日本大百科全書(ニッポニカ) 「栄養診断」の意味・わかりやすい解説
栄養診断(作物)
えいようしんだん
農業において作物の生育状況の良否を、その栄養状態から評価、判定しようとする診断法のことをいう。作物の生育と収量は、作物の種類や品種などの遺伝的な要因と、土壌、気象、管理などの生育場所における環境条件の二つから決定される。そこで、作物ごとにその栄養生理的な特性に基づいて、これに気象、土壌などの自然的環境条件なども考慮しながら栽培を行うわけであるが、栄養診断は、収量、品質、安全性の面からもっとも適切な栄養状態をあらかじめ設定して、これに適合するよう施肥方法など具体的対策をたてるのに使用される。
栄養診断の方法は大きく分けて二つある。一つは栄養の過不足などを作物の外面に現れた種々の症候から判定する方法で、もう一つは植物体の養分を化学分析する方法である。葉の色は植物の栄養状態を反映することから、水稲や畑作物の栄養診断の指標としてよく用いられている。標準緑色との比較や、葉緑素吸光波長の吸光値、葉緑素の反射スペクトル強度から簡易に推定ができる。化学分析法は定量的な診断ができ正確であるが、装置と技術が必要であり、簡易ではない。ミカン、ナシ、ブドウなどおもな果樹について、窒素、リン、カリウム、マグネシウムなどの養分の欠乏、適量、過剰の判定含有率基準が決められている。野菜、水稲についても同様の基準が作成されている。
[小山雄生]
『作物分析法委員会編、農林省農林水産技術会議事務局監修『栄養診断のための栽培植物分析測定法』(1975・養賢堂)』▽『日本土壌肥料学会編、矢沢文雄他著『作物の栄養診断――理論と応用』(1984・博友社)』▽『植物栄養実験法編集委員会編『植物栄養実験法』(1990・博友社)』▽『藤原俊六郎・安西徹郎・加藤哲郎著『土壌診断の方法と活用――作物栄養診断・水質診断』(1996・農山漁村文化協会)』▽『植物栄養・肥料の事典編集委員会編『植物栄養・肥料の事典』(2002・朝倉書店)』
栄養診断(人間)
えいようしんだん
栄養ケアプロセス(NCP:Nutrition Care Process)の1段階として、対象者の栄養状態を診断すること。栄養ケアプロセスは、栄養管理における栄養状態の評価・判定の国際的に標準化された基準、ならびに栄養ケア提供の手法で、栄養アセスメント、栄養診断、栄養介入、栄養モニタリングおよび評価の4段階による栄養管理の手順が示されている。このうち栄養診断においては、患者やクライアントの栄養状態や栄養にかかわる問題および原因を把握する栄養アセスメントをもとに、栄養状態を診断して栄養上の改善すべき課題を明らかにし、次の栄養介入の段階につなげていく。
栄養診断では、NI(Nutrition Intake、摂取量)、NC(Nutrition Clinical、臨床栄養)、NB(Nutrition Behavioral/Environmental、行動と生活環境)の3領域70項目からなる国際標準化された栄養診断のコードのなかから、該当するものを選んで記載する。NIとは、経口や静脈栄養によって摂取するエネルギー・栄養素・水分・生物活性物質にかかわる問題を意味し、NCは、栄養代謝や身体状況にかかわる栄養の所見および問題、NBは、身体活動不足やセルフケア不足といった対象者の行動様式や信念および知識、生活環境、あるいは食の安全などにかかわる栄養の所見および問題を意味する。
また栄養診断は、「PES報告書」とよばれる簡潔な文章で記載する。PES(Problem Related to Etiology as Evidenced by Signs and Symptoms)とは、S(Signs and Symptoms、症状や徴候)を示す根拠に基づき、そのE(Etiology、原因)に関連したP(Problem、問題)を明らかにして、栄養状態を診断するという意味である。日本栄養士会では、さらに具体的で詳細な記載方法を提示している。
[編集部 2017年3月21日]