ベンゼン中毒(読み)べんぜんちゅうどく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンゼン中毒」の意味・わかりやすい解説

ベンゼン中毒
べんぜんちゅうどく

有機溶剤ベンゼンによる中毒。かつてはもっとも多く使用された有機溶剤であったが、中毒が世界中で多発したため、各国でその使用を厳しく規制するようになった。わが国でも労働安全衛生法によって、溶剤または希釈剤としてベンゼンを5%以上含むゴム糊(のり)の製造、輸入、提供、使用はすべて禁止されているが、有機合成化学では重要な原料として広く使用されている。

 ベンゼン中毒の症状は、高濃度のベンゼン蒸気を吸入すると、最初に頭痛、めまいがおこり、酒に酔ったような興奮状態となり、やがて眠気、運動失調、呼吸困難をきたし、昏睡(こんすい)状態に陥り、死亡することもある。慢性中毒は低濃度蒸気の吸入あるいは皮膚からの吸収によっておこり、食欲不振、体重減少、倦怠(けんたい)感、頭痛、めまい、不眠などのほか、造血機能が障害されて貧血白血球減少がみられ、ついには白血病や再生不良性貧血になることもある。労働衛生上の許容濃度は10ppmである。

[重田定義]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベンゼン中毒」の意味・わかりやすい解説

ベンゼン中毒
ベンゼンちゅうどく
benzene poisoning

高濃度のベンゼン (ベンゾールともいう) を吸入すると中毒が起る。急性中毒では中枢神経が侵され,不穏,興奮,多幸症,めまいが起り,さらに昏睡,けいれん呼吸不全や心室性不整脈が生じることがある。 0.4%程度の濃度で死亡する。慢性中毒は,100~500ppmの濃度のものを1日4~5時間吸入すると起る。症状は上記の中枢神経症状のほかに,心,肝,腎の脂肪変性が生じる。さらに造血器に作用し,再生不良性貧血や骨髄の無形成を起す。急性中毒には,戸外の新鮮な空気を吸わせ,重症には人工呼吸,酸素吸入を行い,強心剤を投与する。慢性中毒には,輸血,止血剤など,再生不良性貧血に準じた治療を行う。予防法としては,ベンゼンを扱う工場の換気に注意し,就業者には保護マスクなどを装着させる。

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