単独でできる法律行為が制限されている者をいう。近代私法のもとでは、すべての自然人が私法上の権利義務の主体となりうる。このような権利義務の主体となりうる地位ないし資格を権利能力という。しかし、権利能力があるからといって、すべての者が自ら有効に法律行為をなしうるとは限らない。すなわち、自分の行為の結果を判断することのできる精神的な判断能力(意思能力)をもたない者の行為は、法律上効力を生じないものとされる。しかし、判断能力のない者が保護を受けるために、いちいち、その能力がなかったことを証明するのはたいへんであり、また、それが証明されたときは、相手方は不測の損害を受けることになる。判断能力が弱い者についても同様の問題が生じる。
そのような場合に対処するため、1999年改正前の民法旧規定は、判断能力が欠けているか、あるいは低下した者を対象とした行為無能力者制度(禁治産・準禁治産制度)を設け、無能力者の行為は取り消しうるものと規定していた。しかし、この制度については、禁治産宣告を受けると戸籍簿に記載され社会的に負のイメージをもたれる、手続に費用と時間がかかる、後見人の権限濫用の危険が大きい、など利用しにくいさまざまな問題点があった。また高齢化社会への対応、障害者福祉の充実の観点から、自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション(高齢者や障害者を隔離するのではなく、ともに暮らす社会こそがノーマルだとする考え方)など新しい理念が登場し、従来の本人保護の理念との調和を図る必要が生じたため、1999年(平成11)に民法が改正され、新たに制限能力者制度(成年後見制度)が導入された。改正前の民法では、判断能力が低下した者は「無能力者」と表記されていたが、差別的な印象を与えるとして、新法条文では「制限能力者」という用語に改められ、さらに2004年の改正により「制限行為能力者」に改められた。制限行為能力者には、次の4つのケースがある。
(1)未成年者(従前と同様、満20年に達しない者。2022年〈令和4〉4月に民法で成年年齢が引き下げられて以降は「満18年に達しない者」)
(2)成年被後見人(改正前の民法での禁治産者に相当、精神上の障害により判断能力が欠ける者)
(3)被保佐人(改正前の民法での準禁治産者に相当、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者、新法では浪費者は対象外)
(4)被補助人(新法で新設、精神上の障害により判断能力が不十分な者)
未成年者が法律行為をなすには一定の場合を除いて法定代理人の同意が必要であり、同意のない行為は取り消すことができる(同法5条)。成年被後見人の法律行為については、成年後見人は取り消すことができる。ただし日用品の購入その他日常生活に関する行為については、成年被後見人の自己決定を尊重するため成年後見人の取消権の対象から除外されている(同法9条)。被保佐人の行為は、後記(1)~(9)の場合、保佐人の同意が必要であり、同意またはこれにかわる家庭裁判所の許可を得ていないものは取り消すことができるものとされている。(1)元本の領収、利用、(2)借財または保証、(3)不動産または重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、(4)訴訟行為、(5)贈与、和解、仲裁契約、(6)相続の承認・放棄、遺産の分割、(7)贈与・遺贈の拒絶、負担付きの贈与・遺贈の受諾、(8)新築、改築、増築または大修繕、(9)民法602条(短期賃貸借)に定めた期間を超える賃貸借をすること(同法13条)。被補助人の行為は、前記(1)~(9)の行為の一部(家庭裁判所の判断において必要性が認められたもの)に限り、補助人の同意を得ることを要し、同意またはこれにかわる家庭裁判所の許可のないものは取り消すことができるものとされている(同法17条)。
[淡路剛久]
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