中国における民族民主主義革命理論の中心概念。1940年、毛沢東(もうたくとう/マオツォートン)がそれまでの中国共産党の革命理論を総括・発展させるために著した『新民主主義論』において包括的に論じられている。『新民主主義論』によれば、中国革命は、独立した民主主義の国家を建設する第一段階と社会主義を目ざす第二段階に分かれる。この第一段階の革命は、社会主義革命ではないが、ヨーロッパ近代のブルジョア民主主義革命とも異なる新しい型の民主主義革命=新民主主義革命である。新民主主義が目ざすのはブルジョア独裁ではなく、プロレタリア独裁でもなく、いくつかの革命的階級による連合独裁の共和国である。革命的階級とは中国の場合、労働者、農民、知識人その他の小ブルジョアジー、それに二面性をもつブルジョアジーのうちの革命的部分である。
ブルジョアジーは妥協性があってこの革命を指導できず、その任務はプロレタリアートの肩にかかってくる。経済的には大企業の国有化を図るが、資本主義、小生産の存在も認める。農村では徹底的な土地革命を行って自作農民を創出し、一方では協同組合経営を目ざす。文化の面でいえば民族的、科学的、大衆的であることが特徴である。孫文の三民主義と比較すると、土地革命や8時間労働制など革命の徹底性の点、第二段階の有無の点で異なるが、基本的な点では連ソ・連共・労農援助の三大政策を伴う新三民主義と共通している。
中国革命において新民主主義の道を可能にしたのは、第一にロシア革命の成功=社会主義体制の誕生と資本主義体制の没落という国際情勢であり、第二に国内で労働者階級が独立した政治勢力として登場してきたことである。植民地・半植民地の被抑圧民族が社会主義体制と結合するならば、プロレタリアートの指導下に、資本主義の道を通らずに社会主義に到達できるであろうという理論は、1920年のコミンテルン第2回大会に際してレーニンが「民族・植民地問題についてのテーゼ原案」で提起している。『新民主主義論』は東欧の人民民主主義論とともにその延長線上にあり、レーニンの理論を中国の実情にあわせて創造的に発展させたものといわれている。
時期区分としては、1840~1919年が旧民主主義革命の時期、1919~49年が新民主主義革命の時期、1949年以後が社会主義革命の時期とされている。実際に1949年に成立した中華人民共和国は、『新民主主義論』における想定を超えて、急進的に社会主義革命の段階に進んだ。現在の「改革開放」路線は、その急進主義を手直ししたものともいえるが、憲法には「人民民主主義独裁の社会主義国家」と規定されている。
なお、現在『毛沢東選集』などでみることができる日本語訳『新民主主義論』は、1951~52年の大幅改訂をはじめ、何回かにわたって手を加えたもので、プロレタリアートの指導性などが強調される一方で、長期合作論的観点が後退している。北望社『毛沢東集7』は中国語版であるが、新旧の異同を詳細に指摘してある。
[古厩忠夫]
『中西功著『中国革命と毛沢東思想』(1969・青木書店)』
中国革命および中国社会の歴史的段階を規定する概念。毛沢東により提唱され,革命理論と民族統一戦線政策の形成に重要な役割を果たした。毛沢東は1939年の論文《中国革命と中国共産党》のなかではじめて〈新民主主義革命〉の概念を提起し,40年の《新民主主義論》で〈新民主主義〉についての理論を体系的に展開した。その後この理論は革命の進展とともに,45年中国共産党第7回全国代表大会での報告《連合政府について》,49年《人民民主主義独裁について》へと受け継がれ発展した。
孫文は1924年の国民党第1回全国代表大会宣言で三民主義について新たな解釈を下し,連ソ・連共・農労援助の三大政策にもとづくことが,三民主義の〈真の解釈〉であると述べた。毛沢東はこれを新民主主義の三民主義と位置づけ,民主主義革命段階における中国共産党の政治綱領とのあいだに基本的共通性を見いだした。すなわち,当時の中国社会は植民地・半植民地・半封建の性質をもつため,中国革命は民主主義と社会主義の二つの段階を経なければならないが,この第1段階は基本的に古いブルジョア民主主義的なものであると同時に,ロシア革命以後の新しい世界史の時期にあってはプロレタリア社会主義世界革命の一部分でもなければならず,それは新民主主義社会と革命的諸階級の連合独裁国家樹立を目的とした新しい革命にほかならない,というのである。その基本的論点は,中国のブルジョア階級を帝国主義に依存する大ブルジョア階級と革命への期待を抱く民族ブルジョア階級とに区分し,統一戦線に後者の参加を不可欠としたこと,および中国にはブルジョア民主主義が存在しないため,反動支配階級の武力支配を覆すには長期にわたる武装闘争が,革命の主要形態とならざるをえないとしたことの2点にある。これにより中国革命はプロレタリア階級が指導する農民を主体とした革命戦争としてたたかわれ,農村で都市を包囲するという農村根拠地方式により全土の解放を達成した。49年10月の中華人民共和国成立後,新民主主義から社会主義への転化の時期が始まったとされる。
執筆者:田中 信行
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民主主義の新しい型。毛沢東は『新民主主義論』(1940年)で,帝国主義段階における植民地,半植民地における革命は,農民階級との同盟のうえに立つ労働者階級に指導されるブルジョワ民主主義革命,すなわち新しい型の民主主義革命であるという理論を展開した。中国では新民主主義革命は五・四運動に始まり,中華人民共和国の成立で基本的に終わり,社会主義の過渡期が始まるとされる。
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…第2次世界大戦後,東ヨーロッパとアジアのいくつかの国(中華人民共和国,朝鮮民主主義人民共和国,ベトナム民主共和国)で樹立された国家形態のこと。中国では新民主主義という言葉が用いられた。これらの国々は第2次世界大戦中,ドイツや日本などのファシズムに直接,間接に占領ないし支配された。…
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