翻訳|climax
遷移の最終相。ある一定の地域において自然状態で長期間安定な生物群集のこと。とくに植物群落についていう。極相がどのようにして決まるかについては次のような説がある。
(1)単極相説 ある地域で実際にみられる植生は出発点や遷移段階が異なる植物群落からなり多様であっても,その地域での植生の遷移は最終的にはその地域の大気候によって決定される気候極相climatic climaxに収束するという考え。アメリカのF.E.クレメンツによって体系化された。日本では裸地・耕地・草原・二次林・人工林などの土地が現在大面積を占めているが,単極相説では,もし自然のまま放置すれば降水量の多い日本では森林が成立し,温帯なら気候極相としての落葉広葉樹林のブナ林にいずれはすべてが移り変わると考える。この説では,安定性と永続性を示し見かけ上は極相であるが,気候極相ではない植物群落は,土壌・人為などのさまざまな原因で遷移が停止しているのであり,その原因がなくなれば再び遷移が進行して極相に収束するものと考え,準極相subclimaxと呼ぶ。
(2)多極相説 単極相説を批判し,同じ大気候の地域には気候以外の土壌・地形・基岩などの環境条件の違いに対応して気候極相だけでなく他の安定した複数の極相がモザイク的に存在すると考えるもので,イギリスのタンズリーA.G.Tansleyに代表される。多極相説では,日本の温帯の乾燥した尾根のアカマツ林や多湿な沢沿いのサワグルミ林などをそれぞれ自然状態で安定した植物群落と考え,気候極相のブナ林以外の極相を認める。
(3)極相パターン説 植物群落は環境傾度に沿って連続的に変化し,立地条件によってその性質が決定される。したがって極相は多様であるがモザイク的ではなく,環境傾度の変化のパターンに対応したパターンを全体として示すにすぎず,どの極相も相対的であるという考え。植物群落の単位性を認めない植生連続説に基づいて,前記2説を批判するものとして,アメリカのホイッタカーR.H.Whittakerによって打ち立てられた。日本の温帯の尾根のアカマツ林と山腹のブナ林を考えると,極相パターン説では,優占種のアカマツとブナや他の構成種は,尾根から山腹へという環境傾度の中でそれぞれ山型の分布をしながら互いに広い範囲で重なり合い,全体として二つの傾向を示してもその間に切れ目はなく,漸次移行すると考える。
具体的に極相を解釈する際にはこれらの極相説のあいだには基本的な差はない。例えば,日本の温帯の尾根のアカマツ林は,気候極相の山腹のブナ林より前の段階で遷移が停止しているにすぎないとみなせば,単極相説における一つの準極相と呼ぶことができ,極相ではないが,安定を続けるとみなせば,多極相説における地形極相topographic climaxということになる。これは遷移に要する時間,すなわち極相の安定性に対する考え方の差にすぎない。共通の大気候のもとでは場所が異なっても相観・構造,さらに同じ植物区系であれば種組成も原則的に共通である。実際には複雑な特定地域での植物群落を遷移の立場から統一的に把握し,その地域の気候を反映した優勢な群落である気候極相をとりあげる単極相説の考え方によって,植生と環境を関連づけた広域的な比較が可能になった。しかし,同じ大気候の地域でも,山の尾根と谷,南斜面と北斜面,基岩の違いなどのように立地条件が異なれば異なった植物群落が発達し,それぞれは安定しているとみなせるのが実際の植物群落の姿である。多極相説と極相パターン説の差は,植物群落をまとまりをもった実体と考えるか,連続して変化する種個体群の総体と考えるかの違いにある。極相パターン説の考え方によって,傾度分析などの方法を用いての環境と植物群落の型や性質との対応関係の解析が進んだ。
極相の特徴は植物群落の安定性にあるが,その安定性は静止的で不変なものではなく,動的平衡とか定常状態を意味し,再生をくり返しながらの自己永続性といえる。老齢や食害・風害などにより極相林の林冠を形成する高木が枯れて連続した林冠に欠所ができると,次世代の林冠木が新たに生長して欠所を埋めるという部分的な再生をくり返しながら極相林が維持されていることはよく知られている。極相林が,ある一定の場所では周期的に再生をくり返し,ある時点の空間的広がりにおいては再生段階の異なる相が不規則なモザイクをなしているという考えが出され,輪回説とかモザイク再生説とかよばれている。極相林の再生パターンは極相林の種類によって異なり,林冠欠所のできる頻度・大きさ・立枯れか根がえり倒木かという枯れる林冠木の林床への影響・林床の明るくなる速度,林冠欠所を埋める樹木の母樹の分布・種子散布・埋土種子寿命・芽生えの耐陰性と生長速度・前生稚樹の大きさと密度,林冠欠所部林床での低木密度,上層木の樹冠の下には同一種の下層木は少ないという上層木と下層木の関係などによって規定されている。
日本の代表的な極相林について知られていることを少しあげれば,亜高山帯針葉樹林のシラビソ-オオシラビソ林では,陽樹の落葉広葉樹であるダケカンバが介在するダケカンバ型とシラビソを主とする針葉樹だけの縞枯れ型があり,林冠欠所形成時には,欠所が急激に広がればダケカンバが,徐々に広がれば耐陰性のある針葉樹が定着・生長するという林冠欠所のでき方と林冠構成木の性質との関連がみられる。温帯林のブナ林では,陽樹的性質をもったブナの前生稚樹は少なく,林冠欠所で芽生えから再生するというモザイク再生パターンをとるが,欧米と違って林床のササの存在の影響を考える必要がある。暖帯の常緑広葉樹林である照葉樹林では,林冠欠所で陽樹の落葉広葉樹の介在のみられることもあるが,耐陰性のある照葉樹の稚樹が林冠下で徐々に生長し,林冠に欠所ができれば短期間に埋めてしまうという陽樹の介在しない再生もみられる。
→遷移
執筆者:藤田 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
極盛相、クライマックスともいう。遷移の結果到達する最後の段階となる群落のことで、遷移途上の不安定で変化する群落(途中相)とは異なり、安定し、極相構成種は個体群を更新、維持するので永続性がある。温度や水分条件が適当であれば、一般的には、極相は中生的な立地に成立する耐陰性のある樹木から構成される森林となる。極相では、植物現存量(植物群の量を重量ないしはエネルギー量で表したもの)はその土地での最大量に達し、生産量と呼吸による消費量とはつり合っている。食物連鎖は複雑で網目状になる。群落の階層構造(垂直的な配列状態)も4~5層に分化する。極相はその土地の気候条件下でもっとも適応的な生態系であるため、最終的に到達する極相は、土地によって特徴的な群落となる。これを気候的極相とよぶ。逆に、同じ気候条件下であれば、系統的に異なる植物群でも同じような相観を示すように進化する。世界の地中海式気候下でみられる小型で、葉の厚い硬葉樹林は、この典型的な例である。この現象を生態系の収斂(しゅうれん)とよぶ。極相群落の再生、維持はかならずしも平衡状態で連続的に行われているわけではなく、極相林の林冠木(上部を構成する木)の寿命よりはずっと短い時間間隔でおこる攪乱(かくらん)要因によって林の一部が破壊され、その部分の好転した光条件下でのみ再生が可能になるということが明らかになっている。
極相に関してはクレメンツの気候的極相だけを認める単極相説、タンスレーA. G. Tansley(1871―1955)の気候以外の条件、たとえば土壌条件、地形条件などにより規定される極相も認める多極相説、ホイッタカーR. H. Whittaker(1920―1980)のいろいろな群落が複合したパターンそのものが極相であるとする極相パターン説などがある。それぞれ一理はあるが、遷移の過程を群落の発達モデルと考えれば、単極相説がすっきりとしている。
[大澤雅彦]
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…今日ではひろく連続的に進行する経過における最高潮や頂点をさす一般用語。原語は〈傾ける〉という動詞に由来するギリシア語klimax(〈はしご〉の意)である。ギリシア・ローマの弁論術において修辞法の一つをさした。すなわち,最初は意義の小さな事柄からしだいに大きな事柄へ,弱々しい言葉からしだいに力強い言葉へとはこんでゆく漸増法のことである。文芸用語としては,小説の物語や劇の事件がさまざまな葛藤を展開させて,ついに絶頂にいたり,あとは解決もしくは転落しかないという構成上の分岐点を意味している。…
…一般に生態系は,裸地に植物が進入し群落を形成し,最終的には安定な森林を形成するというような成長段階を経てある種の安定な動的平衡状態に達する。この状態を極相(クライマックスclimax)という。オダムは生態系の遷移におけるさまざまな属性の変化を表のようにまとめた。…
…ある一定の場所で,生物群集の構成が一つの方向に向かって移り変わっていく現象。遷移の最終段階は極相climaxで,極相に到達すると遷移は停止し,生物群集は安定する。普通は植生の変化を意味するが,動物群集や生態系の変化を含めることもある。…
…自然群落では純群落は少なくこの法則はそのままは成り立ちにくいが,間引きによる密度の調整が,種による生長速度・耐陰性の差,林冠に存在する空所の存在などとも作用しあって,階層構造などの群落構造をつくり上げている。 自然状態で安定な植物群落を極相という。湿潤な日本の極相は森林であり,昔から手つかずで残されてきた極相の森林を原生林(原始林),雑木林のように人手が加わってできた森林を二次林,造林された林を人工林という。…
…その後,コジイ,コナラ,ミズナラなどが成立し,逐次,陰性樹種に交代して,最終的にはそれぞれの森林帯に応じた安定した林となる。これを極相という。このように新しい土地に植物群落が成立し,安定した極相に至る過程を一次遷移primary successionという。…
…すなわちバイオームは生まれ,成長し,成熟し,そして死ぬとし,群集有機体論を展開した。このクレメンツらの考え方は生態遷移の〈単極相説〉と呼ばれているが,タンズリーをはじめとするヨーロッパの研究者たちは幾多の事実を挙げ反論した。タンズリーは植物群落が気候,土壌,草食動物などの要因により異なった極相に達するとし〈多極相説〉を主張し,クレメンツらのバイオームと非生物的環境との作り上げる系を〈生態系(エコシステム)〉と呼ぶことを提案した。…
…ある一定の場所で,生物群集の構成が一つの方向に向かって移り変わっていく現象。遷移の最終段階は極相climaxで,極相に到達すると遷移は停止し,生物群集は安定する。普通は植生の変化を意味するが,動物群集や生態系の変化を含めることもある。…
※「極相」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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