会社の債務について、会社債権者に対し連帯して直接無限の弁済責任を負う社員だけで構成される、一元的組織の会社(会社法576条2項、580条)。会社法では、合名会社・合資会社・合同会社の三者が持分(もちぶん)会社と総称され、多くの共通した法規整に服する。合名会社は、原則的に、資本の出資者である社員が全員で会社経営に参加し、そこから得られる利益を享受するという、原初的な会社形態である。社員相互の信頼関係を必要とし、社員の個性が会社企業のうえに強く反映するから、親族や友人など少数の信頼関係にたつ者の共同企業形態として利用されている。合名会社も形式的には社団法人であるが、その実質は組合的な性格を有し、人的会社の典型である。会社法では、一人持分会社であっても社員の加入や持分の譲渡により社員が複数になる可能性があることから、ただちに社団性に反するとはいえず、また、社員が1人となった場合は会社の解散事由とされていないことから(同法641条、株式会社につき、同法471条)、合名会社でも、出資者たる社員が1名の一人持分会社が認められている。
[戸田修三・福原紀彦]
社員は全員、会社債務に対して直接無限責任を負う。ただ、社員が責任を負うのは、(1)会社財産をもって会社の債務を完済することができない場合、(2)会社財産に対する強制執行が効を奏しない場合(会社法580条1項)であるから、無限責任社員に対する請求とはいっても、まずは会社に対して請求しなければならない。
[戸田修三・福原紀彦]
まずは社員となろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名し、または記名押印しなければならない(会社法575条、576条)。定款の作成により社員が確定して機関も具備され、本店の所在地における設立登記をもって比較的簡単に成立する(同法579条)。相互に信頼関係ある社員の人的結合の面が強く、資本的結合である株式会社の場合におけるような複雑・厳格な設立手続を定める必要はないからである。社員の出資は、設立時までの全額払込制はとられておらず(同法578条)、また、財産出資のほか、労務出資や信用出資も認められている。無限責任社員が存在するので、債権者保護のための会社財産の確保の要請が存しないからである。
[戸田修三・福原紀彦]
社員は利益配当請求権をもつ反面、損失を分担する義務を負う。また、社員の信用が重視されるため、社員の入社および社員の交替(持分の譲渡)には他の総社員の承諾が必要である(会社法585条1項)。ただ、社員の投下資本の回収の便を考慮し、会社に対する退社の一方的申入れの方法により、持分の財産的価値の払戻しを請求できる(退社の自由。同法606条)。また、社員の除名の制度もある(同法607条1項8号、859条)。定款の変更のほか、会社の基本的事項の決定(たとえば定款変更・解散・合併)には総社員の同意が必要(同法637条、668条、793条1項1号・802条1項1号)である。
[戸田修三・福原紀彦]
原則として各社員が業務執行の権利を有し義務を負うが、定款の定めにより、一定の社員のみを業務執行社員とすることができる(会社法590条1項)。業務執行社員が2人以上いる場合には、定款に特別の定めがある場合を除き、その過半数によってなされる(同法590条2項、591条1項前段)。すなわち、原則的に所有と経営が一致している。
[戸田修三・福原紀彦]
商法上の会社の一種で,無限責任社員だけからなる会社(商法62条以下)。社員の全員が会社債務について会社債権者に対して,直接に,出資額を限度としない無限責任を連帯して負い(80条),出資も財産に限られず,労務出資や信用出資も認められる。また,原則として,会社の業務を執行し会社を代表する権限を持つ(70,76条)。社員の会社債務に対する責任はいわゆる補充責任であり,会社財産によって会社債務を完済できないとき,または会社財産に対する強制執行により満足が得られなかったときに生ずる。合名会社は,経済的には各社員の個人企業の共同事業形態にほかならず,社員の個性が重視されており,典型的な人的会社といえる。このため会社の内部関係には,民法上の組合に関する規定が準用される。
沿革的には,中世イタリアにおいて数人の相続人が家父の遺業を従来の商号のもとに共同で継続するために組織した家族団体compagniaから発達したものであり,合名会社に関する最初の立法は1673年のフランス商事条例であるといわれている。合名会社なる名称の由来は1807年のフランス商法典が,合名会社をsociété en nom collectif(合名の会社)と称したことによる。フランスでは現在でも,すべての社員の名をもって,または1人または数人の社員の名にet compagnieの語を付したものを合名会社の商号としている。日本では,合名会社の商号中に社員の名称を加える必要はなく,また実質規定もドイツ法に依拠しているが,名称はフランス法によったのである。
以上のように,沿革的には合名会社は資本的結合であるよりむしろ家族的結合であったが,現在でも,少数の人的信頼関係にある者の共同企業形態であって,個人商人が確実な協力者を必要とするときや,数人の親族が共同して事業を行うときなどのように,資本の結合というより労力の補充を目的とするいわゆる同族会社である場合が多く,合名会社は中小規模の企業のための企業形態として機能している。日本には,税務統計上1万社足らずの合名会社があるにすぎない。合名会社形態で運営されることが妥当な同族会社の多くが有限責任その他の特典を利用するために,株式会社または有限会社形態をとっており,このため,とくに株式会社の名に値しない小規模閉鎖会社をめぐる種々の法的問題が起こっている。
合名会社は社員になろうとする2人以上の者が定款を作成し設立の登記をすることによって成立する。合名会社においては一人(いちにん)会社は認められず,社員が1人となると解散する。定款には目的,商号や本・支店の所在地等のほかに社員の氏名・住所が記載される。合名会社においては社員の個性が重視されるためである。合名会社の持分相続は原則として認められず,被相続人は退社し,相続人は持分の払戻しをうけるにすぎない。持分の譲渡や新社員の入社,定款の変更その他重要事項は総社員の同意を必要とする(72条)。多数決の場合にも資本多数決ではなく頭数多数決による。
合名会社は社員間の人的信頼を基礎とするので,株式会社の場合とは異なり,社員退社(会社よりの脱退)は原則として自由である(84条)。
→合資会社
執筆者:森本 滋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…1890公布)のうち,手形・小切手法,破産法とともに会社法が一部修正のうえで施行された。会社法によって会社は権利・義務の主体と認められ,その形態は,無限責任制の合名会社,無限・有限の両社員からなる合資会社,有限責任制の株式会社の3種に区分された。同法施行に伴って会社の多くは株式会社と名称を改め,また三井財閥は傘下各企業を合名会社に改組し,三菱社(1885年以前は郵便汽船三菱会社(略称,三菱会社)といった)は三菱合資会社に改組された。…
※「合名会社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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