和歌の内容を絵画化し、これに和歌を書き加えたもの。平安朝貴族の耽美(たんび)性を発揮したもので、葦手(あしで)とともに遊戯的な一面を有し、冊子や扇面などに書かれた。『源氏物語』(「梅枝(うめがえ)」)には、「葦手・歌絵などを、思ひ思ひに書け」とあり、「葦手歌絵」を一語とみるかどうか問題にされてきたが、「葦手歌絵」と連続して用いる例はこれ以外にみえない。『源氏物語』の注釈書『岷江入楚(みんごうにっそ)』には、「あしで歌絵は、絵の中を文字に作りたるものなり」と、「葦手歌絵」を一語とみるが、さらに注に他説を引き、「あしでとは葦などを下絵に書(かき)、文字をかきそへたるなり。歌絵とは、やと云(い)へば、矢を画(え)にかき、わといへば、輪をかき、にといふに荷を画にかく也(なり)」と、葦手と歌絵を区別して説明する。のちに、歌絵の意味は、賀茂真淵(かもまぶち)の『源氏物語新釈』に、「歌絵といふは歌の意を常の絵に書きて歌をも常ざまに書き加ふるを云ふ」とする見方が通説とされたが、ほかにも諸説があって定説をみない。
葦手は、書体の一つとして『うつほ物語』などにその名を掲げるが、一方の歌絵は、『栄花物語』(巻第6・「かがやく藤壺(ふじつぼ)」)に、彰子入内(しょうしじゅだい)の調度品として、「弘高(ひろたか)が歌絵かきたる冊子に、行成(ゆきなり)の君の歌書きたるなど」とあり、歌と絵が別々に書かれたようすを知るとともに、文字と絵を組み合わせて水辺の景観などに字隠しをした葦手とは別種のものと判明する。つまり、和歌に挿絵を添えたものが歌絵であると推定される。
[古谷 稔]
平安時代の絵画用語。歌に詠まれた情景を絵画化し,そこに歌の心ばえや情趣を表出させたもの。平安時代のやまと絵は和歌と密接なかかわりをもって展開した。ただし,四季おりおりの景物や名所風景を描く屛風絵,障子絵は原則として歌を伴っているが,これらは歌絵とは呼ばれていない。歌絵はとくに小品画を指す用語であったと考えられる。入内調度や絵合のような晴れがましい場に出される歌絵は,一流の専門画人や書家の筆で美麗にしつらえられ,また画技に自信のある素人がすさび事として描く場合もあった。後者の代表的な作例が五島美術館所蔵の《観普賢経冊子》中の,雪の夜,炉辺で休む貴族の男女と庭の梅樹を描いた絵である。歌絵には絵から歌を判じさせる遊戯的な性格が含まれている。そこで葦手文字を使って歌の一部を絵の中に隠す判じ絵的趣向が流行し,とくに鎌倉時代の手箱や硯箱の蒔絵文様には葦手歌絵が多く見られる。
執筆者:佐野 みどり
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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