食用油脂(読み)しょくようゆし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「食用油脂」の意味・わかりやすい解説

食用油脂
しょくようゆし

食用にできる油(常温で液状)と脂(常温で固体状)のすべてを一般に食用油脂という。揚げる(植物油脂ラードショートニング)、炒(いた)める(各種油脂)などの調理に使う以外に、パンに塗る(バターマーガリン)、ドレッシング(植物油)にする、などの料理素材にもなる。

河野友美・山口米子]

歴史

油脂は、古くは肉に付随する一部として食されていたが、単独の油脂としては分離されていなかった。採油技術が発明されるとともに、単独の油脂類ができるようになったが、最初の利用目的は明かり取りであった。たとえば、後期旧石器時代のクロマニョン人の洞穴で、油脂を燃やした石皿が発見されている。油脂の利用は、採取しやすい点で動物性油脂がまず使用された。狩猟によって得た動物から脂肪の層を切り取り、これを火で溶かして用いた。牧畜を生活手段とする地方では、家畜の乳からつくったバターがおもな油脂となっている。植物油から油を取り出したのはずっとあとで、オリーブの実やゴマから圧搾法によって採油された。この圧搾による採油法は1世紀ごろから始められ、近代的な製油法が行われる19世紀ごろまで続いている。油に関する記録は紀元前4世紀ごろのエジプト王朝の遺跡や『旧約聖書』にみられ、とくに『旧約聖書』にはオリーブ油がしばしば登場する。日本では『日本書紀』に、ハシバミの実から採油したものを灯火用として献じたという記録がある。また、清和(せいわ)天皇(在位858~876)の時代にはごま油が灯火用として用いられた。このころに油絞りの道具として「長木(ながき)」が用いられている。ごま油から次に菜種油、ついで大豆油へと材料が変化してきている。近年は動物性油脂、植物性油脂が多種用いられ、また、マーガリン、ショートニングなどの加工油脂や、ドレッシングなどの調味料製品がある。

[河野友美・山口米子]

分類と種類

原料から植物性油脂と動物性油脂に分類される。さらに、原料油脂を加工して新しい油脂にしたものを加工油脂(マーガリン、ショートニング、粉末油脂など)という。植物油脂では精製度から一般にてんぷら油やサラダ油などとよばれているが、日本農林規格(JAS(ジャス))では、各植物油脂ごとに食用植物油脂、精製植物油、サラダ油に分類されている。サフラワートウモロコシなどのように、種類によっては精製油およびサラダ油の2種のものもある。精製油は通常の食用油脂からさらに精製したもの、サラダ油は冷却試験で一定時間油状で固まらないものであるほか、それぞれの種類および段階で、酸価、色調などの規準がある。JASでは、原料を2種以上混合した場合には、「食用調合油」という名称と、使用食用油の品名表示が規定されている。このほかJASでは、バター、マーガリン、精製ラード、ショートニング、食用精製加工油脂も規定されている。

 植物性油脂は、化学的な性格の一つである乾燥の速さによって分類され、速いものから乾性油(ヨウ素価130以上。あまに油、桐油(とうゆ)、麻実(あさみ)油、サフラワー油など)、半乾性油(ヨウ素価130~100。綿実油(めんじつゆ)、菜種油、大豆油、米糠(こめぬか)油、ごま油など)、不乾性油(ヨウ素価100以下。落花生油、オリーブ油、椿油(つばきあぶら)など)の三つに区分される。また、植物性油脂のなかで常温で固体のものは固体脂(し)(やし油、パーム油パーム核油、カカオ脂など)に分類される。

 植物性油脂は原料によってそれぞれ特徴のある風味をもっている。

(1)綿実油 綿花をとった中心部の種子から採油する。リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸がおもな脂肪酸。風味がよく、サラダ油やマヨネーズの原料、油漬け缶に用いられる。

(2)菜種油 ナタネ(アブラナ)の種子から採油する。日本で古くから利用され、絞り取った油は白絞(しらしめ)油とよばれた(のちには大豆油や綿実油など、精製した油の俗称となっている)。特有のにおいがあり、てんぷら油に調合されることが多い。エルシン酸、リノール酸、オレイン酸がおもな脂肪酸。

(3)ごま油 ゴマの種子から採油。香りが高く風味がよい。抗酸化性物質のセザモールとビタミンE(トコフェロール)を多く含む。調理上香りをたいせつにするため、精製を控えているので、特有の風味、色合いが残っている。

(4)大豆油 大豆の種子から採油。日本でもっとも利用の多い油で、サラダ油、てんぷら油、マーガリンの原料に用いる。

 以上のほかに、落花生油、とうもろこし油(コーン油)、オリーブ油、米糠油、ひまわり油(サンフラワー油)、サフラワー油(ベニバナ油)など多くのものがある。てんぷら油は、2~3種の食用植物油脂を混合し、てんぷらにしたときよい風味が出るようつくられたものである。JASでは食用調合油に分類される。

 動物性の食用油脂には精製ラード(豚脂)、バター、肝油などがある。また、魚油や鯨油、それに一般植物性油脂は、水素添加して硬化油にし、ショートニングやマーガリンなどの加工油脂の原料にされる。

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成分

油脂の主成分は脂肪である。各脂肪はグリセリンと脂肪酸により構成され、この脂肪酸によって特徴づけられる。一般に植物性油脂には不飽和脂肪酸(二重結合の炭素を含むもの)が多く、動物性油脂には飽和脂肪酸が多い。ただし、魚油は例外で不飽和脂肪酸が多い。各油脂はこの脂肪酸の性質や量によって変化する。

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油脂と調理

油脂を使う調理は、炒める、揚げるなどの加熱調理が多く、そのほか調味料としてドレッシングやソース、パンなどに直接塗る使い方がある。油脂は適度に加熱すると特有のよい香り(揚げ油ではディープフライフレーバーという)が生じて料理をおいしくする。てんぷらなどで二つ以上の油を調合するのはこのためである。バターとマーガリンにおいても加熱調理では香りの差が生じる。酸化した油脂は健康上マイナスになるだけでなく、料理の風味、仕上がりを損なう。

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油脂と健康

油脂は体内でエネルギー源として利用される。タンパク質や糖質よりも約2倍強のエネルギーをもつ。栄養素としては必須(ひっす)脂肪酸(リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸)やビタミンEの重要な給源で、おもに植物性油脂に含まれる。一方、動物性油脂にはコレステロールと飽和脂肪酸が含まれ、とりすぎると動脈硬化や高コレステロール血症の原因となる。脂肪は栄養上重要なものであるが、近年、脂肪摂取量、とくに動物性脂肪の摂取増加が問題となっている。動物性に偏らず、バランスよく適量をとることがたいせつである。生活習慣病(成人病)として大きな要因の動脈硬化や高コレステロール血症を予防、改善するものとして、リノール酸が注目されている。そのため、ごま油、米糠油、サフラワー油などが、とくにリノール酸の多い油として健康食品の扱いを受けている。また、近年になって、魚油に含まれる多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA。国際標記はイコサペンタエン酸=IPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が、血栓を防止し、脂質異常症を改善することが知られるようになった。イワシ、サバ、アジ、サンマといった背の青い魚が健康食ブームに加わった理由である。魚油は不飽和脂肪酸が多いのと、IPAやDHAの働きから、栄養上植物性油脂と同じ扱いがされるようになった。リノール酸をはじめ、魚油は健康上有益な油脂であるが、酸化させたり、量的にとりすぎると問題が生じるので、注意が必要である。

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油脂の選び方と保存

油脂は酸化されていない新しいもの、管理のよいものを選ぶことがたいせつである。油脂の酸化は空気、熱、光、温度などで進行する。植物油の保存にはガラス瓶(褐色瓶がよい)に入れて冷暗所に置く。バターは冷凍保存ができる。調理では長時間の加熱や、180℃以上の高温加熱を避けることが必要である。

[河野友美・山口米子]

『新谷勲著『食品油脂の科学』(1989・幸書房)』『松尾登・長谷川恭子編『油脂――栄養・文化そして健康』改訂版(1989・女子栄養大学出版部)』『安田耕作著『食用油とその生産』(1992・幸書房)』『アスペクト編・刊『至宝の調味料3 油』(1999)』『藤田哲著『食用油脂――その利用と油脂食品』(2000・幸書房)』『神村義則監修『食用油脂入門』新訂版(2004・日本食糧新聞社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の食用油脂の言及

【食用油】より

…動物脂で食用とされるおもなものは牛脂(ヘット),豚脂(ラード)などである。
[食用油脂の栄養と摂取]
 食用油脂(栄養学では単に脂肪という)は体内で燃焼されるとき1g当り約9kcalの熱量を発生するが,これはタンパク質や炭水化物の2倍以上であり,栄養素のなかでは単位重量当りのカロリーが大である。したがってカロリーを摂取するためには効率のよい資源であるが,最近はカロリー摂取過剰の問題も先進国で出ており,他の栄養素とバランスをとって摂取することが望ましい。…

※「食用油脂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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