歌絵(読み)ウタエ

デジタル大辞泉 「歌絵」の意味・読み・例文・類語

うた‐え〔‐ヱ〕【歌絵】

和歌内容を表現した絵。平安時代流行。歌を書き添えてある場合が多い。
葦手あしで、―などを思ひ思ひに書け」〈梅枝

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精選版 日本国語大辞典 「歌絵」の意味・読み・例文・類語

うた‐え‥ヱ【歌絵】

  1. 〘 名詞 〙 一首の歌の意味、内容などを描いた絵。歌に絵を書き添えたものがふつうだが、絵だけのものもある。また、ある絵に、その情景や主題にふさわしい歌を書き添えたもの。歌、絵、書を同時に総合的に鑑賞するために作られた。障子や屏風絵なども含めることがあるが、多く、冊子、扇子などに書いた小品をいう。→物語絵
    1. [初出の実例]「みちのくにへまかりける人に扇てうじてうたゑにかかせ侍りける」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)離別・一三二四・詞書)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「歌絵」の意味・わかりやすい解説

歌絵
うたえ

和歌の内容を絵画化し、これに和歌を書き加えたもの。平安朝貴族耽美(たんび)性を発揮したもので、葦手(あしで)とともに遊戯的な一面を有し、冊子や扇面などに書かれた。『源氏物語』(「梅枝(うめがえ)」)には、「葦手・歌絵などを、思ひ思ひに書け」とあり、「葦手歌絵」を一語とみるかどうか問題にされてきたが、「葦手歌絵」と連続して用いる例はこれ以外にみえない。『源氏物語』の注釈書『岷江入楚(みんごうにっそ)』には、「あしで歌絵は、絵の中を文字に作りたるものなり」と、「葦手歌絵」を一語とみるが、さらに注に他説を引き、「あしでとは葦などを下絵に書(かき)、文字をかきそへたるなり。歌絵とは、やと云(い)へば、矢を画(え)にかき、わといへば、輪をかき、にといふに荷を画にかく也(なり)」と、葦手と歌絵を区別して説明する。のちに、歌絵の意味は、賀茂真淵(かもまぶち)の『源氏物語新釈』に、「歌絵といふは歌の意を常の絵に書きて歌をも常ざまに書き加ふるを云ふ」とする見方が通説とされたが、ほかにも諸説があって定説をみない。

 葦手は、書体の一つとして『うつほ物語』などにその名を掲げるが、一方の歌絵は、『栄花物語』(巻第6・「かがやく藤壺(ふじつぼ)」)に、彰子入内(しょうしじゅだい)の調度品として、「弘高(ひろたか)が歌絵かきたる冊子に、行成(ゆきなり)の君の歌書きたるなど」とあり、歌と絵が別々に書かれたようすを知るとともに、文字と絵を組み合わせて水辺の景観などに字隠しをした葦手とは別種のものと判明する。つまり、和歌に挿絵を添えたものが歌絵であると推定される。

[古谷 稔]

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改訂新版 世界大百科事典 「歌絵」の意味・わかりやすい解説

歌絵 (うたえ)

平安時代の絵画用語。歌に詠まれた情景を絵画化し,そこに歌の心ばえや情趣を表出させたもの。平安時代のやまと絵は和歌と密接なかかわりをもって展開した。ただし,四季おりおりの景物や名所風景を描く屛風絵,障子絵は原則として歌を伴っているが,これらは歌絵とは呼ばれていない。歌絵はとくに小品画を指す用語であったと考えられる。入内調度や絵合のような晴れがましい場に出される歌絵は,一流の専門画人や書家の筆で美麗にしつらえられ,また画技に自信のある素人がすさび事として描く場合もあった。後者の代表的な作例が五島美術館所蔵の《観普賢経冊子》中の,雪の夜,炉辺で休む貴族の男女と庭の梅樹を描いた絵である。歌絵には絵から歌を判じさせる遊戯的な性格が含まれている。そこで葦手文字を使って歌の一部を絵の中に隠す判じ絵的趣向が流行し,とくに鎌倉時代の手箱や硯箱の蒔絵文様には葦手歌絵が多く見られる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歌絵」の意味・わかりやすい解説

歌絵
うたえ

平安時代の物語や日記に散見する言葉で,物語絵や日記絵に対し,和歌の歌意を造形化した絵画をさす。多くは小品画であったらしい。平安時代のやまと絵は元来,和歌と密接な関連をもち,なかでも月次絵 (つきなみえ) ,名所絵を描いた屏風絵や障子絵は,和歌を伴う場合が多いが,これらは特に歌絵とは呼ばれていない。現存する代表的な作例は五島美術館蔵の『観普賢経冊子』中にみられる。また和歌の情趣やそこに詠まれた情景を造形化するだけでなく,「わ」を「片輪車」,「に」を「荷」で表わすなど葦手絵の手法で絵のなかに歌を隠す判じ絵的なものも作られた。永治1 (1141) 年頃の『久能寺経見返絵』は薬草喩品の経意をこの葦手歌絵の手法で表わしたものとして名高い。

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