死神(読み)しにがみ

精選版 日本国語大辞典 「死神」の意味・読み・例文・類語

しに‐がみ【死神】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 人を死に誘い導くという神。
    1. [初出の実例]「おなじくは今爰でちっ共はやふとしにがみの、さそふいのちのはかなさよ」(出典:浄瑠璃・心中刃は氷の朔日(1709)中)
  2. [ 2 ] 落語。明治二〇年代、三遊亭円朝イタリアオペラ「靴直しクリピスノ」から翻案したといわれる。円遊の「誉の幇間(たいこ)」はこれを改作したもの。貧乏で死のうとして死神に会った男が死神を利用する荒唐無稽なおかしさを描く。ぶっつけ落ちで結ぶ。

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改訂新版 世界大百科事典 「死神」の意味・わかりやすい解説

死神 (しにがみ)

死をつかさどる神。死者の国(冥界)など死者が赴く他界の王や主とされることが多いが,より一般的には,人間や動物に死をもたらす悪霊・病魔が死神としてイメージされることが少なくない。

 インドの死神ヤマYamaは冥界をつかさどり,侍者を遣わして臨終の間際にある者の霊魂をとらえ,宮殿に連れて来させる。そこではチトラグプタChitraguptaが死者の生前の行為の記録を読み上げ,ヤマはこれに基づいて審判する。この観念はインドの方位観や死体処理の仕方に反映している。インドでは南はヤマが住むゆえ,悪しき方角であるとされ,死者は頭を南向きにして寝かされ,埋葬火葬もそのようにされる。アンダマン諸島では死,病気,不幸のすべてが悪霊に帰される。死神は病気の神でもあり,いろいろな不幸をひき起こす神でもある。このように死神の概念には死者の国の統治者が死者の霊魂を連れてきて管理するという意味と,生者に直接死をもたらす悪霊という意味が含まれている。
 →死の舞踏 →死霊
執筆者:

日本の死神は疫病神とは異なり,身体の健康な者を死に誘うという神である。和歌山県田辺では首つり,投身などの自殺者を見つけたときは2人以上で助けねばならない,1人で助けると死神が救助した者につくからだという。また,死神がつくと死ぬのがおもしろくなるらしく楽しそうに自殺するという。これを止めた者が自殺を試みた者と同じ方法で死んだという話がある。その死神も食事をすれば離れるといい,また夜道の山越えのとき首つりをしたくなった者が,行先で餅をごちそうされて急に帰るのが恐ろしくなり死をのがれることができたともいう。

 死神という語は心中を題材とした近松門左衛門浄瑠璃に多く見られる。《心中刃は氷の朔日》の〈小かんと平兵衛の覚悟〉にも〈人顔見へぬ時分に足を限りにいづくでも見事に体(からだ)を並べたい。ひらに待ちやと制すれば 同じくは今こゝでちっとも早ふと死神の 誘ふ命のはかなさよ〉とある。《心中天の網島》にも〈死神ついた耳へは,異見も道理も入るまじとは思へども〉と見えている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「死神」の意味・わかりやすい解説

死神(人を死に誘う神)
しにがみ

人を死に誘う神、または人に死ぬ気をおこさせる神をいう。死神ということは近世になって歌舞伎(かぶき)芝居や花街の巷(ちまた)などで多く口にされるようになった。近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『心中天網島(てんのあみじま)』に「死神憑(つ)いた耳へは、意見も道理も入るまじ」とあり、同じく『心中刃(やいば)は氷の朔日(ついたち)』に「同じくは今こゝでちっとも早うと、死神の誘ふ命のはかなさよ」とある。また三好想山(みよししょうざん)の『想山著聞奇集』に「死に神の付たると云(い)ふは嘘(うそ)とも云難き事」という一節があり、ある女郎に死神が取り憑き客の男と心中を遂げたことが記してある。

 現代においても死神ということは各地でいわれている。彼岸の墓参りは普通、入りの日か中日にするが、岡山県下ではアケの日をサメともいって、この日に参ると死神に取り憑かれるという。また入りの日に参ればアケの日にも参らねばいけない、片参(かたまい)りをすると死神が取り憑くという。静岡県浜松地方では、山や海、または鉄道で人が死んだあとへ行くと死神が取り憑くという。そういう所で死んだ人には死番(しにばん)というものがあり、次の死者が出ない限り、いくら供養されても浮かばれないので、あとからくる人を招くのだという。死神の背景には、祀(まつ)り手のない死者の亡霊が仲間を求めて人を誘うという考え方があったと思われる。

[大藤時彦]


死神(落語)
しにがみ

落語。明治20年代に三遊亭円朝(えんちょう)が、イタリアのオペラ『靴直しクリピスノ』から翻案したといわれるが、明治30年代に三遊亭円左が口演してからよく知られるようになった。「ステテコの円遊」はこれを改作して『誉(ほまれ)の幇間(たいこ)』と題した。借金に苦しむ男が自殺しようとしているところへ死神がきて、死神が枕元(まくらもと)にいれば病気は治らないが、足元にいると治るといって死神退散の呪文(じゅもん)を教える。男はそれを知って医者になって大もうけをするが、遊びすぎて金がなくなる。その後、金持ちの病人によばれ、枕元に死神がいるので寝床を半回転させて病人を全快させるが、だまされた死神が怒り、男は生命のろうそくの所へ連行される。いまにも消えそうなろうそくが自分の生命だといわれた男は、ふるえながらろうそくを継ぎ足そうとするが、ろうそくは継げず、「ああ消える」といってばったりと倒れる。十分にくふうを凝らした6代目三遊亭円生(えんしょう)の「しぐさ落ち」が好評であった。

[関山和夫]

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デジタル大辞泉プラス 「死神」の解説

死神〔曲名〕

アメリカのハードロック/ヘヴィ・メタル・バンド、ブルー・オイスター・カルトの曲。4枚目のアルバム「タロットの呪い」(1976年)からのシングル。全米第12位を記録。アルバムもゴールドディスクとなり、当時のハードロック・バンドの曲としては異例のヒットとなった。「ローリング・ストーン」誌が選ぶ最も偉大な500曲第405位。原題《(Don't Fear) The Reaper》。

死神〔落語〕

古典落語の演目のひとつ。初代三遊亭圓朝が、グリム童話『死神の名付け親』、またはオペラ『クリスピーノと死神』を翻案したものとされる。初代三遊亭圓遊によってサゲが改作されたものは「誉れの幇間」と題する。五代目古今亭今輔が得意とした。オチはしぐさオチ。主な登場人物は、死神。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「死神」の解説

死神
(通称)
しにがみ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
岸柳朧人影
初演
明治19.3(東京・千歳座)

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世界大百科事典(旧版)内の死神の言及

【死】より

…パノフスキーは前者を〈死後志向型〉,後者を〈生志向型〉と呼ぶが,究極においては,ともに,いかに人類が死と和解しようとしてきたかを表しているといえよう。
[生と死の対面]
 第3の型は,このいずれとも異なり,生の最中にこれを脅かし,破壊する恐るべき死神としての〈死〉の表現である。これについては,ヨーロッパの全人口の1/4が死んだといわれる14世紀半ばのペストの流行が大きな契機となったとされるが,その背景として,キリスト教的な世界観の衰退と,現世における生の向上という中世末期の社会状況があったといえる。…

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