文化記録映画を意味するドイツ語のKulturfilmの直訳で,〈教育映画〉あるいは〈短編記録映画〉などともほぼ同義に用いられる。戦前は広く記録映画一般を指すことばであったが,1939年の〈映画法〉制定の際,劇映画とニュース映画を除く映画の総称として〈文化映画〉が法令用語すなわち公用語になった。〈映画法〉の施行細則によれば,〈認定すべき文化映画は,政治,国防,教育,学芸,産業,保健等に関し,国民精神の涵養又は国民智能の啓培に資するものにして,劇映画にあらざるものとす。但し取材の真実性を歪曲せしめざる程度に於て部分的に劇的要素の介入あるも妨げず〉と定義され,40年7月からは文化映画強制上映が始まり,こうして文化記録映画は戦時中の日本映画の重要な部門となり,各社が競って〈文化映画部〉を設置し,たとえば東宝文化映画部からは亀井文夫の《上海》(1938)といったすぐれた作品も生み出され,そこから羽仁進,土本典昭,小川紳介らにつらなる戦後の新しいドキュメンタリー映画の流れも生まれてくる。文化映画という呼称は,戦後,映画法の廃止とともに,〈短編記録映画〉あるいは〈教育映画〉の名称に改められるが(東宝文化映画部も教育映画部に改称される),今日でも〈短編記録映画〉および〈教育映画〉の意味で文化映画ということばが使われている。
→ドキュメンタリー映画
執筆者:広岡 勉
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非劇映画の総称の一つ。1920年代から1930年代に、ドイツのウーファ社(正式名称はウニベルズム映画)が盛んに発表したクルトゥアフィルムKulturfilmの直訳に発することばで、当時の日本では漠然と自然科学や保健衛生などを啓蒙(けいもう)的に、あるいは教育的に描いた映画をさしていたが、1939年(昭和14)の映画法の制定によって「文化映画、時事映画の上映」が義務づけられて以後、より一般に実体化した。文化映画は「国民精神ノ涵養(かんよう)又ハ国民智能(ちのう)ノ啓培ニ資スルモノニシテ劇映画ニ非(あら)ザルモノ」との定義をもつ、教育、科学、観光、記録などの非劇映画の総称となり、この法律によって映画に対する国家統制と検閲はさらに強化された。そしてそこでの映画による国民の啓蒙と教育とは、国家政策を宣伝し、国民を教化するものにほかならなかった。第二次世界大戦後は文化映画というよりも、一般には教育映画、短編映画、記録映画などが多く用いられている。
[佐伯知紀]
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…グリアソンは漁夫の日常生活を通して労働と社会とのかかわりを描いた《流し網漁船》(1929)でその流れの基礎を築き,バジル・ライトの《セイロンの歌》(1934)やポール・ローサの《造船所》(1935)など,詩情よりも〈社会的メッセージ〉を重視するドキュメンタリーが発展した。 ドイツでは,いわゆる〈クルトゥールフィルムKulturfilm〉(〈文化映画〉と訳されて日本語に定着している)がつくられ,なかでもワルター・ルットマンの《伯林――大都会交響楽》(1927)や《世界のメロディ》(1929)は,ベルトフの〈映画眼〉理論の〈リズムのモンタージュ〉に影響された代表的な長編ドキュメンタリーである。 フランスのドキュメンタリーは,20年代に純粋な視覚的表現を意図した芸術運動である〈アバンギャルド映画〉と密接なかかわりをもっているが,アルベルト・カバルカンティの《時の外何物もなし》(1926)やジャン・エプスタンの《地の果て》(1929)などがつくられた。…
…而してその動員は,我国映画事業並に映画内容の現状に鑑み,国家の立場よりする統制の形態をとらざるべからざることも亦自明の理だ〉と述べた一文が見られ,国家にとって映画がいかに重視すべきものであったかをよく伝えている。こうして38年の国家総動員法公布を経て,第2次大戦の始まった39年,映画法が施行され,映画製作・配給の許可制,映画製作に従事する者(監督,俳優,カメラマン)の登録制,劇映画脚本の事前検閲,文化映画・ニュース映画の強制上映,外国映画の上映制限などが法定化された。この間,いわゆる日華事変の起こった1937年には中国東北部に満州映画協会が,映画法施行の39年には中国南京に中華電影,中国北京に華北電影が,いずれも国策会社として設立されて,国家による日本外地での映画工作が広がっていった。…
※「文化映画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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