染む(読み)シム

デジタル大辞泉 「染む」の意味・読み・例文・類語

し・む【染む/×沁む/浸む/×滲む】

[動マ五(四)]
染みる」に同じ。「寒さが身に―・む」
「花の香は散りにし枝にとまらねどうつらむ袖にあさく―・まめや」〈梅枝
「吹きくる風も身に―・まず」〈平家・五〉
色などに染まる。
蓮葉はちすばのにごりに―・まぬ心もてなにかは露を玉とあざむく」〈古今・夏〉
深く心を寄せる。
我心ながら、いとかく人に―・む事はなきを」〈夕顔
[動マ上二]し(染)みる」の文語形
[動マ下二]し(染)める」の文語形。

そ・む【染む】

[動マ五(四)]
色が他のものについたり、しみ込んだりする。そまる。
「のび上がって、血に―・んだ太刀をふりかざした」〈芥川偸盗
他から影響・感化を受ける。そまる。
汚濁おじょくに―・んだ今の身の上を」〈宇野浩二・苦の世界〉
(現代語では、多く打消しの語を伴い)深く感じる。強く心がひきつけられる。「心に―・まない縁談」「意に―・まない仕事」
歓喜涙くわんぎなんだこぼれて渇仰肝に―・む」〈平家・七〉
病気になる。感染する。
「はかなくて病ひにさへ―・ませ給ふ由」〈読・雨月・木備津の釜〉
[動マ下二]そ(染)める」の文語形。

しゅ・む【染む】

[動マ四]《「しむ」の音変化》
しみる。刺激を受けて痛む。
朝嵐が身に―・んで、さうさうといたしたが」〈伎・伊賀越
盛んになる。佳境に入る。
「今宵ほどはなしの―・んだ事もなければ」〈浮・万金丹・三〉
陰気になる。沈んでくる。
「どうやらお座敷が―・んできたさかい」〈滑・膝栗毛・八〉
みすぼらしくなる。けちくさくなる。地味である。
「そないにあかじみた、―・んだなりしてぢゃさかい」〈滑・膝栗毛・八〉

じ・む【染む】

[接尾]じみる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「染む」の意味・読み・例文・類語

し・む【染・沁・浸・滲】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 マ行四段活用 〙
    1. ある色や濁りなどに染まる。
      1. [初出の実例]「引き攀(よ)ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入(こきれ)つ染(しま)ば染(しむ)とも」(出典万葉集(8C後)八・一六四四)
    2. 液体に十分ひたる。また、液体がぬれ通る。しみこむ。しみる。
      1. [初出の実例]「なかなかに人とあらずは酒壺に成りにてしかも酒に染(しみ)なむ」(出典:万葉集(8C後)三・三四三)
    3. におい、味などが深く入りこむ。また、よごれなどが付着してなかなかとれない状態になる。しみる。
      1. [初出の実例]「梅の花立ちよるばかりありしより人のとがむる香にぞしみぬる〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・三五)
    4. 深く心に感じる。しみじみと心にはいりこむ。しみる。
      1. [初出の実例]「心細さは、いと深うしみにければ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)浮舟)
    5. 強く心を寄せる。また、繰り返し行なって親しむ。
      1. [初出の実例]「我心ながら、いとかく人にしむ事はなきを、いかなる契にかはありけん」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
    6. 刺激がからだにこたえる。また、液体や塩分の刺激で痛みを覚える。しみる。
      1. [初出の実例]「暁に格子、妻戸をおしあけたれば、嵐のさと顔にしみたるこそ、いみじくをかしけれ」(出典:枕草子(10C終)一九八)
    7. なじみになる。ほれこむ。夢中になる。しみる。
      1. [初出の実例]「氏康にしみ、此君の用にたち、討死仕る命、少も惜からずと」(出典:甲陽軍鑑(17C初)品一三)
    8. しみじみと落ち着いた雰囲気(ふんいき)になる。その場にしっくり合う。
      1. [初出の実例]「管絃のよくしみぬるときは、心なき草木のなびける色までも、かれにしたがひてみえ侍なるやうに」(出典:古今著聞集(1254)五)
    9. 物事が佳境に入る。興が増す。また、うちとけてよい気分になる。しみる。
      1. [初出の実例]「連歌ひとをりかかせむとて発句せさせおはします。兵衛督殿ぞ書き給ひし。弁・少将ただ三人なればいとしまず」(出典:弁内侍日記(1278頃)建長四年七月二六日)
    10. 陰気になる。しんみりと沈みがちになる。
      1. [初出の実例]「すべて遊びといふときは、鬱散が第一なれば、何事もうちわすれて、さわぐのが茶屋のならひ、たいこもちもしまぬが上手」(出典:談義本・つれづれ睟か川(1783)四)
    11. 所帯持ちの苦労が身についたさまになる。所帯じみる。
      1. [初出の実例]「金より何より大切な、此子宝を育てるはいな。扨は子迄へり出したか。夫では彌(いよいよ)しまねばならぬ」(出典:浄瑠璃・いろは蔵三組盃(1773)八)
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 マ行上二段活用 〙しみる(染)
  3. [ 3 ] 〘 他動詞 マ行下二段活用 〙
    1. 色に染まるようにする。色をつける。
      1. [初出の実例]「秋山の黄葉(もみちば)自牟留(シムル)白露のいちじろきまで妹に会はぬかも」(出典:歌経標式(772))
    2. においなどを深く入り込ませる。
      1. [初出の実例]「香の紙のいみじうしめたる、にほひいとをかし」(出典:枕草子(10C終)三六)
    3. 深く心に感じさせる。十分わからせる。また、強く思う。
      1. [初出の実例]「昼はいと人しげく〈略〉心あわたたしければ、夜々なむ静かに事の心もしめ奉るべきとて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    4. (心を)対象に深く入れこむ。うちこむ。
      1. [初出の実例]「あぢなき事に心をしめて生ける限りこれを思ひなやむべきなめり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)

染むの補助注記

近世になると上一段活用の「しみる」が並用されるようになるが、連用形は四段活用と同形で区別しにくいので、近世の文語体の例は四段活用、口語体の例は上一段活用として扱った。


しゅ・む【染】

  1. 〘 自動詞 マ行四段活用 〙 ( 「しむ(染)」の変化した語 )
  2. ある色に染まる。
    1. [初出の実例]「しゅみました・けんぼうやの手はぬり杓子」(出典:雑俳・花笠(1705))
  3. 刺激がからだにつよく作用する。また、液体や塩分などの刺激で痛みを覚える。
    1. [初出の実例]「目にしゅむしゅむそれは目にしゅむ」(出典:雑俳・千枚分銅(1704))
  4. 物事が佳境に入る。興が増す。陽気でにぎやかになる。
    1. [初出の実例]「灯火はをのれを消し恋ごろも〈粛山〉 よ所にしゅんたる踊ゆかしき〈信徳〉」(出典:俳諧・雑談集(1692)下)
    2. 「二人の売女(おやま)が来た斗りに少し席(ざしき)がしゅむ物也」(出典:談義本・身体山吹色(1799)三)
  5. 陰気になる。しんみりと沈みがちになる。また、地味なさまになる。みすぼらしくなる。けちくさい感じになる。
    1. [初出の実例]「つい求(か)ふ肴でも、あれでやき物がいくつとれて、片身が取ざかな、骨つきを吸物と、あてはめた了簡もしゅんだものなり」(出典:洒落本・秘事真告(1757頃)堀江の相)
    2. 「どふやらおざしきがしゅんできたさかい、是からわっさりと額風呂へなりこみの」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)八)
  6. 所帯持ちの苦労が身についたさまになる。いかにも所帯持ちといった感じになる。所帯じみる。
    1. [初出の実例]「エエしゅんだものぢゃわい。〈略〉今この女のかざは、洗濯物の糊のかざで」(出典:歌舞伎・近江源氏𨉷講釈(1772)四)

そ・む【染】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 マ行四段活用 〙
    1. 他のものにしみ込んだり付着したりすることによって、色を出す。また、他のものがしみこんだり付着したりして、色が変わる。染まる。
      1. [初出の実例]「きみがさすみかさの山のもみぢばのいろ かみな月しぐれの雨のそめるなりけり〈紀貫之〉」(出典:古今和歌集(905‐914)雑体・一〇一〇)
    2. したしみ影響を受けて、それに感化される。ある風(ふう)に感染する。染まる。
      1. [初出の実例]「この世にそみたる程の、にごり深きにやあらむかし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
    3. 深く感じる。また、心にかなう。
      1. [初出の実例]「白雲はたちへだつれど紅のうす花桜こころにぞそむ〈藤原師実〉」(出典:詞花和歌集(1151頃)春・一九)
      2. 「心に染(ソマ)ぬ諂(へつら)ひも、主人を大事と存ずるから」(出典:浄瑠璃・仮名手本忠臣蔵(1748)九)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 マ行下二段活用 〙そめる(染)

じ・む【染】

  1. 〘 接尾語 〙 ( 四段型活用 ) =じみる(染)
    1. [初出の実例]「所帯じうで気がこうとうよい女房に」(出典:浄瑠璃・女殺油地獄(1721)上)

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