケン) マウシタイ コトガ アル」(出典:ロドリゲス日本大文典(1604‐08))
- ③ ものの名に付けて丁寧にいう。「御酒」「御膳」「御飯」「御幣」など。
- [ 3 ] 〘 接尾語 〙 ( 「御前」の略されたかたち ) 人物を表わす名詞に付いて、軽い敬意を添える。
- [初出の実例]「母御(ゴ)いづくへ行き給ふぞ」(出典:太平記(14C後)一一)
ぎょ【御・馭】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 馬を乗りこなすこと。乗馬術。
- [初出の実例]「是古者以レ御為二子弟之職一」(出典:論語徴(1737)九)
- [その他の文献]〔周礼‐地官・大司徒〕
- ② 馬や車をあつかって走らせる人。御者。
- [初出の実例]「穆王是を愛して造父(ざうほ)をして御(ギョ)たらしめて」(出典:太平記(14C後)一三)
- [その他の文献]〔春秋左伝‐成公一六年〕
- ③ 貴人などのそばにあること。そば近くに仕えること。
- [初出の実例]「繊絺斁矣、功裘在レ御」(出典:蕉堅藁(1403)題玉畹外史扇)
- [その他の文献]〔詩経‐鄭風〕
- [ 2 ] 〘 接頭語 〙 漢語の体言の上に付いて、尊敬の意を表わす。
- ① 特に、天子、帝王の行為や持物を表わす名詞の上に付けて用いる。「御衣」「御製」「御題」「御物」
- ② 一般に、尊敬すべき人の行為、持物を表わす名詞の上に付けていう。「御意」「御慶」「御出」
- [ 3 ] 〘 接尾語 〙 動作を表わす漢語に付き、その動作が、天子またはこれに準ずる人のものであることを示す。「還御」「出御」「渡御」など。
御の語誌
( 1 )漢籍における「御」は種々の意味用法を持つが、日本では敬語に係わるものが主として受け入れられた。
( 2 )[ 二 ]の用法は「御」に天下を統御する人を指す用法があり、それが名詞また動詞に冠されたところから生じたもの。したがって、①のような天子・諸侯に関する事物に冠されるのを本来の用法とする。
( 3 )[ 三 ]の用法もまた、天子の移動や存在を意味する動詞用法から派生したもので、多くは移動の意を表わす漢語に付く。
おん【御】
- 〘 接頭語 〙 ( 「おおん」の略。「おむ」とも書く )
- ① 体言(まれに用言)の上に付き尊敬の意を表わす。「おん身」「おん方々」
- [初出の実例]「おほやけの御近きまもりを、わたくしの随身に領ぜむと争ひ給ふよ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)横笛)
- 「日比も御恋しく思ひ奉りつれど」(出典:発心集(1216頃か)三)
- ② ( 下に来るべき体言を省略して ) 「おん」だけで名詞的に用いる。平安時代の用法。
- [初出の実例]「野山をわけても御をばつかうまつらん。これ御たからとなり給はんともしらず」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
御の語誌
( 1 )中古における「おほ(お)ん」が院政期ごろ音韻変化したものと考えられ、中古の例は「おおん」と読むべきだともいわれている。多くは字訓語に付くが、「おん曹司」「おん博士」「おん礼」など字音語に冠する例も見られる。「ロドリゲス日本大文典」では、「おん」「お」「み」は字訓語、「ゴ」「ギョ」は字音語に冠するとしているが、キリシタン資料や国内資料でも通則に合わない例が相当数確認される。また、同じ訓の「み」とは、かなり厳密な使い分けがされている。
( 2 )「おん」は次第に「お」に変化していくが、狂言や浄瑠璃などには「おん」の形がのこる。現代語においては「おビール」「おリボン」など外来語に冠する例は「お」の形のみであまり多くはみられないが、キリシタン資料では、「おんクルス(十字架)」「おんアニマ(魂)」「おんオラショ(経)」など外来語に冠する例もある。→「おおん(御)」の語誌
み【御・美・深】
- 〘 接頭語 〙
- ① 名詞の上に付いて、それが神仏、天皇、貴人など尊敬すべき人に属するものであることを示し、敬意を添える。「みけ(御食)」「みあかし(御明)」「みかき(御垣)」「みこ(御子)」「みいくさ(御軍)」「みぐし(御髪)」「みもと(御許)」「みまし(御座)」など。
- [初出の実例]「ぬばたまの黒き美(ミ)けしを」(出典:古事記(712)上・歌謡)
- 「上の御つぼねのみ簾の前にて」(出典:枕草子(10C終)九四)
- ② ( 「美」「深」とも ) 名詞、または地名に付けて、美称として用いる。「み空」「み山」「み雪」「み籠」「み吉野」など。
御の語誌
( 1 )本来は霊威あるものに対する畏敬を表わした。霊物に属するものだけでなく、霊物そのものにも冠する。「みかみ(御神)」「みほとけ(御仏)」など。「みき(神酒)」「みち(道)」「みや(宮)」などの「み」も本来はこれである。
( 2 )上代の尊敬の接頭辞としては「み」のほかに「おほみ」がある。「み」にさらに美称の「おほ」を加えて敬意の高さを強調したと考えられる。→おおみ(大御)。
( 3 )中古では、「おほむ」が多くの語につくのに対し、「み」がつくのは、宮廷・殿舎、調度、仏教、神祇関係の語である。→おおん(御)
おお‐んおほ‥【御・大御・大】
- 〘 接頭語 〙 ( 「おおみ(おほみ=大御)」の変化したもの。「おほむ」とも表記 )
- ① 体言の上に付いて尊敬の意を表わす。
- [初出の実例]「おほむものがたりのついでに」(出典:古今和歌集(905‐914)秋上・二四八・詞書)
- ② 下に来るべき体言が省略されて単独で名詞的に用いる。
- [初出の実例]「ゑしうといふ法師の、ある人のおほむつかうまつりけるほどに」(出典:大和物語(947‐957頃)四二)
御の語誌
( 1 )中古、「おほみ」から「おほん」が生じ両者併用されるが、「おほみ」は和歌関係で使われることが多い。
( 2 )「おん」は院政期に見えはじめるので、中古の作品における「御」は「おおん」と読んでいたと思われる。院政期以降の「御」の例は、「おおん」か「おん」か決定できないが、「おおん」は同種の語である「おん」「お」「み」とくらべて、一層高い敬意を表わすのが普通。
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