天智天皇七年、新羅の僧道行が草薙剣を盗み出すという事件があり(日本書紀)、その後宝剣は宮中に安置されたが、朱鳥元年(六八六)天武天皇の病を占ったところ、草薙剣の祟りであるということになり、即日、熱田社に送り返された(同書)。しかし三種神器の一を祀る神社でありながら、朝廷の奉幣がなかったので、斎部広成は「古語拾遺」のなかで、「その草薙剣は、今尾張国熱田の社に在すに、未だ礼典を叙でず。然れば則ち、幣を奉る日、同しく敬を致すべし。しかるを久代より闕如てその礼を修めざるは遺てる所の一なり」と、このことを失典の第一にあげて非難した。弘仁一三年(八二二)熱田の神に従四位下を授けられ、以後、累進して康保三年(九六六)までに正一位に昇っている(日本紀略)。
「延喜式」神名帳には「熱田神社名神大」とあり、当社関係の神社として、
当社は尾張氏の奉斎する神社として、その祀職も同族のなかから採用され、長官である大宮司の威勢は国司にもまさると「宇治拾遺物語」に記されている。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
愛知県名古屋市熱田区(《和名抄》の尾張国愛智郡厚田郷)に鎮座し,神体として,三種の神器の一つである草薙剣(くさなぎのつるぎ)をまつる旧官幣大社。相殿に,天照大神(あまてらすおおかみ),素戔嗚(すさのお)尊,日本武(やまとたける)尊,宮簀媛(みやずひめ)命,建稲種(たけいなだね)命(宮簀媛の兄)を配祀する。《古事記》《日本書紀》などによると,日本武尊は東征にさいし,伊勢で斎宮の倭姫(やまとひめ)から神宮に奉安されていた神剣をさずけられ,蝦夷平定に功をたてた。その帰途,尾張国造のもとに立ち寄り,宮簀媛を妃とし,神剣をそのもとにおいて近江に出かけ,病没したので,媛はこの剣を納めるため社をたてた。これが当社の起源であるという。確実な史料としては,668年(天智7),新羅の沙門の道行というものが,ひそかに神剣を盗み帰国しようとしたが,風波に吹きかえされたとあり,それより神剣は皇居にとどめられることになったが,686年(朱鳥1),天武天皇の病にさいし,神剣のたたりによるものといわれたので,ふたたび熱田に送りかえしたとある《日本書紀》の記事である。その後,奈良時代には目だった記事はなく,社格も低かったが,807年(大同2)に,斎部広成が当社を例幣にあずからしめるよう請い,822年(弘仁13),従四位下を授けられ,859年(貞観1)正二位,そののちついに正一位に昇叙された。《延喜式》神名帳には,名神大社とある。この間,神封をよせられ,仁明天皇以後歴代によって神田も寄進された。神社はもともと尾張国造の尾張氏が神主・祝をつとめたが,平安末に大宮司が藤原氏にうつり,源頼朝は,その母が熱田大宮司藤原季範の女であったから,当社を外戚神として敬い,建武中興では,さらに官社に列せられ,朝廷の宗祀となり発展した。中世において,神領は増加し,おもな年次だけでも,1238年(暦仁1),75年(建治1),1337年(延元2・建武4),54年(正平9・文和3)と,その増加が記録され,すでに正安(1299-1302)ごろに,係争のある社領だけでも2644町に達している。神領は尾張国一円におよび,美濃羽島郡にも達している。
こののち,足利義持,織田信長,豊臣秀吉,徳川家康らが社殿の修復をおこない,江戸時代には,尾張藩主徳川氏がそれをつかさどった。ただし神領は,秀吉のため一時没収され,江戸幕府によって御朱印地700余石が寄進された。1868年(明治1),社号が熱田神社から熱田神宮に改められ,王政復古と即位を奉告する奉幣使が遣わされたが,これは伊勢と熱田の2社のみであった。71年,官幣大社に列せられ,93年,社殿を改造し,それまでの尾張造といわれた様式から,伊勢とおなじ神明造に改められた。1935年,本宮をはじめ別宮・末社にいたるまでの大修理が完成したが,45年,大半が戦災によって焼失した。現在の社殿はその後の再興によるものである。
例祭は,もとは6月21日に行われたが,最近6月5日に改められ,熱田祭の名でよばれる。おもな特殊神事は,踏歌(とうか)神事(1月11日),歩射(ぶしや)神事(1月15日),酔笑人(えようど)神事(5月4日),御田植神事(6月18日)などで,別宮に,八剣宮,摂社に一之御前神社をはじめ13社がある。もっとも古い縁起として《熱田宮寛平縁起》があるが,これは鎌倉初期にまとめられたものであろう。
執筆者:平野 邦雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
愛知県名古屋市熱田区神宮に鎮座。三種の神器の一つ草薙剣(くさなぎのつるぎ)(天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ))を御霊代(みたましろ)として熱田大神(おおかみ)を祀(まつ)り、相殿(あいどの)に天照大神(あまてらすおおみかみ)、素盞嗚尊(すさのおのみこと)、日本武尊(やまとたけるのみこと)、宮簀媛命(みやずひめのみこと)、建稲種命(たけいなだねのみこと)を祀る。草薙剣は素盞嗚尊が八岐大蛇(やまたのおろち)退治のとき得て、天照大神に献じたが、大神が天孫降臨のとき、八咫鏡(やたのかがみ)、八坂瓊曲玉(やさかにのまがたま)とともに瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に授け、のち八咫鏡とともに伊勢の神宮に祀られていたが、景行(けいこう)天皇の代、東国平定に向かう途中立ち寄った日本武尊に倭姫命(やまとひめのみこと)が神託を受けて授けた。日本武尊は、駿河(するが)(静岡県)で賊が野に火を放って攻めたとき、この剣で草を薙(な)ぎ難を逃れた。のち東国平定の帰途、尾張(おわり)(愛知県)国造(くにのみやつこ)の館にとどまり、その娘宮簀媛命を妃(きさき)としたが、伊吹山(いぶきやま)の賊を平定に行くときこの剣を館に置いて行き、途中病で亡くなった。そこで宮簀媛命は占いによって社地を吾湯市(あゆち)の熱田に定め、この剣を祀ったのが本社の起源である。
斎部広成(いんべのひろなり)は『古語拾遺(しゅうい)』で律令(りつりょう)体制の初期、本社に対する待遇が十分でないことを指摘したが、その後、822年(弘仁13)従(じゅ)四位下、859年(貞観1)正二位、延喜(えんぎ)の制で名神大社となり、特別に崇敬された。平安末期には広大な社領、荘園(しょうえん)をもったが、鎌倉時代に入り、源頼朝(よりとも)は、その母が大宮司季範(すえのり)の娘であることもあり、とくに保護し、崇敬した。以後、武将の崇敬が続き、江戸時代には徳川氏は御供料405石、大宮司料717石を寄せた。1868年(明治1)それまでの熱田神社の社号を熱田神宮と改めて宣下(せんげ)され、王政復古の由奉告(よしのほうこく)と、即位由奉幣使(よしのほうべいし)が伊勢(いせ)神宮とともに遣わされ、1871年に官幣大社となった。1893年、東の土用殿(どようでん)に神剣、西の正殿に5座の神を奉斎(ほうさい)していた従来の形式(尾張造)を改め、本殿を一つとし、現在のような伊勢神宮と同じ神明造とした。第二次世界大戦で罹災(りさい)、現本殿は1955年(昭和30)の改築。もと尾張氏が奉仕、平安末期にその外孫筋の藤原氏にかわり、明治初年まで続いていた。6月5日の例祭(熱田祭)ほか、踏歌(とうか)神事(1月11日)、歩射(ほしゃ)神事(1月15日)、舞楽(ぶがく)神事(5月1日)、御衣(おんぞ)祭(5月13日)など古例の神事が多い。また国宝、重要文化財の宝物も多い。
[鎌田純一]
『篠田康雄著『熱田神宮』(1968・学生社)』▽『『熱田神宮史料』(1971~1980・熱田神宮宮庁)』
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名古屋市熱田区神宮に鎮座。式内社・尾張国三宮。旧官幣大社。祭神は熱田大神,相殿に天照(あまてらす)大神・素盞嗚(すさのお)尊・日本武(やまとたける)尊・宮簀媛(みやずひめ)命・建稲種(たけいなだね)命を配祀。三種の神器の一つ草薙(くさなぎ)剣を祭る。日本武尊の妃,尾張国造の女宮簀媛命が,尊の死後,社をたてて草薙剣を祭ったのが起源とされる。平安末期まで尾張氏の一族が祀官を世襲。源頼朝は,母が大宮司藤原季範の女であったことから当社を「外戚之祖神」として崇敬し,鶴岡八幡宮に熱田社を勧請した。後醍醐天皇は建武の新政に際して当社を官社に列し,足利・豊臣・織田・徳川の諸氏は社殿の造営・修造を行った。1686年(貞享3)5代将軍徳川綱吉の行った修復・遷宮はとくに大規模なものであった。建築様式は,本殿と神剣を祭る土用殿が並立する尾張造だったが,1893年(明治26)伊勢神宮とほぼ同様の神明造に改められた。例祭は6月5日。
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出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域遺産」事典 日本の地域遺産について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
…以後尾張氏とともに発展し,847年(承和14)従五位下,851年(仁寿1)官社に列せられ,865年(貞観7)正四位上,延喜の制で名神大社,のち尾張国一宮とされた。中世武家が崇敬,熱田神宮の造替にあたり,まず当社を造替する例をもった。近世には朱印領336石6斗。…
※「熱田神宮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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