文書その他の記録を保存し、利用に供する施設。「もんじょかん」ともいう。個々の施設の名称としては、収蔵資料の性格、設置に至った沿革の相違等にしたがって、文書館のほかに公文書館、史料館等種々のものがある。文書館は、図書館と類似するが、図書の管理とは基本的に異なった理論と技術のうえに成り立つ。日本に文書館制度が導入されたのは、第二次世界大戦後であるが、その範となった欧米諸国の文書館=アーカイブズarchivesは、その語源をギリシア語のρχεουにもつ。もとそれは、長官の役所magistrate's officeを意味したが、そこには公記録が収められていたので、のちにそれらの記録をさすことばとして用いられるようになったものである。『Oxford English Dictionary』(OED)は、アーカイブズを「公記録public recordsまたはその他の重要な歴史的文書が保存されている場所」および「そのように保存されている歴史的記録または文書」と定義している。
[小林蒼海]
外国の文書館の歴史と現状
文書その他の記録の保存の歴史は、国家の起源と同じように古いが、近代的な文書館制度は、フランス革命に始まる。1789年、革命の熱狂時代に国民議会は、その記録を収蔵しかつ展示するための施設を設け、これを国立公文書館Archives nationalesとした。ついでその数年後には、革命以前の旧政権時代の記録の管轄権も国立公文書館に与えられた。また同時に、すべての市民が国家の記録を利用できる権利も宣言された。オランダでは1802年に、ハーグに国立公文書館Rijksarchiefが設けられた。イギリスでは1838年に、ロンドンに国の公文書館Public Record Officeが設けられ、中央政府の記録類を収容することになった。このようにして、その他の多くのヨーロッパ各国でも、19世紀のなかばころには国立公文書館が開設整備され、地方も含めて文書館制度が整っていく。アメリカ合衆国においてはずっと遅く、ワシントンに国立公文書館National Archivesが開設されたのは1935年であった。アジアでは、たとえばインドネシアは、現在首都ジャカルタに国立公文書館Arsip Nasionalをもつが、これは、オランダ領東インド時代の1892年に設けられたオランダの地方公文書館Landsarchiefの後身でもある。中華人民共和国の場合、国家レベルの公文書館の一つである北京(ペキン)の第一歴史檔案(とうあん)館は、1925年に清(しん)朝の倒壊によって大量に放出された明(みん)末・清(しん)代の記録類を集めて故宮(こきゅう)博物院文献部として出発したことに始まる。
第二次世界大戦後の1950年に、ユネスコの援助によって文書館に関する国際組織International Council on Archives(事務局パリ)が設けられたが、同組織が1975年に作成した世界文書館名簿International Directory of Archives (Archivum, v.22―23)には、134か国の2500以上の文書館が登録されている。その大部分は、国レベル、州または県等の地域レベル、および市町村レベルの公文書館であるが、欧米諸国に関しては、教会・大学・学術研究機関等に付属する文書館・図書館の稿本部等もまた数多く登録されている。
『小野則秋著『日本文庫史研究』全2冊(1979・臨川書店)』▽『『日本古文書学講座〈近代編Ⅲ〉』(1979・雄山閣出版)』▽『岩倉規夫・大久保利謙編『近代文書学への展開』(1982・柏書房)』▽『T.R.SchellenbergModern archives : principles and techniques(1965, University of Chicago Press, Chicago)』
近代的文書館の成立はまずフランスにみられた。フランス革命期の1794年,アンシャン・レジームの文書・記録を保存するためにフランス国立中央文書館の設置が法令で定められた。文書館として十分機能しはじめたのは1840年代以降で,国立古文書学校(1821設立)による文書館員の養成が寄与している。イギリスでは,1838年の公文書法の公布によって,ロンドンに公文書館Public Record Officeが設立され,文書長官Master of Rollsの下に統合的に保管されることになった。第1次大戦中には,戦時文書・記録の保存問題を契機として,文書館学,保管文書についての原則が確立した。1930年代以降,州文書館の整備が進み,45年に〈歴史文書に関する勅任委員会〉の主導の下に〈全国文書登録制〉が発足,全国的に古文書の検索が可能となった。ドイツでは古くから領邦ごとに文書館の整備をみたが,帝国文書館Reichsarchivがポツダムに置かれたのは1919年のことで,第2次大戦後,西ドイツはコブレンツに,東ドイツはポツダムにそれぞれ国立公文書館を置いた。アメリカ合衆国の国立公文書館は1934年にワシントンD.C.に設立された。 執筆者:鵜川 馨