半健康・半病気状態、あるいは健康と病気の中間の概念。約2000年前、中国・後漢時代の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』に「未病の時期に治すのが聖人(名医)」といった記述がある。江戸時代の貝原益軒(かいばらえきけん)の著『養生訓(ようじょうくん)』にも、病が未だ起こらない状態で、養生が必要だが、そのまま放置しておけば大病になると書かれている。
1995年(平成7)に設立された「日本未病システム学会」によると、「西洋医学的未病」と「東洋医学的未病」がある。前者は「自覚症状はないが、検査で異常が確認された状態」で、高血圧、高脂血症、高血糖、肥満、動脈硬化、骨粗鬆(こつそしょう)症、さらに2008年(平成20)から厚生労働省が保険者に特定健診の対象と義務づけた「メタボリック症候群」などがある。後者は「自覚症状はあるが、検査で異常がない状態」のことで、だるい、肩こり、冷え、のぼせ、疲れ、手足のしびれ、めまい、食欲がない、元気がない、など、何となく調子が悪い状態を意味する。漢方では、血液のよどんでいる状態を「瘀血(おけつ)」とよび、婦人病を始めとする多くの不調の原因とし、種々の漢方薬を処方するが、これも、この分類では未病になる。このように東洋医学、漢方では未病は治療対象である。一方、西洋医学的未病は、微細な生理的変化を検出する最新機器の登場でどんどん増える可能性があるが、確固とした治療法はない。
日本未病システム学会常任理事であり博慈会老人病研究所長でもある福生吉裕(ふくおよしひろ)によると、未病は、患者自身が自分で治せる段階の「未病1」と、医療支援が必要な「未病2」とに分けられる。疲労時には自ら休養し、食事や運動に留意をするセルフメディケーション中心の未病1に対し、2では、健康食品(サプリメント)や薬など医療関係者の支援が必要になる。同学会は1200人の会員がおり、すでに約50人が「未病医学認定医」になっている。
未病に対する国民の認識が広がり、生活習慣を改善するなどセルフメディケーションの普及につながることは好ましいが、一方、健康食品販売などの「未病産業」の発展につながるだけだとの批判的な意見も医療界の一部にはあるようである。
[田辺 功]
『日本未病システム学会編『未病医学入門――次世代の医学・医療がわかる』(2006・金芳堂)』▽『日本未病システム学会編『未病医学臨床――次世代の医学・医療がわかる』(2006・金芳堂)』▽『久保明著『アンチエイジング・未病医学検査テキスト』(2008・南江堂)』▽『橋本信也編『現代の養生訓――未病を治す』(2008・中央法規出版)』
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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