死者の書(折口信夫の小説)(読み)ししゃのしょ

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

死者の書(折口信夫の小説)
ししゃのしょ

釈迢空(しゃくちょうくう)(折口信夫(おりくちしのぶ))の小説。1939年(昭和14)雑誌『日本評論』に発表したものに手を加え、43年8月青磁社より刊。大和(やまと)(奈良県)の二上山(ふたかみやま)に葬られた大津皇子(おおつのみこ)の魂が、約70年を経て塚穴の中でよみがえる場面から始まり、その執着の心に絡まれた藤原南家の郎女(いらつめ)が、春秋彼岸(ひがん)中日に二上山頂に現れる仏の姿に宗教的憧憬(しょうけい)を深め、ついに蓮(はす)糸で曼陀羅(まんだら)図を織り上げるまでを描いている。日本人が自ら伝承してきた古代信仰と、新しい外来の仏教信仰との、葛藤(かっとう)と習合の長い変化を、1人の聰明(そうめい)な女性のさとりの姿に集約して示した作品で、作者の古代研究の成果の、小説的表現でもある。

岡野弘彦

『「死者の書」(『折口信夫全集24』所収・1967・中央公論社)』『「山越しの阿弥陀像の画因」(『折口信夫全集27』所収・1968・中央公論社)』『『鎮魂歌――「死者の書」を読みて』(『山本健吉全集9』所収・1984・講談社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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