枕中記(読み)チンチュウキ

デジタル大辞泉 「枕中記」の意味・読み・例文・類語

ちんちゅうき【枕中記】

中国伝奇小説。唐の沈既済の著。800年ごろ成立。邯鄲かんたんの青年盧生ろせいが、茶店道士から枕を借りて昼寝をし、自分生涯の夢を見て、栄達のはかなさを知る話。「邯鄲の枕」「黄梁こうりょう一炊の夢」の故事として知られる。

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精選版 日本国語大辞典 「枕中記」の意味・読み・例文・類語

ちんちゅうき【枕中記】

中国の伝奇小説。唐の沈既済撰。李泌撰と題するものもある。故事「邯鄲(かんたん)の枕」「一炊(いっすい)の夢」を題材にしたもので、盧生という若者が邯鄲の宿で呂翁という道士の枕を借りて眠り、夢の中で栄華一生を経験するが、それは黄粱さえ煮えあがらない短い間のことであった。後世文学の題材として好んで使われた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「枕中記」の意味・わかりやすい解説

枕中記
ちんちゅうき

中国、唐代の伝奇小説。沈既済(しんきせい)作。邯鄲(かんたん)(河北省)の農民の青年盧生(ろせい)は、いつも出世して農村を離れることを夢みていたが、あるとき茶店で会った仙人呂翁(りょおう)から陶器の枕(まくら)を借りて昼寝をする。その夢のなかで盧生は、名誉と恥辱困窮と栄達の間を浮き沈みする自分の生涯を見尽くし、覚めてみると、寝る前、宿の主人が炊いていた黍(きび)の飯がまだ煮えていない短い時間だった。盧生は世俗の栄達がいかにはかないものであるかを悟ったというもので、能『邯鄲』の原拠となった物語である。作者沈既済の生没年は不明であるが、唐の大暦(たいれき)・建中(766~783)のころの実力者楊炎(ようえん)に推挙されて歴史編纂(へんさん)官の地位についた人である。この小説は、六朝(りくちょう)の志怪書『幽明録(ゆうめいろく)』の焦湖廟(しょうこびょう)の柏枕(はくちん)の話の筋を借り、自分の体験をもとに、当時の官人の生きざまを著したものともいわれている。

[高橋 稔]

『前野直彬編・訳『中国古典大系24 六朝・唐・宋小説選』(1968・平凡社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「枕中記」の意味・わかりやすい解説

枕中記 (ちんちゅうき)
Zhěn zhōng jì

中国,唐代の小説名。沈既済(しんきせい)(8世紀後半ころ)の晩年の作。邯鄲(かんたん)の盧生(ろせい)は科挙試験に及第できないことを嘆いていると,道士呂翁から枕を授けられ,夢の中で立身出世し,節度使や宰相となって帝を補佐し,長寿を保って死ぬ。覚めてから出世欲のはかなさを悟るという筋。南朝宋の劉義慶撰の《幽明録》所収〈楊林〉の故事からヒントを得,時代背景を盛唐に改め,作者の人生観を託したもの。芥川竜之介の《黄粱夢》の典拠。中国の戯曲小説の題材となったほか,日本でも謡曲,黄表紙などに影響を与えた。成語の〈邯鄲の夢〉はこれに由来する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「枕中記」の意味・わかりやすい解説

枕中記
ちんちゅうき
Zhen-zhong-ji

中国,中唐の伝奇小説。沈既済 (しんきさい) の作。邯鄲 (かんたん。河北省) のある茶店で,呂翁という老人から青磁の枕を借りてひと休みした書生の盧生が,波乱に満ちた一生をおくる夢を見,さめてみれば,飯の炊きあがる間にも足りない短い時間の夢であったという物語。人の栄枯盛衰のはかなさをたとえる「邯鄲の夢」という言葉の起りであり,唐代伝奇小説の傑作として後世にも広く読まれ,明の湯顕祖の戯曲『邯鄲』をはじめ,日本の謡曲『邯鄲』など,この小説に基づいてつくられた文学作品も多い。

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世界大百科事典(旧版)内の枕中記の言及

【邯鄲】より

…楽には,屋台の上下を使い分けるなど特殊な工夫がある。この作品の典拠は中国唐代の《枕中記》。【横道 万里雄】。…

【枕】より

…彼は枕の裂け目から中に入り,高官の令嬢と結婚して立身栄達し,数十年後に目が覚めると夢であったという話がある。これが唐の李泌の小説《枕中記》で有名な邯鄲の盧生が黄粱一炊の夢を見る話の原拠で,枕が吉凶の夢の話に必要な道具であったことを物語っている。【沢田 瑞穂】。…

※「枕中記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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