日本大百科全書(ニッポニカ) 「林業労働者」の意味・わかりやすい解説
林業労働者
りんぎょうろうどうしゃ
林木の伐採・搬出、植林・保育など林業生産に従事する労働者をいう。わが国の「国勢調査」による林業就業者数(9月末の1週間に主として林業に従事した者の数)は、1960年(昭和35)の44万人から70年には21万人へと半減し、そして95年(平成7)には9万人へ減少している。高度経済成長期を通じて、山村の農民層の分解と労働力の都市への流出、とりわけ木炭生産の崩壊が急激な減少をもたらしてきた。林業就業者の雇用者率は8割と高く、雇用の通年化が進んでいるが、なお季節的・臨時的性格が強く、林業労働者数はきわめて流動的である。年間150日以上雇われて林業に従事した専業的林業労働者7万7000人(1990年「世界農林業センサス」)のうち、森林組合(作業班員)2万7000人、各種林業会社1万9000人、国有林(営林署=現、森林管理署作業員)1万3000人が、わが国林業労働者の三大集団である。しかし、これら専業的労働者よりも季節的、臨時的な林業労働者が多く、自家農業、土建日雇い、その他日雇いを含めて多就業的である。森林組合作業班員をみても年間150日未満就労者が1万3000人と多い(1997)。
[笠原義人]
林業労働者の労働条件
林業労働者の労働条件は、わが国の労働者のなかの最低水準を形成している。その特徴としては、林業(伐出、育林)資本の零細性、脆弱(ぜいじゃく)性に対応して次の5点があげられる。(1)季節的、臨時的に雇用され、その就業は不規則で非恒常的である。不完全で過少就労のためつねに季節的な失業状態に投げ込まれる。(2)雇用主の企業が零細であることに加えて労働の場が小規模零細に分散し、労働者も分散している。このことが林業労働者の団結と要求実現を困難にさせ、労働条件を低水準に固定させている。(3)賃金は日給または出来高制のもとで最低水準に抑えられ、長時間労働を強いられている。(4)林業労働災害の発生率は鉱業に次いで高く、今日ではチェーンソー、下刈機などによる振動障害(白蝋(はくろう)病など)も深刻な問題となっている。(5)林業労働者の社会保障制度は、国有林関係を除けば、未整備で無権利・無保障のままに置かれている。
[笠原義人]
林業労働組合
林業労働が他の第一次産業と異なる大きな特徴は、大規模な国家的林野所有を基盤とする国有林経営の存在である。国家的林業資本のもとで、国有林労働者は自らの労働諸条件を労働組合運動を通じて築き上げてきた。国有林労働者の労働組合組織率が90%を超えるのに対し、民間林業労働者(国有林からの下請を含む)はわずかに7%前後にすぎない(1997)。民間林業労働者と国有林労働者の賃金水準、社会保障などすべてにわたる大きな格差は、この組織率の差を反映している。民間林業労働者の労働組合には、国有林労働者が産業別組織化を目ざす一環として働きかけている全国山林労働組合と、農山村地域の林業・建設業・製造業など各種産業労働者を町村を単位に組織化する農村労働組合全国連合会(農村労連)とがあったが、1991年に農村労連は全日自労建設農林一般労働組合(現、全日本建設交運一般労働組合)へ統合している。
[笠原義人]
林業労働力の確保の促進に関する法律
1996年、林業労働問題に初めて総合的な取組みの方向を示す林業労働力の確保の促進に関する法律が制定された。林野庁と労働省(厚生労働省)が協力して、森林・林業政策、労働政策の両方の観点から、林業労働力確保のための施策を総合的に展開する。都道府県に林業労働力確保支援センターを設置し、支援体制を敷いている。
[笠原義人]
『山岡亮一・山崎武雄編『林業労働の研究』(1963・有斐閣)』▽『林業構造研究会編『日本経済と林業・山村問題』(1978・東京大学出版会)』▽『筒井迪夫編著『林政学』(1983・地球社)』▽『半田良一編『林政学』(1990・文永堂出版)』▽『船越昭治編著『森林・林業・山村問題研究入門』(1999・地球社)』