小説家。旧姓中条、本名ユリ。明治32年2月13日、東京小石川に著名な建築家中条精一郎の長女として生まれ、お茶の水高女を経て1916年(大正5)日本女子大学英文科予科に入学した。この年『貧しき人々の群』を『中央公論』に発表、女子大を中退して創作活動に専心、『日は輝けり』『一つの芽生え』『地は饒(ゆたか)なり』などを相次いで発表し、天才少女の評判を得た。1918年、父に伴われて渡米し、留学生活を送り、翌年ニューヨークで年長の東洋古代語研究者荒木茂と、父母や周囲の反対を押し切って結婚した。1919年末帰国、父母の家を出て夫婦だけの生活を始めるが、1924年に離婚し、ロシア文学者湯浅芳子(ゆあさよしこ)と共同生活を始める。離婚直後から、この間の経緯を小説として書き進め、『改造』に連載し、1928年(昭和3)単行本『伸子(のぶこ)』を刊行した。1927年12月湯浅とともにソ連に赴き、ソ連各地およびヨーロッパ各地を旅行した。1930年12月に帰国後、日本プロレタリア作家同盟に加入した。
1932年宮本顕治(けんじ)と結婚後まもなく、文化団体に対する弾圧のため検挙勾留され、顕治は地下活動に移った。以後、毎年長期間の検挙勾留を受ける生活が続き、1936年6月に治安維持法違反、懲役2年執行猶予4年の判決を受けた。この間に『冬を越す蕾(つぼみ)』(1934)などの評論や『小祝(こいわい)の一家』(1934)、『乳房』(1935)などを発表し、転向と後退が続く運動を支える役割を果たした。1937年末、執筆禁止となるが、1939年ごろから『明日への精神』(1940)、『文学の進路』(1941)などの評論、『杉垣(すぎがき)』(1939)、『三月の第四日曜』(1940)などの小説を精力的に書き続け、暗い時代の知的良心の灯(ともしび)となった。1941年12月に検挙投獄され、敗戦までまったく執筆の自由を失ったが、この間に獄中の夫に書き送った4000通に達する書簡は、戦時下知識人の精神の輝きを示している(のち『十二年の手紙』として刊行)。
戦後は民主主義文化・文学運動の先頭にたち、『播州平野(ばんしゅうへいや)』(1946~1947)、『二つの庭』(1947)、『道標』(1947~1950)などの小説のほか、『歌声よおこれ』(1946)以下多数の評論を発表した。昭和26年1月21日没。
[伊豆利彦]
『『宮本百合子全集』25巻・別巻2・補巻2(1979~1981・新日本出版社)』▽『本多秋五著『戦時戦後の先行者たち』(1963・晶文社)』▽『多喜二・百合子研究会編『宮本百合子』(1976・新日本出版社)』
大正・昭和期の小説家,評論家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
小説家。東京生れ。大正期の著名な建築家中条精一郎の娘。本名ユリ。日本女子大予科のとき《白樺》派風の人道主義的な中編《貧しき人々の群》(1916)を発表,天才少女として知られた。1918年からのアメリカ留学中,日本人で中年の古代イラン語学者と結婚,以来4年にわたる不幸な結婚生活を描いた長編《伸子》(1928)は近代日本文学の第一級の作品である。自由な人間の手ごたえを求めて,めげずに現実に立ち向かってゆき,それを切りぬけた場所でその全体験を自己に即してつぶさに描く,というのが特色で,それは戦後の《播州平野》(1947),《道標》(1950)等の主要作にも一貫している。27-30年湯浅芳子とソ連に留学,30年日本のプロレタリア文学運動に参加,その運動と共産党とが追いつめられるなかで32年党員宮本顕治と結婚,獄中の顕治を獄外から支えながらの,戦争下の卓抜した文学的抵抗,41年投獄,重病で出所後に敗戦を迎えて始まった多面的な活動,そして突然の病没--こうした波乱にみちた生涯のうちのかなりの部分が上記の小説その他に自身の手で描きだされている。
執筆者:小田切 秀雄
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1899.2.13~1951.1.21
大正・昭和期の小説家。建築家中条精一郎の長女。本名ユリ。東京都出身。日本女子大中退。在学中「貧しき人々の群(むれ)」(中条百合子名)で注目される。結婚に破れた顛末を「伸子(のぶこ)」に描く。ロシア文学者湯浅芳子の影響でマルクス主義に開眼,1931年(昭和6)共産党入党。翌年宮本顕治と再婚。第2次大戦中も非転向を貫き転向文学を批判。戦後は新日本文学会の中心メンバーとして活躍。「道標」発表後急逝。「宮本百合子全集」全33巻。
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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