社会通念上商行為は営利行為と同一視されるが,あらゆる営利行為が商法にいう商行為となるわけではない。それでは商法は何をもって商行為とするか。その決め方には二つの方法がある。第1は特定の行為を商行為として列挙する方法で,その商行為を行うものが商人とされる。商事法(商行為法)主義とよばれる方法である。第2の方法は,まず商人概念を定めたうえで,その商人の行う行為を商行為とするもので,商人法主義とよばれる。このように商行為が商人の概念と関連して定められるのは,これら二つの概念が商法典の適用範囲を画定する最も基本的な概念とされることによる。つまり,商法が規制対象とする企業の生活関係は商行為と商人という二つの概念をとおして把握される。商事法主義はフランス革命後,商法を商人階級の法から解放するという大義名分のもとに,ナポレオン商法典によって採用された立場である。しかし,商行為をいちいち列挙するこの方法では経済社会の発達に伴う営利活動の拡大と革新を網羅しきれないことが多いため,むしろ商人法主義が望ましいとされる(ドイツ新商法・スイス債務法の立場)。日本の商法は基本的には商行為主義によりながら,それに商人法主義を加味する折衷主義の立場に立つ。すなわち,まず基本的な商行為として絶対的商行為と営業的商行為が定められている。列挙された項目は例示的列挙ではなく限定列挙とされ,条文の項目に該当しない行為は商行為とはされない。
絶対的商行為とは行為の客観的性質からみて営利性が強く当然に商行為とされるものである。非商人がこの行為を1回限りしても商行為となる。商法501条各号の行為および担保付社債信託法上の信託の引受け,第三者の社債総額の引受け(3,29条)がこれにあたる。その典型例は物を安く買って高く売るか,先物を高く売っておき,あとで安く買ってその差額を利得する投機的取引である。次に,営業的商行為とは営業として反覆的継続的になされることによってはじめて商行為とされるものである。以下に列挙する商法502条各号の行為その他がそれにあたる(かっこ内は例示)。すなわち,(1)投機的貸借行為(貸家,貸本業),(2)他人のための製造加工(機械製作,洗濯業),(3)電気・ガスの供給(水道・電波の場合でも,後述のように会社形態で営業すれば準商行為となる),(4)運送,(5)作業・労務の請負(船舶工事の請負),(6)出版,印刷,撮影(興信所の調査,通信社によるニュース供給行為は含まれない),(7)場屋取引(公衆の来集に適する人的・物的設備を備え,有償で利用させる行為。飲食店,旅館,パチンコ屋,理髪業),(8)両替その他の銀行取引(受信・与信行為をあわせ行う場合に限られるから,自己所有の金銭の貸付けは含まれない),(9)保険(相互保険は含まれない),(10)寄託の引受け,(11)仲立・取次ぎ(結婚の媒介も営業とすれば商行為),(12)商行為の代理の引受け,(13)信託法による信託の引受け,および(14)無尽業法による無尽,がある。ただ,もっぱら賃金を得る目的で物を製造したり労務に服する行為(手内職,賃仕事)は小規模なため商行為とはされない(商法502条本文但書)。そして,以上の基本的商行為をなす者が商人(〈固有の商人〉)とされる。逆に,商人概念を前提にして定められる商行為もある。商人(〈固有の商人〉,擬制商人または小商人)がその営業のためになす行為(営業のための資金・建物の借入れなど)は付属的商行為とよばれる(503条。なお,営業的商行為と付属的商行為はあわせて相対的商行為とよばれる)。また,擬制商人が営む営業行為もまた商行為に準じて取り扱われ,準商行為とよばれる(523条)。
商行為となれば,民法ではなく商法が適用される。その結果,おもに次のような差異が生じる。(1)商行為の代理の場合,民法のように本人顕名でなくてもよい。また本人が死亡しても代理権は消滅しない(504,506条。ただし,民法では消滅する)。(2)数人が共同で債務を負担するとき,民法では分割債務が原則だが,商行為の場合連帯債務となる(511条)。(3)法定利率は年6分(514条。ただし,民事では年5分)。(4)民法とは違い,流質契約は禁止されない(515条)。(5)債務の履行場所は民法では原則として住所だが,商法では営業所である(516条)。(6)債務の消滅時効は民事では原則10年だが,商事では5年である(522条)。(7)商人は契約の申込みに際し,諾否通知義務および受領品保管義務を負う(509,510条)。(8)商人が他人のために行為したとき,特約がなくても相当の報酬を請求できる反面,無報酬で寄託を引き受けても善良な管理者としての注意義務を負う(512,593条)。さらに,商人間の商行為については,(9)特約がなくても法定利息を請求できる(513条)。(10)民法上の留置権とは異なり,債務者との間の商行為によって自己の占有に帰した物を留置できる(521条)。
→商人
執筆者:森 淳二朗
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実質的にいえば、営利に関する行為であり、形式的にいえば、商法および特別法(信託法、無尽業法)で商行為として規定されている行為。商法は、法適用の範囲を明確にするために、列挙主義をとっている。商行為は、絶対的商行為、営業的商行為、附属的商行為に分けられる。絶対的商行為は、行為の客観的性質からみて商行為とされ、その行為者が商人であるか否か、また営業としてなされたか否かを問わず、当然に商行為とされるものである(商法501条)。たとえば、物を安価で仕入れて値上がりを待って高価で販売し、その間の利鞘(りざや)を稼ぐ行為がその典型である。営業的商行為は、特定の行為が営業として反復継続的になされるために商行為とされるものである(同法502条)。たとえば、貸衣装店のような投機賃貸借、クリーニング店や洋服仕立屋のような製造・加工業、電気・ガスの供給事業、運送業、建築の請負業、出版・印刷・撮影業、場屋(じょうおく)営業、銀行業、保険業、倉庫業、仲立・取次業、代理商、信託、無尽などがこれに属する。附属的商行為は、商人が営業のためになす行為を商行為としたものである(同法503条)。
このうち、絶対的商行為と営業的商行為は、商人概念を定める基礎となる概念であるために、これを基本的商行為といい、これに対し附属的商行為は商人概念を前提として導き出されたものであり、これを補助的商行為という。
商行為は財産上の行為に限られ、身分上の行為は含まれない。したがって、かりに営業のためになされたとしても婚姻や養子縁組は商行為にはならない。また、商行為は債権法的な行為であって、取引した目的物の所有権の移転のような物権行為は、商行為たる取引の履行としてなされる場合に附属的商行為となるにすぎない。商行為は原則として法律行為であって、催告・通知のような準法律行為はそれ自身独立して商行為となることはない。商行為は一般の法律行為に対し、迅速性、営利性、集団性、定型性などの特色を有するために、商法は商行為編で、民法の取引規定に対する修正規定を置いている(商法504条~522条)。たとえば、商事委任・代理、契約の成立、多数当事者・保証人の連帯、報酬・利息請求権、商事法定利率、債務の履行、商事時効、流質契約の許容、商人間の留置権の規定などがそれである。そのほか、商法は商行為編で典型的な営業についての詳細な法規制を置いている。
[戸田修三]
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…(2)会社 その設立,内部関係,解散など組織固有の問題については,〈外国法人〉〈外国会社〉の項目を参照されたい。(3)商行為 商行為も一つの法律行為であるから,契約債権については,当事者に準拠法指定を認める法例7条,物権的行為については,目的物の所在地法を準拠法とする法例10条による。法例7条における黙示意思の探究,法例12条に定める債権譲渡の第三者に対する対抗要件については,当事者の住所に代わり営業所が重要性をもつことは,前に述べたとおりである。…
※「商行為」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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