単独で財産上の法律行為をすることのできる能力。ふつうの成年者は行為能力をもち,自分が行った財産法上の法律行為につき絶対の責任を負わねばならない。ところが,未成年者,禁治産者,準禁治産者の3者は,この能力を欠き,その財産管理のための保護機関を付されるとともに,彼ら自身がした法律行為を法律所定の範囲内では取り消して,当該行為の法的拘束力を免れることができる(民法4条2項,9条,12条3項,120条)。行為能力を欠くとされるこれら3類型の者は,いずれも継続して意思能力の不完全な者であり,財産取引関係において特別の保護を要する者なのだが,個別具体的な各場合ごとに意思無能力を立証することが事実上かなり困難だから,未成年または家庭裁判所による禁治産ないし準禁治産の宣告という画一的規準に従ってあらかじめ通常人から区別され,行為能力を欠くことを立証しさえすれば,当該の法律行為を取り消しうることになっているのである。また,行為能力を欠くかどうかは戸籍簿を調べればわかるから,行為能力を欠く者と取引関係に入ることの危険を予知・予防できる一応の可能性が相手方に与えられており,その点で相手方における取引の安全維持にも役だつという一面がこの制度にはある。しかし,ひとたび行為能力を欠くことを理由として当該行為が取り消されると,行為能力を欠く者は相手方から受領済みの給付のうち浪費・紛失してしまったものなどを返還する必要がないと定められているから(121条但書),やはり相手方の不利益は著しい。そこで,詐術(さじゆつ)を用いて行為能力ありと相手方に誤信させた者は,のちに前言をひるがえして当該の行為を取り消すことはできなくなることが民法に定められている(20条)ほか,郵便・電信・電話の利用関係などに対しては行為能力制度の適用をそもそも否定すべきだと説かれるにも至っている。なお,行為能力の制度が婚姻・養子縁組などの家族法上の法律行為に適用されないことはいうまでもない。
→権利能力 →無能力者
執筆者:須永 醇
日本の国際私法は,行為能力の準拠法について,無能力者保護の見地から属人法主義を採用している。すなわち,法例3条1項で行為能力の問題を原則として行為者の本国法によらせている。したがって,たとえば,成年年齢を18歳と定める甲国の国籍をもつ19歳のAが,日本で結んだ契約につき,日本法により未成年であることを理由にその効力を否定しようとしても,その本国法により能力者とされる以上,その主張は認められない。それでは,たとえば,成年年齢を21歳と定める乙国の国籍をもつ20歳のBは,日本で結んだ契約につき,その本国法により未成年であることを理由にこれを取り消すことができるであろうか。法例3条1項の原則に従う限り,Bはその本国法により無能力者とされる以上,日本法の規定いかんにかかわらず,その契約の効力を否認しうるものとしなければならない。しかし,このような解決は,無能力者保護の見地から是認されても,取引保護の要請に適合するものとはいえない。行為能力の準拠法につき取引保護の見地から行為地法主義を採用する国もあるが,属人法主義を採用する国でも,取引保護の考慮から一定の条件のもとに行為地法による属人法の適用の制限を認めるのがふつうである。日本も,法例3条2項で日本が行為地である場合に限って前項の原則に対して取引保護の要請に基づく例外を認め,外国人である行為者がその本国法によれば無能力者であるときでも,日本法によれば能力者とされるときは,能力者とみなす旨の規定を置いている。もっとも,この例外は,外国にある不動産に関する法律行為については,認められない(法例3条3項)。なお,法例の解釈上,行為者の本国法の適用を受けるのは,未成年者の行為能力の問題に限られ,禁治産者・準禁治産者の行為能力の問題は法例4条・5条に従い宣告地法によらせている。また,妻の行為能力の問題は法例14条に従い,夫婦の本国法が同じときはその法律,そうでないときは常居所地法などによるものとする。
執筆者:早田 芳郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
単独で確定的に有効な法律行為(法律上権利を取得し義務を負担する行為)をすることのできる能力。このような能力を完全に有しない者を制限行為能力者(制限能力者)という。自然人はすべて権利能力を有するから、原則として、単独で確定的に有効な法律行為ができてもよさそうである。しかし、法律行為という制度は自由な意思に基づく法律関係の形成を保護する制度であるから、自ら有効な法律行為を行うためには、自分の意思を外部に発表してその結果を予測し判断する知的能力が必要である。このような知的能力を意思能力といい、幼児や重い精神的疾患の者のように意思能力を欠いた者の行為は無効とされる。
意思能力の有無は個別具体的に判断されるので、1999年改正前の民法では、知的能力を欠いているか、あるいは不十分な者を定型的に行為無能力者として保護を図る行為無能力者制度(禁治産・準禁治産制度)を設けていた。しかし、禁治産宣告を受けると戸籍簿に記載され社会的に負のイメージをもたれる、手続に費用と時間がかかり利用しにくい、後見人の権限濫用の危険が大きい、などさまざまな問題があった。そのため、1999年(平成11)12月に民法が改正され、判断能力を欠いている者、著しく不十分な者、あるいは不十分な者を制限能力者として、本人の自己決定権を尊重しつつ、成年後見人、保佐人あるいは補助人を選任して保護を図る制限能力者制度(成年後見制度)が導入された(2000年4月施行)。さらに、制限能力者の語は、2004年の改正により、制限行為能力者に改められた。
制限行為能力者とは、未成年者(民法5条以下)、成年被後見人(同法7条以下)、被保佐人(同法11条以下)、被補助人(同法15条以下)の四者をさす。未成年者、被保佐人、被補助人が法律行為をするには、それぞれ法定代理人(親権者など)、保佐人、補助人の同意が必要である。また成年被後見人は、日用品の購入その他日常生活に関する行為以外は、自ら法律行為をすることができず、これらの者がそれぞれ単独で法律行為をしてもあとから取り消すことができるものとされている。
[淡路剛久]
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