暗夜行路(読み)アンヤコウロ

デジタル大辞泉 「暗夜行路」の意味・読み・例文・類語

あんやこうろ〔アンヤカウロ〕【暗夜行路】

志賀直哉長編小説。大正10~昭和12年(1921~1937)まで断続的に発表。不義の子として生まれた時任謙作ときとうけんさくが、結婚後、妻の過失という不幸を背負いながら、心の調和と平安を見いだしていく過程を描く。

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精選版 日本国語大辞典 「暗夜行路」の意味・読み・例文・類語

あんやこうろアンヤカウロ【暗夜行路】

  1. 長編小説。志賀直哉作。大正一〇年(一九二一)から昭和一二年(一九三七)まで断続的に発表。前編は、主人公時任(ときとう)謙作が、母と祖父の不義の子であることを知るまでの青春期の不安と動揺を、後編は、主人公が妻の過失に悩み、それを克服していく過程を描く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「暗夜行路」の意味・わかりやすい解説

暗夜行路
あんやこうろ

志賀直哉(なおや)の長編小説。1921年(大正10)1月~1937年(昭和12)4月、『改造』に断続連載。前編は1922年新潮社刊。後編は1937年改造社の『志賀直哉全集』に収録。志賀没後の岩波書店版全集に大正初期に始まる構想時からの草稿を収めた。近代文学史のなかでは、その成立、完成にきわめて複雑な経緯をもつ傑作の一つ。主人公時任(ときとう)謙作1人まかり通る式の作品で、不義の子謙作という出生の秘密、さらに妻の不倫というショックに耐えつつ、自己のみの力で、肉体的、精神的彷徨(ほうこう)を重ねたすえ、自己回復に至る物語である。場面は東京、尾道(おのみち)、京都、山陰の大山(だいせん)と移る。主人公謙作の心理、好悪の感情が軸となり、祖父の妾(めかけ)のお栄、後編に登場する妻の直子が重要な役割を果たす。短編小説の連鎖のような形で展開、したがって構成の堅固さよりも1カット、1シーンの描写が抜群。尾道や大山における自然描写はとくに有名である。芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)もこの作品に敬服。美と倫理一致をみごとに達成したこの作品に対して、同時代および後代作家評論家も盛んに論評、近代文学史上屈指の代表作としての誉れが高い。

紅野敏郎

『『暗夜行路』(岩波文庫・角川文庫・講談社文庫・新潮文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「暗夜行路」の意味・わかりやすい解説

暗夜行路 (あんやこうろ)

志賀直哉の長編小説。1921-37年(大正10-昭和12)《改造》に断続連載。その構想,草稿は1912年ころからはじまる。四半世紀を費やし,執拗に完成させた志賀の唯一の長編。私小説を客観小説へ変形させていく苦渋にみちた曲折は近代小説のなかでも特筆に値する。主人公時任(ときとう)謙作の少年時代の追憶を描いた序詞は前編の伏線として有効。祖父と母との不義の子という出生の秘密を謙作は知らなかったが,何かわからぬ暗い重い日々を送り,放蕩にふける。彼は尾道での孤独な生活ののち出生の秘密を知り,その運命の過酷に苦しむ。謙作は京都生活のなかで直子と出あい,結婚に直進する。しかしやがて生まれた長男は病没,直子も従兄に犯され,再び謙作はうちのめされるが,伯耆大山の大自然のなかで自己回復をはかる。時任謙作一人まかり通るわがままな小説であるが,細部のリアリティは抜群。暗い夜に耐えて朝を迎える主人公一人の内面の闘いは壮絶である。幾多の評価を受けつつ近代小説屈指の重い大作の位置を占めている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「暗夜行路」の意味・わかりやすい解説

暗夜行路
あんやこうろ

志賀直哉の長編小説。 1921~37年発表。 16年余を費やして完成した作者唯一の長編。主人公時任 (ときとう) 謙作は,母と祖父との不義の子であるという出生の秘密を知り,深い苦悩を味わう。結婚によって脱却の道を得たと思ったのもつかのま,自分の旅行中に,妻が従兄と不義を犯す。こうしたぬきさしならない暗夜行路を経て,謙作は心境の安定を求める旅に出る。苦悩のはて伯耆の大山にこもり,ようやくすべてを許すことができる広々とした心境に達して終る。二重の忌むべき事件という虚構を通じて主人公のエゴを追及,その実感を尊重した生き方のなかに解決の道を探るという作者の自伝的要素が強い作品であり,倫理的自我意識の拡充を求めた白樺派文学の一つの頂点を示す傑作である。

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百科事典マイペディア 「暗夜行路」の意味・わかりやすい解説

暗夜行路【あんやこうろ】

志賀直哉の長編小説。前編は1921年,後編は1922年―1937年断続的に《改造》に発表。自己の出生の秘密と妻の過失に苦しむ主人公時任(ときとう)謙作が精神の危機を克服するまでの内面的発展を描く。自伝的要素の多い一種の恋愛小説といえる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「暗夜行路」の解説

暗夜行路
あんやこうろ

大正・昭和期,志賀直哉の代表的長編小説
1921年から'37年にかけて,断続的に書きつがれて完成。暗い出生に苦しんだ主人公時任謙作 (ときとうけんさく) が,幸福を求めて暗夜にも似た人生をたどり,やがて諦観の境に行きつく過程を,的確にリアルに描く。

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デジタル大辞泉プラス 「暗夜行路」の解説

暗夜行路

1959年公開の日本映画。監督:豊田四郎、原作:志賀直哉による同名小説、脚色:八住利雄、撮影:安本淳。出演:池部良、山本富士子、淡島千景、千秋実、文野朋子、中村伸郎、荒木道子ほか。

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世界大百科事典(旧版)内の暗夜行路の言及

【豊田四郎】より

… 以後,林芙美子原作《泣虫小僧》(1938),阿部知二原作《冬の宿》(1938),伊藤永之介原作《鶯》(1938)など一連の〈文芸映画〉のなかで,暗い時代の日本の庶民像を描き出していった。愛国婦人会を創設した明治の女傑の半生を描いた伝記映画《奥村五百子》(1940),ハンセン病療養所で献身する若い女医の実話をリリカルなヒューマニズムで描いた《小島の春》(1940)などをへて,戦後も丹羽文雄原作《女の四季》(1950),森鷗外原作《雁》(1953),有島武郎原作《或る女》(1954),室生犀星原作《麦笛》(1955),織田作之助原作《夫婦善哉》(1955),谷崎潤一郎原作《猫と庄造と二人のをんな》(1956),川端康成原作《雪国》(1957),志賀直哉原作《暗夜行路》(1959),永井荷風原作《濹東綺譚》(1960)と〈文芸映画〉の系列がある。 女を多く描き,フェミニストともいわれたが,そのフェミニズムは,女の美しさよりも無知や貪欲さを凝視する目のきびしさと執念に特色があるといわれる。…

※「暗夜行路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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