連声(読み)レンジョウ

デジタル大辞泉 「連声」の意味・読み・例文・類語

れん‐じょう〔‐ジヤウ〕【連声】

《〈梵〉sandhi(saṃdhi)の訳》二つの語が連接するときに生じる音変化の一。前の音節の末尾の子音が、あとの音節の頭母音(または半母音+母音)と合して別の音節を形成すること。「三位(さんい)」を「さんみ」、「因縁いんえん)」を「いんねん」、「今日(こんにち)は」を「こんにった」という類。

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精選版 日本国語大辞典 「連声」の意味・読み・例文・類語

れん‐じょう‥ジャウ【連声】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 二つの語が連接するときに生ずる音韻上の変化。前の語の末尾、後の語の頭、またその両方におこるものがある。日本語については、通例、ア・ヤ・ワ三行の音を頭音節にもつ語が、m・nまたはtを末尾にもつ字音語のあとに連続するとき、その頭音がマ・ナ行またはタ行の音に転ずるものをいう。「因縁(いんえん)」を「いんねん」、「三位(さんい)」を「さんみ」、「仏恩(ぶつおん)」を「ぶっとん」、「今日(こんにち)は」を「こんにった」という類。中世の現象で、現在では一部の語にしか連声を起こした形が残っていない。この語はもと梵語 sandhi (saṃdhi)の訳語であるが、日本の悉曇学では、漢字に音訳された梵語について複雑な悉曇連声を説いた。れんせい。
    1. [初出の実例]「今見五句八字連声並有二種」(出典悉曇蔵(880)五)
  3. 和歌連歌俳諧で、一首または一句の中での各句の連接が同母音でなめらかにつながっていること。→五音(ごいん)連声
    1. [初出の実例]「連声の句なれば連声にてこそあるべけれども」(出典:長短抄(1390頃))

れん‐せい【連声】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 声をつらねること。つぎつぎに声を発すること。
    1. [初出の実例]「すでに聞く、雨降んとして連声(れんセイ)に鳴く」(出典:歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)三立)
    2. [その他の文献]〔水滸伝‐第一六回〕
  3. れんじょう(連声)語法指南(1889)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「連声」の意味・わかりやすい解説

連声 (れんじょう)

国語学上,前の音韻とそれにつづく音韻とが合して,別個の音になること。たとえば,〈ギンナン(銀杏)〉は分析するとギン+アンであって,初めからギン+ナンではなく,〈サンミ(三位)〉はサン+イであって,初めからサン+ミではない。また〈セッチン(雪隠)〉はセツ+インと分析されて,セッ+チンとは分析されない。すなわち,このように〈ン〉でおわる漢字または〈ツ〉でおわる漢字が,ア行音(またはワ行音)ではじまる漢字と結びつく場合におこる上のような音変化を連声とよぶのである。今日では,このような音韻現象はごく限られた一部の語にみられるだけであるが,古くは,上述のような条件においては規則的におこったのであって,たとえば,〈延引〉は〈エンニン〉と発音され,〈密雲〉は〈ミッツン〉と発音された。また,これは漢語の内部の現象であるにとどまらず,〈オン+アリサマ〉が〈オンナリサマ〉となるように,国語においてもおこった。助詞〈は〉〈を〉のつく場合にも,この音変化が規則的におこった(〈今日は〉は〈コンニッタ〉,〈代物を……〉は〈ダイモット……〉などのように)。このような発音は,謡曲のうたい方にはこんにちも保存され,歌舞伎でも,時代物のことばにはあらわれる。謡曲などに反映するところは,室町時代の発音とみとめられる。このような発音は,さかのぼって鎌倉時代においても同じである。さらに古く平安時代には,漢字音のおわりの〈ン〉にnとmとの区別がまもられ,〈三位〉を〈サンミ〉というのは,そのような古いおもかげを伝えるものである。〈陰陽師〉も古い発音は〈オンミョウジ〉であって,これは,後世まで読みくせとして伝わっている。しかし,このマ行の連声は,はやく滅びて,ナ行の連声に摂取され,室町時代には〈陰陽師〉も〈オンニョウジ〉というのがふつうとなった(その点では〈三位〉だけがほとんど唯一の例外)。なお連声は,古くは仮名のうえには,ふつう書きあらわしていない。すなわち,〈ニンナジ〉と発音しても,仮名では〈ニンワジ(仁和寺)〉というふうに書くのである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「連声」の意味・わかりやすい解説

連声
れんじょう

(1) 平安時代末期から室町時代まで日本語にあった音韻現象。「三位 (サンミ) 」「因縁 (インネン) 」「雪隠 (セッチン) 」のように,ア行,ヤ行,ワ行音が,m音に続くときはマ行音に,n音に続くときはナ行音に,t音に続くときはタ行音に替ること。室町時代には撥音のmとnの区別が失われたので,マ行音に替る連声はほとんどみられなくなった。連声はまず上例のような漢字熟語の内部で起ったが,次第に「今日は (コンニッタ) 」のように和語との結合にも及んだ。しかし,今日の日本語にはいくつかの固定した語に残っているにすぎず,生産力を失っている。 (2) サンスクリット語のサンディー saṁdhī(sandhi)の訳語で,語形成や単語連続において規則的にみられる音韻交替現象をさす。単語内部で語根接辞の間に起るものを内連声 (ないれんじょう) ,連続した単語間ないし複合語の構成要素間に起るものを外連声 (がいれんじょう) と呼んでいる。連声の結果生じた音のとおりに表記される。 (3) 一般的に,文中の単語連続の発音が,その個々の単語を独立に発音した場合と異なる現象。フランス語のリエゾンなど。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「連声」の意味・わかりやすい解説

連声
れんじょう

漢語の熟語で、唇内撥音(はつおん)-m、舌内撥音-n、舌内入声(にっしょう)音-tで終わる漢字のあとにくるア・ヤ・ワ行音が、マ・ナ・タ行音に変化する事象。たとえば、オンヤウ(陰陽)>オンミャウ、サンイ(三位)>サンミ、インエン(因縁)>インネン、ケンヨ(顕与)>ケンニョ、サツイ(薩位)>サッチ、ヒツイウ(必由)>ヒッチウ の類。この事象の発生がいつごろであったかを文献によって確認するのはむずかしいが、院政期にはすでに発生し、とくに仏典の読誦(どくじゅ)音では頻発していたと思われる。室町時代になると、オンイリ(御入)>オンニリ、コンニチワ(今日は)>コンニッタのように、和語の場合にも発生したが、今日では特定の方言を除いて、おおむね語彙(ごい)的に固定してしまっている。

[沼本克明]

『福島邦道「連声と読み癖」(国語学会編『国語学』第52集所収・1963)』『浜田敦「連濁と連声」(京都大学国語国文学研究室編『国語国文』第29巻10号所収・1960)』

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百科事典マイペディア 「連声」の意味・わかりやすい解説

連声【れんじょう】

国語学の用語。おいて,〈ン〉,〈ツ〉の次にくるア・ヤ・ワ行音がマ・ナ・タ行音に変化する場合をいう。たとえば,〈あんおん(安穏)〉が〈あんのん〉,〈せついん(雪隠)〉が〈せっちん〉,〈さんい(三位)〉が〈さんみ〉,〈ぎんあん(銀杏)〉が〈ぎんなん〉など。〈ン〉の音がマ行音に変化するのは,平安時代には漢字音のおわりの〈ン〉にnとmの区別が保たれていたため。こうした音変化は和語の中でも起こり,謡曲や歌舞伎の時代物のことばに現れている。

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世界大百科事典(旧版)内の連声の言及

【接頭語】より

…それ自身は単独に用いられず,つねに他の単語の前に結合してこれをいろいろに限定する。接頭語をつけると,もとの単語は独立性を失い,連声(れんじよう)が行われることもあり,アクセントが変わることが多い。結合してできた語形,派生語は,まったく1個の単語として働き,その品詞性はもとの単語に従う。…

※「連声」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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