石炭酸樹脂ともよばれ、フェノール類(主としてフェノールとクレゾール)とホルムアルデヒドとの反応によって生成する熱硬化性樹脂であり、合成樹脂(プラスチック)のうちでもっとも古いものである。
[垣内 弘]
1907年7月にアメリカのベークランド(ベルギー生まれ)がフェノールとホルムアルデヒドによる合成樹脂の成形法について有名な「加熱と加圧」方法特許を申請した。この技術によって最初の完全な合成高分子材料として幅広く応用することが可能となった。彼が商品名として「ベークライト」Bakeliteを登録し、この名称はいまでも使われている。現在では新しい合成高分子材料が非常に伸びてきているが、1980年ごろまではこの樹脂が多量に生産されていた。いま身近に目にするフェノール樹脂製品は黒色のソケット、スイッチなどの配線器具、お椀(わん)のような食器などだが、そのほかに接着剤、積層板、砥石(といし)用樹脂、シェルモールド用樹脂(鋳造工業に用いられる)やブレーキ用樹脂として多量に消費されている。1990年代以降は、ガラス繊維や電子材料として多量に使われている。その生産量は、年産24.2万トン(2002)である。
[垣内 弘]
フェノール類とホルムアルデヒドを加熱して低分子量(分子量1000以下)の粉末または粘い液体の初期反応物をつくり、必要に応じてパルプや木粉などのフィラー(充填(じゅうてん)材、filler)を加えて十分に混合したのち、型の中で加熱硬化させる。フェノールとホルムアルデヒド(ホルムアルデヒドの水溶液すなわちホルマリンを使用する)との反応は、反応系が酸性か塩基性(アルカリ性)かによって初期反応生成物が異なる。
反応系が酸性の場合、初期反応生成物の一つであるノボラックnovolakは、ヘキサメチレンテトラミン(HMTA)を架橋剤として、ノボラックに対して10%ぐらい添加し、フィラーとして木粉やパルプ粉末を混練して150~160℃の加熱・加圧下で硬化させる。HMTAは115℃以上で熱分解してホルムアルデヒドとアンモニアになる。このホルムアルデヒドがノボラックを架橋し網状構造の硬化物を与える(二段法)。反応系が塩基性の場合の、初期生成物として得られるレゾールresol(ベークライトAともいう)の硬化は、架橋剤を必要とせず、多くは先述のフィラーの存在下で一段で130~200℃の加熱・加圧で硬化する。ガラスフェノール樹脂積層板にはレゾールを用いる。
[垣内 弘]
『工業調査会編・刊『プラスチック技術全書15 フェノール樹脂』(1971)』▽『村山新一著『プラスチック材料講座 フェノール樹脂』(1978・日刊工業新聞社)』▽『本山卓彦・永田宏二著『接着剤』(1988・工業調査会)』▽『梶原鳴雪監修『無機・有機ハイブリッド材料の開発と応用』(2000・シーエムシー)』▽『松本明博著『フェノール樹脂の合成・硬化・強靭化および応用』(2000・アイピーシー)』
フェノール類(フェノール,クレゾール,キシレノールなど)とホルムアルデヒドとの縮合反応によって得られる熱硬化性樹脂。フェノール・ホルマリン樹脂,石炭酸樹脂ともいう。1907年アメリカのL.H.ベークランドによって発明された最も古い合成樹脂で,09年にベークライトbakeliteの名で商品化された。
フェノール樹脂はその製法によって次の2種類にわかれる。(1)フェノールを酸触媒のもとでホルムアルデヒドと反応させ,フェノールが若干個縮合した熱可塑性,溶剤可溶の樹脂(ノボラックnovolacという)をまずつくる。次いでこの樹脂に,パルプ,木粉などの充てん(塡)剤,ヘキサメチレンテトラミン(加熱によりホルムアルデヒドを発生する)などの縮合剤,その他触媒,着色剤,変性剤などを加え,混合,加熱硬化させて成形品とする(図)。(2)フェノールとホルムアルデヒドをアルカリ触媒のもとで反応させると縮合反応がどんどん進み,最終的に不溶不融の樹脂となるが,その初期段階の,アルコールに可溶の状態でまず反応を止める。このときに得られる水あめ状の樹脂(レゾールresolという)をアルコールに溶かし,紙,布などに含浸させ,加熱して硬化させる。
フェノール樹脂は非常に古い樹脂であるが,耐絶縁性,難燃性,機械強度にすぐれ,かつ安価であるので,現在でも電気用途(ソケット,コネクター,基板,ハウジングなど)を中心に広く用いられている。そのほか,接着性が高いため,合板用接着剤あるいは鋳物砂のバインダーに用いられる。とくに鋳物砂のバインダーとされるものはシェルモールド用と呼ばれ,鋳物砂に3~4%ノボラックとヘキサメチレンテトラミンを混合し,加熱した金型上に振りかけると砂がかたまり,容易に鋳型をつくることができる。フェノール樹脂の性質は,製法,充てん剤などによって大幅に変化するが,標準成形品の特性は表に示すとおりである。成形は,粉末の場合には圧縮成形(160~180℃,圧力200kgf/cm2,1~3分)あるいはトランスファー成形(シリンダー100℃,金型160~190℃,圧力400~500kgf/cm2)による。最近では射出成形も行われるようになった。溶液の場合には,紙,布,ガラス繊維布,アスベスト布に含浸させて乾燥し,これを必要数重ねて加熱圧縮(140~160℃,圧力100~150kgf/cm2)して積層品とする。棒状,パイプ状にも加工できる。
執筆者:森川 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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フェノール類とアルデヒドの縮合反応で得られる熱硬化性樹脂.クレゾール,キシレノールを主原料としたものを,とくにクレゾール樹脂,キシレノール樹脂ということもある.酸性触媒下の縮合反応では,初期からメチレンでフェノールが連結した生成物が得られ,この初期生成物をノボラックとよび,いろいろな成形品に用いる.アルカリ触媒の存在下による反応では,初期にメチロール基に富むレゾールを生成し,積層剤として用いられる.レゾールも加熱により脱水してメチレンあるいはジメチレンエーテル結合をつくり,架橋硬化する.フェノール樹脂のアルコール溶液または水溶液は,フェノール樹脂接着剤として知られており,加熱により硬化,接着する.木材用としてとくに屋外や水中で用いられる材料の接着に用いられる.また,油溶性フェノール樹脂ときり油とを加熱混合したワニスは,フェノール樹脂塗料とよばれる.速乾性で塗膜の耐薬品性,耐水性がすぐれている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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