歌舞伎狂言。時代物。6幕。2世奈河亀輔・並木十輔の作。原名題《大願成就 殿下茶屋聚》。通称《天下茶屋》。1781年(天明1)12月大坂藤川山吾座(角の芝居)初演。大坂天下茶屋の敵討を脚色したもの。江戸での初演は1816年(文化13)閏8月の桐座。のち35年(天保6)中村座で上演のとき,4世大谷友右衛門が元右衛門の役に工夫を加えた。浮田の家中早瀬玄蕃は,東間三郎右衛門に殺される。玄蕃の子伊織と源次郎,伊織の妻染の井,源次郎の妻葉末は,下部の弥助とその弟の元右衛門を供にして敵討の旅に出る。元右衛門は酒乱のために変心して東間と通じ,これを手引きして伊織を返討にする。その後,源次郎と染の井,葉末は,苦心の末に天下茶屋でめでたく東間と元右衛門を討って本懐をとげる。この間に早瀬の旧臣人形屋幸右衛門が源次郎のために二百両調達しようとして幼いわが子を自分の手で傷つけてゆするという苦心の一幕が設けられている。元右衛門の役は,原作では三枚目敵にすぎないものであったが,4世友右衛門が創意を加えて独自の型を創造し,今日に伝えた。この芝居は,もともと東間の大悪人ぶり,伊織の辛抱による和事,幸右衛門の苦心などに重点が置かれていたのであるが,4世友右衛門の工夫が結実し,48年(嘉永1)江戸の河原崎座での大当りを見るに至って元右衛門役はついに主役級の大役となった。〈天王寺〉の酒乱の段取りの面白さ,引窓から忍びこむところのユーモラスな演技,引込みのときに刀を振りまわして見せる心理描写など随所で精彩を放つ。4世友右衛門によって作られたこの小心な悪人の演出は近代に継承されたが,特に6世尾上菊五郎は,伝統の演出をさらに近代的に個性化して一代の当り芸とした。この芝居全体にただよう仇討物独特の情趣,特に〈天神の森〉の色彩的設定による〈返り討の場〉から〈川下の場〉のだんまりに至る味わいは卓越している。
→天下茶屋物
執筆者:関山 和夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)脚本。時代物。6幕。奈河亀輔(ながわかめすけ)・奈河十輔ら合作。1781年(天明1)12月、大坂・角(かど)の芝居初演。題材は、慶長(けいちょう)年間(1596~1615)、浮田家の臣林源三郎が父と兄の仇(あだ)当麻三郎右衛門(とうまさぶろうえもん)を、家来鵤幸右衛門(いかるがこうえもん)の協力により、大坂の天下茶屋で討った事件。初演の名題(なだい)は『大願成就殿下茶屋聚(たいがんじょうじゅてんがぢゃやむら)』であったが、多くの改訂を経て表記の名題に定着した。通称「天下茶屋」。早瀬伊織と源次郎の兄弟は父の仇東間(とうま)三郎右衛門と奪われた紀貫之(きのつらゆき)の色紙(しきし)を尋ね、妻染の井・葉末、家来安達元右衛門(あだちもとえもん)・弥助の兄弟とともに諸国を流浪する。しかし、元右衛門は四天王寺で生来の酒乱をつけこまれて東間に寝返り、後日、早瀬兄弟の住む東寺(とうじ)裏の貸し座敷に忍び込み、色紙を得るため染の井が身売りして調達した金を奪い、弥助を殺し、伊織の足を傷つける。歩けなくなった伊織は天神森の非人小屋に暮らしていたが、元右衛門の手引きで現れた東間の返り討ちにあう。源次郎も危ういところを家来筋の京屋万助に救われ、同じく旧臣人形屋幸右衛門の忠義によって色紙も手に入り、染の井・葉末とも再会、天下茶屋で東間と元右衛門を討って本懐を遂げる。4世大谷友右衛門が1835年(天保6)に大好評を得て以来、それまで脇役(わきやく)であった元右衛門を主役にした脚本・演出が後世に伝わった。「四天王寺」「東寺裏」「天神森」「敵討」の4幕が多く上演されるが、まれに、幸右衛門が色紙を買い戻すため、息子のけがにかこつけて隣家の万助から治療代を得ようとする「人形屋」「京屋」の場面も上演される。
[松井俊諭]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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