有機溶剤中毒(読み)ゆうきようざいちゅうどく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「有機溶剤中毒」の意味・わかりやすい解説

有機溶剤中毒
ゆうきようざいちゅうどく

有機溶剤による中毒。有機溶剤とは、常温常圧下で液体であって非水溶性のものを溶かす有機化合物の総称である。その種類は400種以上に達するが、化学構造から分類すると芳香族炭化水素、塩化炭化水素、アルコール、エステルエーテルケトン、グリコール誘導体、脂環炭化水素、その他に大別される。2008年現在では、産業中毒の面から54種類が厚生労働省の有機溶剤中毒予防規則の対象とされ、もっとも毒性の強いもの7種類を第1種、比較的安全なもの7種類を第3種、両者の中間のもの40種類を第2種としてまとめている。また、前述の54種類のみからなる混合物も対象となる。ちなみにベンゼンは厚生労働省の特定化学物質等障害予防規則の対象となっている。

 有機溶剤は揮発性、脂溶性などの特性から、吸入による中毒の発生、中枢神経などの脂肪の多い組織への障害、皮膚粘膜障害などが共通しており、毒性としては中枢神経系麻酔作用、末梢(まっしょう)神経障害作用、皮膚粘膜刺激作用、造血器障害(ベンゼンとグリコール類)、肝障害作用(四塩化炭素、クロロホルム、テトラクロルエタンなどの塩化炭化水素)、腎(じん)障害作用が中心となる。

[重田定義]

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改訂新版 世界大百科事典 「有機溶剤中毒」の意味・わかりやすい解説

有機溶剤中毒 (ゆうきようざいちゅうどく)

有機溶剤中毒予防規則では約50種類の有機溶剤をあげているが,実際の産業現場では,さらに多くのものが使用されている。有機溶剤は気化しやすく,吸入されて影響を現すものがほとんどであるが,一部のものは健康な皮膚からでも吸収される。有害な影響のうち,溶剤全般に共通なものとして,(1)溶剤の脂溶性の高いことからくる人体の脂肪成分の多い諸組織への影響,(2)中枢神経への麻酔作用,末梢神経障害(目,鼻,咽頭などの粘膜刺激作用),(3)液体の接触による皮膚の脱脂による炎症,角化,亀裂,などがある。これに,個々の溶剤の化学構造の特性に関連した有害影響が加わる(塩化物での肝臓腎臓の障害,ベンゼンの造血機能障害など)。有機溶剤使用職場では,頭痛,頭重,違和感,倦怠感などの訴えが多い。これらは他の職場にもみられる一般的で非特異的なものであるが,作業環境気中の溶剤濃度が高くなってくるほど目だち,これに神経症状や他の障害が伴ってくることが注目される。歴史的には,第2次大戦前ではビスコースレーヨン工場での二硫化炭素中毒(強い精神障害),戦後1950年代のサンダル製造業でのベンゼン中毒(造血障害. 死亡例が多く出た),60年代のベンゼン代用溶剤として導入されたn-ヘキサンによる末梢神経障害(とくに下肢の筋肉萎縮,歩行困難)が有名である。一般人の間ではシンナー遊びによる中毒があり,これらの重症例では脳実質の変性による人格障害も加わってくる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「有機溶剤中毒」の意味・わかりやすい解説

有機溶剤中毒
ゆうきようざいちゅうどく
organic solvent poisoning

有機溶剤を吸入することによる中毒。有機溶剤は,水に不溶性の油脂などを溶かす性質をもつ液体の便宜上の呼称で,トリクロロエチレンなどの脱脂洗浄用塩素系溶剤を除けば,ほとんどはベンゼン,トルエン,キシレンなどの芳香族系,酢酸エチルなどのエステル類,アルコール類,ケトン類の混合溶剤である。これらは塗料,接着剤,洗浄剤などに広く用いられており,中毒も多発している。有機溶剤は,その性質上蒸発しやすく,気道を通って吸入されて血液中に移行し,体内の脂肪組織に分布する。神経組織にも入り込み,麻酔作用を引起す。皮膚からも容易に吸収される。急性中毒では麻酔作用のほか,頭痛,めまい,吐き気などを起す。慢性中毒は種類により異なり,ベンゼンは造血器,二硫化炭素やノルマルヘキサンは神経系,トリクロロエチレンは肝臓をそれぞれ侵す。有機溶剤中毒の予防法は,密閉,換気,労働衛生保護具などによって暴露を少くすることで,有機溶剤中毒予防規則に詳しく規定されている。

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