中国、唐代の伝奇小説。沈既済(しんきせい)作。邯鄲(かんたん)(河北省)の農民の青年盧生(ろせい)は、いつも出世して農村を離れることを夢みていたが、あるとき茶店で会った仙人呂翁(りょおう)から陶器の枕(まくら)を借りて昼寝をする。その夢のなかで盧生は、名誉と恥辱、困窮と栄達の間を浮き沈みする自分の生涯を見尽くし、覚めてみると、寝る前、宿の主人が炊いていた黍(きび)の飯がまだ煮えていない短い時間だった。盧生は世俗の栄達がいかにはかないものであるかを悟ったというもので、能『邯鄲』の原拠となった物語である。作者沈既済の生没年は不明であるが、唐の大暦(たいれき)・建中(766~783)のころの実力者楊炎(ようえん)に推挙されて歴史編纂(へんさん)官の地位についた人である。この小説は、六朝(りくちょう)の志怪書『幽明録(ゆうめいろく)』の焦湖廟(しょうこびょう)の柏枕(はくちん)の話の筋を借り、自分の体験をもとに、当時の官人の生きざまを著したものともいわれている。
[高橋 稔]
『前野直彬編・訳『中国古典大系24 六朝・唐・宋小説選』(1968・平凡社)』
中国,唐代の小説名。沈既済(しんきせい)(8世紀後半ころ)の晩年の作。邯鄲(かんたん)の盧生(ろせい)は科挙試験に及第できないことを嘆いていると,道士呂翁から枕を授けられ,夢の中で立身出世し,節度使や宰相となって帝を補佐し,長寿を保って死ぬ。覚めてから出世欲のはかなさを悟るという筋。南朝宋の劉義慶撰の《幽明録》所収〈楊林〉の故事からヒントを得,時代背景を盛唐に改め,作者の人生観を託したもの。芥川竜之介の《黄粱夢》の典拠。中国の戯曲小説の題材となったほか,日本でも謡曲,黄表紙などに影響を与えた。成語の〈邯鄲の夢〉はこれに由来する。
執筆者:内山 知也
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…彼は枕の裂け目から中に入り,高官の令嬢と結婚して立身栄達し,数十年後に目が覚めると夢であったという話がある。これが唐の李泌の小説《枕中記》で有名な邯鄲の盧生が黄粱一炊の夢を見る話の原拠で,枕が吉凶の夢の話に必要な道具であったことを物語っている。【沢田 瑞穂】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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