日本大百科全書(ニッポニカ) 「星間メーザー」の意味・わかりやすい解説
星間メーザー
せいかんめーざー
メーザー(MASER:Microwave Amplification of Stimulated Emission of Radiation)は、光におけるレーザーの電波版である。メーザー現象は光におけるレーザーに先だってC・タウンズらによって発明され、高感度増幅器などに実用化されているが、宇宙では広く自然のメーザー増幅作用が観測され、星間メーザーとよばれる。
OH分子(ヒドロキシ基)の波長18センチメートル線、H2O分子(水蒸気)の波長1.35センチメートル線およびSiO分子(一酸化ケイ素)の波長6.9ミリメートルと3.5ミリメートル帯の一連のスペクトル線、CH3OH分子(メチルアルコール=メタノール)などが、強力な星間メーザー現象をおこすことで知られている。これらはミラ型変光星などの赤色巨星や赤色超巨星、あるいは生まれかけの恒星を取り巻く原始惑星系円盤や、分子流に伴う衝撃波などで観測される。その多くは、中心の恒星ないし原始星からの大規模なガス流出を伴うことで共通している。すなわち、流出するガス内で大量の分子がつくられ、中心星からの強い紫外線や赤外線がこれらの分子を励起してエネルギー準位の分布に異常をおこし、メーザー増幅効果をもたらすのである。したがってこれら星間分子メーザーの観測は、星の一生における誕生期と末期におこるガス放出現象の研究のための欠かせない手段ともなっている。ほかにもさまざまな宇宙現象でメーザー現象がおきることが知られており、恒星の距離や巨大ブラック・ホールの質量を測るなどの観測にも、星間メーザーが広く利用されている。
[海部宣男 2017年7月19日]
『赤羽賢司・海部宣男・田原博人著『宇宙電波天文学』(1988/復刊・2012・共立出版)』