2005年(平成17)の会社法の制定・有限会社法の廃止(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律=整備法、平成17年法律第87号)まで存続していた会社形態。
[戸田修三・福原紀彦]
有限会社法(昭和13年法律第74号)によって設立された会社で、社員が会社に対し、原則として出資の金額を限度とする責任を負うだけで、会社債権者に対してなんらの責任を負わない社員によって構成された社団法人。社員の会社に対する責任が出資の金額に限定された点で株式会社に似ているが、株式会社は、元来、大企業を予想してその法規制がなされており、その設立手続や機構が複雑であるため、中小企業には向かないところがある。そのため、社員の責任を有限とする物的会社の特色に、人的会社の要素を加味した中間的な企業形態としてこれが認められていた。
すなわち、有限会社は、社員の有限責任の点で株式会社に類似しているが、社員の人数が少なく、その個性が比較的重視され、株式会社の複雑・厳格な規定が緩和されている点で、合名会社に似た閉鎖的・非公開的な性格を有する会社であった。ドイツの有限責任会社Gesellschaft mit beschränkter Haftung法(1892)に倣ったもので、1938年(昭和13)に採用されたが、フランスの有限責任会社société à responsabilité limitéeやイギリスの私会社private companyもこれと類を同じくする。現在、ヨーロッパ各国では有限責任形態の閉鎖会社をめぐる立法競争が盛んであり、スペイン、イタリア、スウェーデンでも同趣旨の企業形態が創設されつつある。なお、アメリカの閉鎖的株式会社close corporationも有限会社と同じ目的で利用されているが、これは一般の株式会社の形態をとり、株式の譲渡制限が認められているものである。
[戸田修三・福原紀彦]
有限会社は、少人数の社員が、非公開的に、簡易な手続で、有限責任をもって企業を営むことができるという点で特色を有するから、設立手続が簡易化されており、発起設立に該当するものだけが認められ、募集設立にあたるものはない。また、検査制度もないが、そのかわりに社員の填補(てんぽ)責任が義務づけられていた(旧有限会社法14条~16条)。有限会社の社員の地位は個性的であり、その数は原則として50人以下に制限され(同法8条、19条6項)、社員に法定の出資引受権を認め(同法51条)、社員の公募・社債の募集・建設利息の配当などを禁止し(同法52条2項、60条3項、64条1項但書)、無額面株式の制度もなかった。そのうえ、有限会社は、多数の均等額の出資からなる資本を有し、株式会社の場合とは異なり、その資本の額は定款に掲げられたが、無額面株式にあたるものはないために、資本を分割したものが1口の金額であった。1990年(平成2)の有限会社法の改正では、その1口の金額は5万円以上にする(同法10条)とともに、資本的基礎の薄弱な有限会社の乱立の防止と債権者や一般取引の安全を図るために、資本を300万円に引き上げた(同法9条)。持分(もちぶん)譲渡の自由も認めず、社員以外の者への持分の譲渡を制限し(同法19条)、持分の有価証券化を許さなかった(同法21条)。
会社の機関についても簡易化されており、取締役の員数は1人あればよく(同法25条)、取締役会と代表取締役の制度もなかった。また、監査役も任意機関であり(同法33条1項)、社員総会も簡易化されていたほか(同法36条、38条)、その決議についても書面決議の方法が認められていた(同法42条)。その他の点では株式会社との間に多くの類似点があったので、株式会社に関する多くの規定が有限会社に準用されていたほか、これと実質的に同じような規定が置かれていた。合併や組織変更については株式会社との間にだけ認められた(同法59条、60条、64条、67条)。なお、有限会社の社員の責任が有限であるにもかかわらず、公示主義が緩和され、また、会社の資本的基礎を確実にするための厳格な規定がなく、法の干渉が緩やかであったために、会社債権者の保護に欠けるばかりでなく、会社の内部事情に通じない社員の利益を侵すことにもなった。このような有限会社制度の弊害を防止する趣旨をも含めながら、閉鎖的株式会社と有限会社の規制のあり方について検討が進められていた。
[戸田修三・福原紀彦]
2005年の会社法制定に伴い、有限会社法が廃止され、有限会社制度が法律上はなくなり、株式会社制度に包摂される。ただし、既存の有限会社に対しては引き続き廃止前の有限会社法の規律が実質的に維持される。
(1)株式会社制度への包摂 株式会社制度は、公開会社と非公開会社に二分され、従前の有限会社制度はこの非公開会社制度に包摂されると解されている。非公開会社とはすべての株式について譲渡制限を付す旨の定款の定めのある会社をいい、公開会社とは全部株式譲渡制限会社以外の会社、すなわち、最低でも1株については株式自由譲渡の定めがある会社をいう(会社法2条5号)。非公開会社では株式を譲渡するには会社による承認が必要である(同法2条17号)ため、会社の閉鎖性を確保できる。しかも、非公開会社では剰余金配当請求権・残余財産分配請求権・議決権分配について株主ごとに異なる定めを置くことができる(同法109条2項、105条1項)。たとえば一定の株主に複数議決権を与えることも可能である。また、非公開会社では取締役会の設置は義務づけられず(同法327条1項1号)、株主総会と取締役のみのもっとも簡易な機関構成で会社を運営してゆくことができる(同法326条)。
(2)特例有限会社制度 2005年に有限会社法は廃止されたが、既存の有限会社はそのまま「有限会社」の商号の使用を継続することが認められる。すなわち、このような有限会社は法律上では「株式会社」として存続し(整備法2条1項)、既存の有限会社の定款・社員・持分・出資1口は、存続する株式会社の定款・株主・株式・株式1株とみなされる(同法2条2項)。そして、2条の規定により存続する株式会社は、その商号中に「有限会社」という文字を用いなければならず(同法3条1項)、このような株式会社を「特例有限会社」と称され(同法3条2項)、従前の有限会社制度の実質が維持できるように法整備がなされている。
[戸田修三・福原紀彦]
『郡谷大輔編著『中小会社・有限会社の新・会社法』(2006・商事法務)』▽『根田正樹・坂田純一編『特例有限会社の実務――ポイント解説とQ&A』(2006・ぎょうせい)』▽『荒木和夫著『ドイツ有限会社法解説』改訂版(2007・商事法務)』▽『酒巻俊之著『新会社法(株式会社・特例有限会社)』(2007・法律文化社)』
閉鎖的な中小規模の営利事業に社員有限責任を認める会社形態。少人数または小規模の企業に適合するように,株式会社の厳格かつ複雑な規定が緩和されており,有限会社は簡易化された株式会社といわれる。19世紀末のドイツの立法者が創出した会社形態であり,日本の有限会社法はこれを基礎に1938年に制定された(1940施行)。フランスもドイツにならい1925年有限会社法を制定し,その後,66年商事会社法が他の会社とともに有限会社を規制するようになった。英米法系の諸国では,株式会社の一変種として,株式の譲渡を制限し内部組織を簡易化しうる私会社private company(イギリス)または閉鎖会社closed corporation(アメリカ)が認められ,これが有限会社と機能的に対応関係にある。
日本には,1980年代において,100万社を大きく超える有限会社があった。そのほとんどは資本金1000万円以下,社員数10名以下であるが,株式会社に最低資本金制度がないため,閉鎖的な中小企業が株式会社形態を採用する傾向も強く,株式会社も100万社を超えていた。株式会社が有限会社よりも社会的・経済的信用が高いことのほか,株式会社法の規定の潜脱が容易なこと,有限会社法が準用立法であって理解が困難なこと等がその理由である。1990年には,株式会社に1000万円の最低資本金制度が導入されて(商法168条ノ4),小規模会社を有限会社に組織変更させる政策が採用されるとともに,有限責任の濫用に対処するため,有限会社の最低資本金を300万円に引き上げる等の有限会社法の改正もなされた(有限会社法9条)。97年には,合併に関して,株式会社に関する改正と同様の改正がなされた。
有限会社は法的には有限会社法により設立された営利社団法人である(有限会社法1条)。有限会社法は立法上の理由により商法とは別個の単行法として制定されたが,有限会社は実質的には商法上の会社である。有限会社には商法上の会社と同様の一般規定が適用され(1~4条),商法以外の法律の適用について,有限会社は商法上の会社とみなされる(89条)。有限会社は物的会社(資本団体)として株式会社と同質性を有する。有限会社の社員は原則として出資金額を限度とする有限責任を負うだけで,会社債権者に対して責任を有しない(17条)。このため,株式会社と同様,資本制度が設けられ,社員は持分を譲渡しうるが(19条1項),退社することはできない。出資1口の金額は5万円以上の均一の額,資本総額は300万円以上でなければならない(9,10条)。利益配当制限等,資本維持のための株式会社法規定が多数準用される。もっとも,授権資本制度は採用されず,資本の額は定款の絶対的記載事項であり(6条3号),出資総額が資本となる。剰余金や準備金の資本組入制度もない。
他方,有限会社は閉鎖的な,人的信頼関係のある少人数の共同企業形態として,合名会社,合資会社と同様人的要素も加味されている。社員の氏名,住所,出資口数は定款の絶対的記載事項であり(6条),社員の総数は原則として50名以内でなければならない(8条)。持分の譲渡が制限され,その有価証券化も禁じられる(19条2項以下,21条)。社員の公募はできない(52条)。なお,会社の設立に当たり,設立時の社員が株式会社の発起人の地位に立つが,1990年改正により,設立手続は基本的に株式会社の場合と同様になった。社員の個性が重視されているため,人的会社の場合と同様,設立取消訴訟制度があり,また,資本充実責任が課せられる。
会社の内部関係について広く社員自治が認められ,会社機関も単純である。社員は出資1口ごとに1個の持分を有するが(18条),利益配当,議決権等社員の基本的権利について定款で別段の定めをすることができる(39,44,73条等)。社員には原則として新出資引受権が認められる(51条)。法律上代表取締役・取締役会制度はなく,会社の業務執行代表機関は取締役であり,その員数・任期についても制限はない(25条)。有限会社の監査役は任意機関であり,会計監査権限を有するにすぎない(33,33条ノ2)。社員総会は社員の総意により会社の意思を決定する有限会社の最高かつ万能の機関であり,会社に関するいっさいの事項について決定権限を有する。社員総会は株主総会に比べて諸般の手続が簡易化され,書面による決議も認められる(42条)。
有限会社の計算について株式会社に関する多数の商法規定が準用されているが(46条),中小企業のための会社形態として,公示主義が緩和され,貸借対照表またはその要旨を公告する必要はない。建設利息の配当や中間配当制度はなく,社債の発行が禁じられる。整理・特別清算の制度もない。
なお,2005年の会社法成立により有限会社法は廃止され,有限会社は将来的に消滅することとなった。
執筆者:森本 滋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…会社法施行の前後から,日本の企業は会社形態を中心として発展を遂げていったが,鉱山業や製糸業などでは会社形態をとらないものが多かったことにも注意すべきである。その後1938年の有限会社法公布によって有限会社が認められ,また50年の商法改正(翌年施行)によって株式会社法は全面的に改正された。【高村 直助】
【法律上から見た会社】
[会社の意義と種類]
会社は共同企業組織の一種である。…
※「有限会社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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