改訂新版 世界大百科事典 「推計課税」の意味・わかりやすい解説
推計課税 (すいけいかぜい)
税務署長が所得税や法人税について更正・決定する場合に,直接的な資料によらず各種の間接的な資料(納税者の財産,収入・支出の状況など)を用いて所得を推計すること。所得税・法人税の理想は,直接資料に基づき所得の実額に課税することであるが,それが不可能な場合に,やむをえぬ方法として推計による課税が認められる。推計課税は,例外的な課税方法であるから,納税者が帳簿書類を備えていない場合,帳簿書類を備えていても内容が不正確で信頼性に乏しい場合,納税者が税務調査に非協力的な場合にのみ許される。
所得の推計方法には,特定の比率を用いて納税義務者の収入,支出,販売高などから所得を推計する方法(比率法),販売個数,材料の数量,従業員数,電力量などの指標一単位当りの所得から全所得を推計する方法(効率法),資産・債務の増減から所得を推計する方法(資産増減法),消費支出・生活費から所得を推計する方法(消費高法)などがあるが,なかでもその納税者に類似する特定同業者の数値や多数同業者の平均的な数値を用いた比率法が最も多く利用される。推計にあたって,税務署長は真実の所得に近い数値が得られるよう最も合理的な推計方法を選ぶ義務があるが,とくに同業者の数値を用いる場合には,同業者抽出の合理性,選定件数の合理性,比率内容の合理性,納税者特有の事情の有無などをめぐって,納税者との間で争いの生じることが少なくない。
執筆者:畠山 武道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報