極相(読み)きょくそう

日本大百科全書(ニッポニカ)「極相」の解説

極相
きょくそう

極盛相、クライマックスともいう。遷移の結果到達する最後の段階となる群落のことで、遷移途上の不安定で変化する群落(途中相)とは異なり、安定し、極相構成種は個体群を更新、維持するので永続性がある。温度や水分条件が適当であれば、一般的には、極相は中生的な立地に成立する耐陰性のある樹木から構成される森林となる。極相では、植物現存量(植物群の量を重量ないしはエネルギー量で表したもの)はその土地での最大量に達し、生産量と呼吸による消費量とはつり合っている。食物連鎖は複雑で網目状になる。群落の階層構造(垂直的な配列状態)も4~5層に分化する。極相はその土地の気候条件下でもっとも適応的な生態系であるため、最終的に到達する極相は、土地によって特徴的な群落となる。これを気候的極相とよぶ。逆に、同じ気候条件下であれば、系統的に異なる植物群でも同じような相観を示すように進化する。世界の地中海式気候下でみられる小型で、葉の厚い硬葉樹林は、この典型的な例である。この現象を生態系の収斂(しゅうれん)とよぶ。極相群落の再生、維持はかならずしも平衡状態で連続的に行われているわけではなく、極相林林冠木(上部を構成する木)の寿命よりはずっと短い時間間隔でおこる攪乱(かくらん)要因によって林の一部が破壊され、その部分の好転した光条件下でのみ再生が可能になるということが明らかになっている。

 極相に関してはクレメンツの気候的極相だけを認める単極相説、タンスレーA. G. Tansley(1871―1955)の気候以外の条件、たとえば土壌条件、地形条件などにより規定される極相も認める多極相説、ホイッタカーR. H. Whittaker(1920―1980)のいろいろな群落が複合したパターンそのものが極相であるとする極相パターンなどがある。それぞれ一理はあるが、遷移の過程を群落の発達モデルと考えれば、単極相説がすっきりとしている。

[大澤雅彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「極相」の解説

極相
きょくそう
climax

植物の群落が生育するにつれて構成員が遷移し,最後にその地点における生態的条件に最適の植物種が優占種となり,安定した群落がつくられるにいたった状態。安定期ともいう。極相の状態で,中心となる樹木を極相種と呼び,その森林を極相林と呼ぶ。通常,極相林は陰樹林(→陰樹)となることが多い。極相林内で老木が枯れたり,強風によって木が倒れたりすると,林冠にすきまが生じる。そのすきまをギャップという。ギャップから日光が差し込むことで,陰樹林の中で,部分的に陽樹が育つ。気候条件が同じなら必ず同一の極相へと収束するという単極相説と,気候条件が同じでも,たとえば土壌条件などの違いによっていくつかの異なる極相がありうるとする多極相説がある。

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精選版 日本国語大辞典「極相」の解説

きょく‐そう ‥サウ【極相】

〘名〙 生物学で、ある生態系がその生育圏の環境に対応して、構成員の交代をしないで、長期間安定した状態を維持する場合をいう。生物遷移の最終段階に相当し、生育圏の物理的・化学的・生物学的環境要因に変化が無ければ、新しい構成員の侵入・定着を許さない。クライマックス。
※ニューギニア高地人(1964)〈本多勝一〉アヤニ族とナッソウ山脈横断の旅へ「ここはもちろん極相の原始林だが」

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世界大百科事典 第2版「極相」の解説

きょくそう【極相 climax】

遷移の最終相。ある一定の地域において自然状態で長期間安定な生物群集のこと。とくに植物群落についていう。極相がどのようにして決まるかについては次のような説がある。(1)単極相説 ある地域で実際にみられる植生は出発点や遷移段階が異なる植物群落からなり多様であっても,その地域での植生の遷移は最終的にはその地域の大気候によって決定される気候極相climatic climaxに収束するという考え。アメリカのF.E.クレメンツによって体系化された。

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世界大百科事典内の極相の言及

【クライマックス】より

…今日ではひろく連続的に進行する経過における最高潮や頂点をさす一般用語。原語は〈傾ける〉という動詞に由来するギリシア語klimax(〈はしご〉の意)である。ギリシア・ローマの弁論術において修辞法の一つをさした。すなわち,最初は意義の小さな事柄からしだいに大きな事柄へ,弱々しい言葉からしだいに力強い言葉へとはこんでゆく漸増法のことである。文芸用語としては,小説の物語や劇の事件がさまざまな葛藤を展開させて,ついに絶頂にいたり,あとは解決もしくは転落しかないという構成上の分岐点を意味している。…

【生態系】より

…一般に生態系は,裸地に植物が進入し群落を形成し,最終的には安定な森林を形成するというような成長段階を経てある種の安定な動的平衡状態に達する。この状態を極相(クライマックスclimax)という。オダムは生態系の遷移におけるさまざまな属性の変化を表のようにまとめた。…

【遷移】より

…ある一定の場所で,生物群集の構成が一つの方向に向かって移り変わっていく現象。遷移の最終段階は極相climaxで,極相に到達すると遷移は停止し,生物群集は安定する。普通は植生の変化を意味するが,動物群集や生態系の変化を含めることもある。…

【植物群落】より

…自然群落では純群落は少なくこの法則はそのままは成り立ちにくいが,間引きによる密度の調整が,種による生長速度・耐陰性の差,林冠に存在する空所の存在などとも作用しあって,階層構造などの群落構造をつくり上げている。 自然状態で安定な植物群落を極相という。湿潤な日本の極相は森林であり,昔から手つかずで残されてきた極相の森林を原生林(原始林),雑木林のように人手が加わってできた森林を二次林,造林された林を人工林という。…

【森林】より

…その後,コジイ,コナラ,ミズナラなどが成立し,逐次,陰性樹種に交代して,最終的にはそれぞれの森林帯に応じた安定した林となる。これを極相という。このように新しい土地に植物群落が成立し,安定した極相に至る過程を一次遷移primary successionという。…

【生態系】より

…すなわちバイオームは生まれ,成長し,成熟し,そして死ぬとし,群集有機体論を展開した。このクレメンツらの考え方は生態遷移の〈単極相説〉と呼ばれているが,タンズリーをはじめとするヨーロッパの研究者たちは幾多の事実を挙げ反論した。タンズリーは植物群落が気候,土壌,草食動物などの要因により異なった極相に達するとし〈多極相説〉を主張し,クレメンツらのバイオームと非生物的環境との作り上げる系を〈生態系(エコシステム)〉と呼ぶことを提案した。…

【遷移】より

…ある一定の場所で,生物群集の構成が一つの方向に向かって移り変わっていく現象。遷移の最終段階は極相climaxで,極相に到達すると遷移は停止し,生物群集は安定する。普通は植生の変化を意味するが,動物群集や生態系の変化を含めることもある。…

※「極相」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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