日本大百科全書(ニッポニカ) 「森林災害」の意味・わかりやすい解説
森林災害
しんりんさいがい
森林の火災、風害・水害・雪害・干害・凍害・潮害などの気象災、噴火災、地震・台風・豪雨による山崩れ、洪水、松くい虫やスギタマバエなどの虫害、ノネズミやカモシカなどの動物による食害などの総称。森林災害は自然災害であるとともに社会災害(人災)でもあることにも留意されなければならない。それは、近年自然災害が増幅されやすい環境になってきているからである。高度成長期以降の大面積皆伐、スギ、ヒノキ、カラマツの単純一斉造林、奥地林までの伐採や林道開設、林野の別荘地・ゴルフ場などへの乱開発などは、著しく地形、土壌条件、林相さらには生態系を変化させ不正常なものにしている。また他方、林業生産の後退や山村の過疎化によって森林が放置されたり、管理・看視体制が弱体化していることも被害を大きくする要因となっている。いわば自然災害と人災とが重なった複合災害としての様相を強めているのである。森林災害の大宗をなす気象災は、豪雨、豪雪、台風などの多発とも重なって、1980年(昭和55)、1981年、1993年(平成5)および2004~2006年の各年など、台風・大雨による被害が頻発している。被害対象地が20年生前後の造林木に多くみられることは、除・間伐の遅れ、手入れ不足など森林管理・林業経営上の問題点が重なっていることを示している。
松くい虫(マツノザイセンチュウ)を中心とした病虫害は、1979年をピークに減少傾向で推移しているものの、2010年時点の被害発生地域は北海道を除く46都府県に及んでいる。さらに近年、「ナラ枯れ病」(カシノナガキクイムシが樹体内にナラ菌をもち込むことによってナラ・カシ類が枯死する現象)が増加傾向にある。
森林動物による食害は1976年度をピークに減少しつつあるが、「特別天然記念物保護か森林保護か」で世論を二分する形となったものに、ニホンカモシカによる被害がある。被害が長野、岐阜、岩手の3県に集中しているのが特徴である。ニホンカモシカの生息数や生態も十分解明されないまま、麻酔銃使用による「個体調整」が認可されたことは、文化行政上大きな問題を残している。
森林災害に対する損害填補(てんぽ)制度には、火災、気象災、噴火災を対象とする森林国営保険と全国森林組合連合会が行う森林災害共済、および火災のみを対象とする民間の森林火災保険がある。これら制度への加入率は全般的に低いが、とくに20年生以上の中・高齢級の森林の加入率が低く、2009年度末時点での国営保険の加入者は森林所有者の13%にすぎない。松くい虫の被害に対しては1977年に「松くい虫防除特別措置法」が制定され、被害木の伐倒、破砕、焼却などに対する助成が行われている(1982年に「松くい虫被害対策特別措置法」として延長)。なお、空中からの薬剤散布については、人体や生態などへの影響も指摘されている。
[野口俊邦]