機能性出血(読み)きのうせいしゅっけつ(その他表記)Menometrorrhagia

六訂版 家庭医学大全科 「機能性出血」の解説

機能性出血
きのうせいしゅっけつ
Menometrorrhagia
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 機能性出血とは、器質的な異常がない子宮内膜からの出血で、月経以外のものをいいます。子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)子宮がんなどの腫瘍性の病変炎症血液疾患などに伴う異常出血は含まれません。卵巣ステロイドホルモン分泌異常によるものが主であると考えられます。

 子宮内膜はエストロゲンプロゲステロンの2種類の卵巣ステロイドホルモンによって調節され、月経周期の前半でエストロゲンにより増殖し、排卵後はプロゲステロンの作用により分泌像を示すように変化します。

 これらのホルモンの消退により子宮内膜がはがれて出血とともに排出されるのが月経です。

 このように卵巣ステロイドホルモンが減って起こる出血を消退出血(しょうたいしゅっけつ)といいます。一方、卵巣ステロイドホルモンの量が減らないにもかかわらず起こる出血を破綻出血(はたんしゅっけつ)といいます。

 機能性出血は消退出血と破綻出血に分類されます。症状は不正な出血として現れます。排卵周期に起こるものを排卵性機能出血、排卵のない時期に起こるものを無排卵性機能出血といいます。

 年齢との関係でみると、性腺機能の未熟な若年者に起こる出血は無排卵性機能出血が多く、破綻出血によるものがほとんどです。更年期においては性腺機能の低下に伴う機能性出血が多くなります。これは排卵障害が原因ですが、破綻出血、消退出血いずれのパターンもありえます。閉経後出血は月経が停止したのちでも、卵巣ステロイドホルモンの分泌が停止しない時期にみられます。

 また、肥満などに伴い副腎ステロイドホルモンが末梢で卵巣ステロイドホルモンに転換され、子宮内膜がそれに反応して出血することもあります。

 卵巣周期との関係では卵胞期(らんぽうき)出血、中間期出血、黄体期(おうたいき)出血に分けられますが、頻度としては中間期出血が多く、これは、排卵前に増えたエストロゲンによる破綻出血、またはピーク後のエストロゲンの減少に伴う消退出血と考えられています。通常、数日で止まります。

検査と診断

 基礎体温表の評価、血液検査による卵巣ステロイドホルモンならびに脳下垂体(のうかすいたい)ホルモンの測定により、排卵の有無と卵巣機能を評価します。若年者では血液疾患などの全身性の出血傾向(しゅっけつけいこう)を伴う疾患ではないことを確認します。

 器質的疾患ではないことを確認するためには、内診超音波断層法などの画像診断、子宮内膜細胞診・組織診などの病理学的検査が必要です。

治療の方法

 治療は患者さんが苦痛を訴えている場合や貧血などが合併している場合に必要になりますが、軽度のものは経過観察だけです。

 短期的な治療としてはエストロゲン・プロゲストーゲン合剤の投与が有効なことが多く、結合型エストロゲンの静脈注射を行うこともあります。機能性出血を繰り返す無排卵周期のものでは、排卵誘発が長期的に有効な場合もあります。

病気に気づいたらどうする

 機能性出血が疑われる症状がある場合は、すぐに近くの産婦人科を受診してください。子宮がんをはじめとしてさまざまな重い疾患が隠れている場合もあるので、検査を受けることは大切です。

大須賀 穣

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「機能性出血」の解説

きのうせいしきゅうしゅっけつ【機能性出血 Functional Uterine Bleeding】

[どんな病気か]
 月経(げっけい)は、卵巣(らんそう)から分泌(ぶんぴつ)される卵胞(らんぽう)ホルモンと黄体(おうたい)ホルモンとが、周期的にバランスよく変動することによっておこります。
 機能性子宮出血は、これらのホルモンのバランスが、なんらかの原因でくずれることによっておこります。
 つまり、卵巣機能が十分にはたらかないことによっておこる、不正性器出血と考えていいでしょう。
 とくに、排卵(はいらん)がない場合は、黄体ホルモンが分泌されず、機能性子宮出血をおこしやすい状態となります。
 ですから、卵巣機能が不安定で、排卵障害をきたしやすい思春期や更年期(こうねんき)に多くおこり、逆に、卵巣機能が比較的安定している性成熟期には少なくなります。
 出血の量や持続期間には、決まったパターンはありません。1日で止血するものから、1か月以上持続するものまでさまざまです。
 もちろん、長期間多量に出血すれば、貧血となります。
[原因]
 卵巣から分泌されるホルモンのバランスの異常をきたす原因としては、思春期や更年期のような年齢的なもののほかに、精神的なストレス、環境の変化、過度の運動、特殊な薬物の使用(ホルモン剤、精神安定剤、麻薬など)、摂食異常(過度のダイエット、過食)、内科的疾患(甲状腺(こうじょうせん)疾患、糖尿病など)にともなうものなど、多岐(たき)にわたっています。
[検査と診断]
 まず、器質的疾患の有無を確認するために、内診、妊娠反応、超音波検査、帯下(たいげ)(おりもの)培養(ばいよう)、細胞診、組織検査を行ないます。
 これらがすべて異常なければ、機能性子宮出血と診断します。
 つぎに基礎体温や血中ホルモンの測定を行ない、治療方針が決まります。
[治療]
 年齢や排卵の有無によって、治療方針が異なります。
●若年期
 多くが無排卵性の出血です。漢方薬を長期間服用したり、ホルモン剤で月経のような出血を周期的におこし、卵巣機能の成熟を待ちます。
 それでも多量に出血をくり返す場合には、若い人であっても、排卵誘発剤(はいらんゆうはつざい)(「排卵誘発剤の知識」)を使用することもあります。
●性成熟期
 この時期の機能性子宮出血には、排卵性と無排卵性の両方があります。
 排卵性の場合は、卵巣から卵胞ホルモンと黄体ホルモンの分泌はあるものの、分泌量がいくぶん少ないためにおこります。
 ですから、ホルモン剤を少量補充すると、出血は止まります。
 また、排卵性の出血でも、いわゆる中間期出血と呼ばれる、排卵期におこる少量の出血は、病的なものではないと考えられており、ほとんど治療の必要はありません。
 無排卵性の場合は、排卵誘発剤を使用します。
●更年期以後
 この年代では、子宮頸(しきゅうけい)がん(「子宮頸がん」)や子宮体(しきゅうたい)がん(「子宮体がん」)のような悪性疾患が発症しやすいので、細胞診や組織診を行ない、必ずこれらの可能性の有無を確認することがたいせつです。
 悪性疾患でないことがわかったら、ホルモン剤を使って出血を止めます。
 機能性子宮出血の多くは、無排卵性の出血ですが、止血後、排卵誘発剤を使用することは、通常ありません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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